22/06/21 【感想】十三機兵防衛圏

ゲーム「十三機兵防衛圏」をクリアしました!

いやー、良いゲームでした。
SFをゲームという媒体に落とし込むのも、逆にゲームという媒体をSFという器に落とし込むのも、どちらもめちゃくちゃにうまい。
13人の主人公のシナリオおよびその後の最終決戦をプレイヤーがある程度好きな順序で読み進めていけるというのはゲームだからこそできる実装で、これがSF部分のストーリーテリングに大きく寄与しています。この方式だからこそできる演出やミスリーディングなんかが数多く備わっていて、効果的に機能しています。それと同時に周回プレイや強化に使えるリワード等のゲーム的な要素にもSF的な意味付けを与えていて、ハードとソフトが非常に有機的に合体した非常に完成度の高い傑作となっていました。

パッケージは「昭和の終わり頃を舞台にロボットに乗って怪獣と戦う青春群像劇ハードSF」という本当に令和の時代かと疑うような威容ですが、フタを開けてみると令和の時代だから作れた、令和以前のSFをいいとこどりした作品でしたね。


ここからネタバレ


見せ方がうめェ~~~~!!
ミステリファン的にはもうミスリーディングの技術をあれやこれや見せられるだけでキュンキュンしちゃいます。
しっぽと慎太郎(しっぽに似た野良猫)なんて「複数視点を使用した叙述トリック」の教科書通りな実装じゃないですか。
叙述トリック的なところ以外でも、タイムトラベルがなぜか40年単位でしかできないのは区画の時間設定が40年刻みだからだったり、真相がわかったときがとにかく気持ちいいんですよね。(でもタイムトラベルじゃないなら転送するときのアナログ時計が高速で回転する演出はスレスレな気がするぞ!)

ここからは追想編のクリア順で主人公ごとの感想です。
クリア順…たぶんクリア順なんだけど…途中から順番があやふや。

冬坂五百里

無敵のヒロイン
最初見た目で一番好きだったんですが、やってみたらストーリーも一番好きでした。
やっぱりなんといっても追想編のラストがめちゃくちゃにカッコいい。

無敵の女子高生は…
今どきロボットにだって乗っちゃうんだから!

この起動するとき一瞬上体を少しだけ屈むのがいいんですよ、わかります?

森村千尋の遺伝子から生まれ、AIの家族に育てられ、薬師寺恵に機兵起動の力を付与され、関ヶ原瑛に機兵をもらう。全部なにがなんやら分からないまま与えられたものなんですが、それでも戦う意志だけは彼女自身から湧き上がったもの。だから無敵の女子高生なんです。
夢の中で別の姿をしていたり、森村千尋じゃないと動かせないはずのものが動かせたり、物語を進めていく中で散々「何かあるぞ」と匂わせられてからの最終的に「恋する女子高生は無敵なのでロボットに乗って戦います」が結論なのが良すぎる。様々な人から預けられてきたものが最後に彼女の意志でひとつに繋がり機兵が起動するのがめちゃくちゃに良いんですね。

遅刻しそうで食パンくわえて走っていたらぶつかった男の子に一目ぼれ!というベッタベタな運命の出会いをするわけですが、真相を知ってから改めて考えると、「そうなるように決められている」という意味の"運命"としてはむしろ十郎とくっつくように操作されていたんですよね。にもかかわらず食パン激突一発でそれをひっくり返した、運命を超えた奇跡、必然を超えた偶然だったといえましょう。

冬坂のストーリーはとにかくこれでもかってくらいベタな「日常」ではじまります。日常系きらら空間。
当然その日常が壊され、覆され、裏切られるような展開になるだろうと読む側は思いますし、実際そのように進行していきます。最終盤、彼女にとって当たり前だった日常…お父さんもお母さんも、友人・沢渡美和子も、作り物であることが明かされます。それらはAIが見せる"まぼろし"でした。
関ヶ原からこの世界を一旦捨てて次の世界へ行ってやり直そうと誘われた彼女は、それでもこの世界を守って戦うことを決意します。たとえ作り物だとしても、自分にとってはかけがえのない"本当"だから。
冬坂編以降に解禁されるストーリーでは次々に世界の真実が明かされていき、冬坂編で明かされたレベルを遥かに超えて世界の裏に何層もそれとかけ離れた真実が存在することが判明します。当初見えていた世界、自分だと思っていた意識、自分のものだと思っていた記憶、それらの認識が幾度となく作り物だと明かされていきます。
そのたびに冬坂編ラストで提示された「作り物だとしても、自分にはそれが大切だし"本当"だ」という力強いテーマがプレイヤーの気持ちを前に進めてくれます。繰り返し主人公たちとプレイヤーを決戦へと突き動かす、まぼろしの中で前を向く力。それを力強く宣言した、このゲームの最終盤突入を高らかに知らせる終末のラッパであり進軍のラッパでもある、最高のラストシーンでした。

ところで千尋の半身だから五百里なんでしょうか。

鞍部十郎

ザ・主人公。なんだかんだ一番好きな男性キャラです。
十郎のシナリオもやっぱりラストが最高ですよね。最後の最後で柴久太と「腐れ縁の幼なじみ」に戻って歩道橋の上で語り合うのがめちゃくちゃ良い。実際、十郎にとって柴久太が腐れ縁で幼なじみなのは本当なわけで。最終的にここに帰ってくるのがとても良い。帰ってくるに至る心境の変化の描写とかも特になく、なんだかんだ一緒に世界の終わりに立ち会っているというのが良いんですよ。

さっきから「良い」しか言ってないわけですが、十郎編って特に具体的にし辛い気持ちの良さであふれてると思うんですよね。
まず友人に借りる怪獣映画が夢に出てきて、そこに自分やクラスメイトがいて…って物語の導入としてすっげえワクワクさせるじゃないですか。

戦闘の方でも発動しやすいパッシブ複数に加えてセントリーガンと主力の腕部ピアッシングキャノン(Switch版専用装備)、ヘビーナックルの殴りや必殺のプラズマアーク溶断機などで幅広く活躍してくれました。特に最終戦は専用スキルが大暴れでしたね。
ていうか最終戦めっちゃいいですよね!このステージ名を見た瞬間に高ぶらないプレイヤーが存在するだろうか!?
そしてバトルの内容が「ひたすらに防衛せよ」というのが最高。これまでのボスステージの傾向から特定の何かを倒すのかと予想していたんですが、ここへきてタワーディフェンスをそれまで登場した全種類の敵に対してやるという総決算でした。タワーディフェンス好きにはたまらないステージでしたね。

薬師寺恵

恵のスカート短すぎるだろ!
十郎と並んで立つと十郎の学ランの裾と薬師寺のスカートの裾が同じくらいの高さにあって脳がバグります。
それでいて冬坂はあんなにパンチラするのに薬師寺は鉄壁ガード。これがシールドマトリクスですか?
太もも全部見えてるんじゃないかってミニスカートにニーソで絶対領域も完備。これがシールドマトリクスですか?
また薬師寺の素晴らしいところは僕が個人的に大好きな制服エプロンをやってくれるところですね。料理がうまくてセクシーで献身的で白馬の王子様にあこがれる乙女で第4世代で唯一強制冷却装置を持ってる完璧女子。

薬師寺のストーリーラストもこのゲームらしいグッドエンドで大変好みです。十郎にとっては薬師寺への意識は第三者の手で植え付けられたものなのだけれど、それでも芽生えてしまった気持ちは本当で、二人で前に進めるようになる。いやー良かった良かった…と思ってたらエピローグでまさかのアダムとイヴにまでなってしまった。
十郎編は柴くんエンドで、薬師寺編で薬師寺とくっつくってのがこのゲームのニクいところですよね。

緒方稔二

…改めて…思い返すとこいつ…追想編の半分を駅のホームと電車内で過ごしてないか…?
如月編のストーリーでよく一緒に行動してるのであんまりそんな印象はなかったのですが、彼個人のシナリオだけ見返したら半分がヘッドギア被せられて鍵探してました。

この鍵探しパート、「同じシーンを何度も繰り返して分岐を埋める」というADVゲームのシステムをシナリオに落とし込んでいる点がとても好きです。
最終的に薬師寺に救出されるわけですが、薬師寺ほんとよく働くな…。
このゲームの主人公たちはすごく働くキャラと振り回されるばかりで働かないキャラに大きく分かれるのですが、すごく働いてそうな雰囲気を出しながら実は何もしていないのが次の人です。

東雲諒子

あまりに…あまりに辛い…
追想編ラストの悲壮さは13人の中でも際立っています。そしてこういう悲恋キャラ…僕に刺さるんですよね…。信用できない語り手で、実はお前がその犯人なんだと突きつけられて膝から崩れ落ちるのも、声が早見沙織さんなのも、僕にめちゃくちゃ刺さる。
麻耶雄嵩作品の主人公みたいなキャラが早見沙織ボイスでしゃべったら好きにならないわけがないんだよなあ。5月29日は麻耶雄嵩先生と早見沙織さんの誕生日なので国民の祝日にしましょう。何の話だ。

他の主人公の目線も合わせて見るとこの人は怪しすぎて逆に怪しまないレベルの狂人なんですが、狂人だということは人狼ではないだろうと思っていたら実は人狼だったという衝撃の真相。
オリジナルも1周前も現世もなにかしらシャレにならないことをやってる人なんですが、セントリーガンを2個置けるので許されているのかもしれません。
薬師寺も十郎への慕情をくすぐられて同級生どころか親友まで銃撃していくわけで、「薬師寺は騙された相手が良く、東雲は騙された相手が悪かった」と個人的には思っています。

オリジナル東雲はダイモス襲撃を仕込んで箱舟計画をめちゃくちゃにし、記憶喪失前の東雲は機兵に汚染を仕込み、今回の東雲は殺人を犯したけれど、でもセントリーガンを2個置ける!

網口愁

網口くん、なんか僕の中で影が薄いんですよね。
深夜のテレビからアイドルが語りかけてくるシーン、ずっと広がっていると思っていた街区に終端があることを発見するシーン、どちらも鮮烈でハッタリの効いた名シーンです。どちらも「見かけの"日常"へSF的日常が侵食してくる」ことが鮮やかに表す素敵な演出。
でもなんか妙に印象が薄い。あんまり他のキャラとの絡みがないからかなあ…。それとも半身たる井田がどうしようもない奴だからか。

如月兎美

逆に他のキャラのシナリオによく登場するのでやたらと存在感があるのがこの如月。沖野まで手玉に取るのだからすごすぎる。
前世である因幡深雪と合わせて2人ともとにかく善性の人である上にシナリオでもテキパキと活躍してくれる、このゲーム随一の良心。コミュ力の塊。あまりに1985年に馴染んで生活しているものだから、時々未来人だということを忘れそうになります。

戦闘でもハイパーコンデンサーによるレールガン2連射やSwitch版専用装備の超長距離ミサイルなどで活躍してくれました。

三浦慶太郎

住む場所と温かい食事をすんなり得られた方の帝国軍人。いいやつ。
ハンバアグに感動したりブルマにドギマギしたり、戦時中から1985年に転生した帝国軍人のタイムスリップものとして楽しめるシナリオです。
しかし全体のストーリー上の立場はかなりトリッキーで、早い段階で2188年の初代三浦慶太郎が戦時中に生まれてみたいとか言ったり、BJがミウラと呼ばれていたり、ミスリーディング要員として本人の預かり知らぬところで活躍していたのでした。

鷹宮由貴

スケバン学園探偵見参!
相葉絵理花(偽)との珍道中がとにかく微笑ましくて、かなり好きなシナリオです。最終的に網口とくっつくわけですが鷹宮本人はなっちゃんのことばかり考えているので、本編中における網口の影の薄さに一役買っています。

このゲームはプレイスタイルによって「戦闘で誰が活躍したか」が大きく分かれると思うのですが、僕は鷹宮と南が特に活躍してくれました。
鷹宮は第4世代特有の支援能力に加え、Switch版専用装備のクアッドレッグスパイクが非常に使い勝手が良かったです。接敵や裏取りに移動が必要という近接武器の泣き所が飛行移動で全部解決されており実質確定バックアタックな上に空中の敵にも当たる。グラディエーターも一方的に倒せるデカブツ殺しとして八面六臂の活躍をしてくれました。

南奈津乃

個人的にはだいぶ問題児でした。
何ってBJのうさんくささよ!後から見ると何一つ悪いことをしていないひたすらに味方だった奴なんですけど、序中盤の時点ではそんなことわからないわけで。地球外から怪物が攻めてくるぞって思ってるときに明らかに地球外から来たメカがお友達ヅラしてたらそりゃ怪しくてしょうがないわけじゃないですか。でも南は全然疑わない。「南ー!!後ろ後ろー!!」って感じにすっげーもどかしかったです。

戦闘面では鷹宮と並んで大活躍してくれました。
Switch版専用装備の高精度マシンキャノンが超優秀。シールド貫通の遠距離攻撃で雑に連射できる性能なのにWTがたったの3.3秒、しかもそこに強制冷却装置も積んでいるのだからもうずっと俺のターン。更に攻撃前に移動できるためパッシブスキルの「ウォーミングアップ」を毎回乗せられて…ほんとに優秀な戦力でした。唯一倒せないグラディエーターは鷹宮がキックだ。

関ヶ原瑛

記憶を失ったときに持っていた物のうちひとつがボタンを押すと自動運転でやってくる未来のバイク、ひとつが伝言ダイヤルの番号。時代の高低差がすごいな!?
冬坂シナリオでの活躍は言わずもがな。片方が熱を上げるカップルの場合、もう片方の個人シナリオではあまり意識されないパターンが多いのですが、瑛くんはちゃんと冬坂への意識があります。まあ初対面でパンツ見たしな。

比治山隆俊

焼きそばパン宣伝大使
まさかこいつがこのゲームきっての萌えキャラだとは。人生とはままならぬものだな。なんでゲーム終盤にもなって小銭拾って焼きそばをパン買うミニゲームやるんだよ!ジュースは一日一本だじゃないよ!普通に破るし!
帝国軍人兼ホームレス兼萌えキャラという意味不明な一人三役をこなす比治山くん。これだけで要素が多すぎるのですが更にカップリングのお相手は女装男子。しかも珍しい、前世と同じカップリング。月の光に導かれ何度も巡り合うミラクル・ロマンス。
焼きそばパンの君・薬師寺にかしずいたり初対面の東雲先輩に一目惚れしそうになったりなど何気に気の多い男なのも萌えポイントです。
人気投票2位もうなずける。

郷登蓮也

実質答え合わせ編。実質森村千尋編。
園児服のディテールへのこだわりが尋常じゃなくて怖いよ…。
色々知りすぎてたり得体の知れない勢力とよく行動してたりで追想編の攻略中ずっと「怪しい」ポジションではあるのですが、最終戦で味方として出撃することは判明しているのでその点である程度信用のおけるキャラでした。
そのため「色々知ってそうな人は大体怪しいので言うことを信じていいかわからない」中で「信じてよさそうな情報」として機能していたと思います。

その他の人たち

井田鉄也

お前ちょっと報われすぎじゃないか?…ってエンディングで思いませんでした?僕は思いました。
セントリーガンの2個置きもできないのできっと許されてないと思います。

森村千尋

白衣のサイズ合ってないですよ
爆乳保険医、ムチムチラバースーツエージェント、博識ロリ園児博士という性癖の煮こごりのような存在。最後のは厳密には別個体ですが。
老齢の森村博士の立ち絵もよく見るとやっぱりデカいので遺伝子にデカさが確定レベルで刻まれているのでしょう。ということは冬坂も確定ですね。
人類を消し去ってしまおうとした東雲や静的に滅びを待つだけの世界にしようとする森村先生は、この思想でありながらラスボスではないということも含めて、アトラスのゲームっぽいキャラだなと思います。

和泉十郎

柴久太でしっぽで相葉絵理花(偽)。3人もの主人公のシナリオで相棒ポジをつとめた超超超働き者。このゲームの影の主人公といえるでしょう。他の一人数役キャラと違って、柴久太としっぽは同時進行でやらないといけないためとんでもなく忙しかったのではないでしょうか。
彼の視点からシナリオを全部追ったらめちゃくちゃドラマチックでめちゃくちゃくたびれる内容になるだろうな…。お疲れ様でした。