22/12/03 【感想】消えた戦法の謎―あの流行形はどこに!?

最近ちょこちょこ読んでた勝又清和『消えた戦法の謎』を読み終えました。

以前も何度か読んだことがあるのですが、この記事を読んだらまた読み返したくなったんですよね。

さて、本書は将棋棋士・勝又清和による2003年刊の棋書なのですが、将棋の戦法の中でもその時流行っている戦法などではなく「もう消えてしまった戦法」について解説しているのが非常にユニークな本です。

勝又先生一流の筆致でその戦法の興りから衰退を辿るのですが、決定的な対策が発見されて消えるものもあれば、そもそも相手が乗ってくれなくてその局面にならないというものや、「難しすぎて指せる人がいなくて消滅」というものまであります。

やっぱり面白いのは最後の「難しすぎて」ですよね。
独特のセンスと技術により独創的な作戦を次々披露し「名人に定跡なし」と言われた十六世名人・中原誠が指した「中原流」と名のつく戦法がこのルートを辿っています。中原名人しか指せない。
将棋の定跡というのは誰が指しても同じ手順のはずなのですが、その先で個人の才覚の領域に入った時にそこから勝ち切れるのが中原名人しかいなかったということです。
そしてこの天才の才覚がスパークする戦法の数々がとにかく芸術的。読んでいて惚れ惚れします。
以前から言っていることですが、研究にAIを使うようになった現代将棋のバランス重視・相掛かりの流行を見るに、中原先生の棋風にバッチリはまるはずなので、今現役バリバリで指されていたらどんな将棋を創っていたのだろうと考えてしまいます。

また2003年に出た本書の中では「消えた」と言われた戦法が新しい発見や流行の変遷によって今では復活したりしているのも面白いところ。
石田流はこのあと久保先生・鈴木先生の発明もあって一躍主流戦法になって、勝又先生の次の著作『最新戦法の話』に取り上げられたりしています。少し前には角換わり相早繰り銀が結構指されたりしてましたよね。
あと、たまに観戦していると土居矢倉の流れから中原流急戦矢倉の形になっているのを見かけることがあって、そのたびにテンション上がってました。
当時は指しこなせる人がいなかった中原流に時代が追いついたのかもしれませんね。