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ハンド・イン・ハンド、エルサレム校  父母たちへのインタビュー1

私は将来、娘をユダヤ人とアラブ人の子供たちが共に学ぶ、エルサレムのハンド・イン・ハンド(Hand in Hand) 幼稚園に通園させたいと思っている。そこで私は子どもをハンド・イン・ハンドに通学させている親たちに興味を持ち、昨年12月、それぞれ宗教の異なる親たちにインタビューした。今回からシリーズでそれぞれの父母たちの意見を紹介する。

平和に共存できる未来に確信


モハメッド・アイード、(アラブ人父親)
宗教: イスラム教徒
職業: タクシー・ドライバー(現在)
出身地: アブ・ディス(Abu Dis )
学歴: アメリカ・カンザス大学卒業
息子:15歳 Hand in Hand エルサレム校に在学中(HIH 歴 9年)


子供を通わせた動機は?:
子どもに異なる文化を知ってもらうこと、そしてアラブ文化を自覚する機会を与
えたかった。私はヨルダン王国時代の東エルサレムに生まれた。幼少時のイスラエルユダヤ人のイメージは、メディアによって形づくられたもので、私は彼らも同じ人間とは思っていなかった。1967年に東エルサレムがイスラエルに併合され、初めてユダヤ人に会った時、私と同じ人間だということに気づいて、まず驚いた。その後私はアメリカ、ヨーロッパ、中東諸国で過ごし,世界にはいろいろな人、いろいろな文化が存在することを知った。

そして異なる文化の中でも共通事項を探すことの重要性に気がついた。そのような広い理解力を子どもにも持ってほしいと思った。たま現在のイスラエル社会ではユダヤ系の方が社会的に成功する可能性が高いのでそのユダヤ社会を知ることは,将来子どもにとって有利だろうと思った。

HIH の教育方針は、ユダヤ社会を子どもに押し付けるものではなく、アラブ人にイスラム教徒としてのアイディンティティーを自覚させ、それを誇りに思う教育でもある。私はこれは素晴らしことだと思う。

実際に子どもを通わせて何か変わったことは?
アラブ人ユダヤ人の子どもたち同士が自由に往き来している。これはとても素晴らしいことだ。HIH 校ができる前、私は2歳3カ月の息子をユダヤ人地区の保育園に通わせた。息子は、保育園で唯一人のアラブ人だった。しかし先生たちは息子に一目置いて大事に育ててくれた。当初息子はヘブライ語がわからなかったけれど、3カ月で話せるようになった。また、一度他の子どもに「アラブ人は悪い」と言われ、傷ついて帰ってきたことがあった。息子に「ユダヤ人も悪い」と言い返せと言った。でも、「ユダヤ人にも良い人がいるようにアラブ人にも良い人がいる」こと、そして、ものごとには二面性があることを教える良い機会になったと思っている。

多くの親たちは同じ目的で子どもを HIH に通わせている。親同士は仲が良く、それを見て子どもたちも仲良くなっていると思う。私たちはアラブ人地区に住んでいるが、我家に泊まりに来たユダヤ人のクラスメートが、「ここはとても良い所だから、ここに住もうよ」と親に電話しているのを聞いて嬉しかった。また子どもの誕生日パーティに息子のユダヤ人の友達を招いた時、子どもをアラブ人地区に行かせることを懸念する“新米の親”がいた。経験のある親たちが「彼らは大丈夫。責任をもって子どもたちを預かってくれる」と言ってくれた。これも嬉しかった。

高校を終わってユダヤ人生徒が軍隊に行くに当たって:3年後にはユダヤ人の子どもたちは兵役に行くが、もしウエスト・バンクのチェック・ポイントで息子が学友に会ったら、2人は抱き合って再会を喜ぶだろうと私は確信する。

良い点,悪い点は?
強いてあげれば:多くのアラブ人が子どもに良い教育を与えようと思ったら、私立のキリスト教系の学校に入れる。私もかつてそうだった。そこでは確かにキリスト教文化などは学べるが、民族的にはアラブ人生徒のみだった。HIH 校ではユダヤ教、キリスト教、イスラム教の文化も学べるし、ユダヤ人のことも知ることができるので良いと思う。どのみち自分の息子には宗教原理主義者にはなってほしくない。他者との違いよりも、「同じであること」にも注目できる子になってほしい。

強いて悪い点を言えば、男女交際がオープン過ぎることで、アラブ社会ではそれらは秘めごとであり、自分の時代には考えられなかった。しかし今の時代を昔と比べても仕方がないのかもしれない。

また、今は分断の壁のため、学校に行くのに迂回しなければならず、通学に片道40分以上かかる。月謝は通常の公立に比べて高く、年間6−7千シェケル(約1600~1900ドル)かかる。この出費は今の私には負担が大きいが、それでもがんばって通わせたい。

周囲の反応は?
あこがれと嫉妬が入り交じった感情だね。私は、アブ・ディスに住んでいるので、周囲の人々はまだイスラエルに対して偏見を持っているのを知っている。しかし私は周囲から意志の強い人間と思われており、あまり非難されることはない。また誰かがそのようなことを言う時は、私の考えをきちんと伝えられるので、あまり気にしていない。また私たちの住んでいる地区は大方がイスラエル国籍を持っていないので、HIH 校に通わせることができない。しかし、きっと多くの親がうちの息子を見て、できれば子供たちを HIH 校に入れたいと願っていると思う。私の親戚は理解を示している。息子には同年代の従兄弟たちがいて、とても仲が良い。また息子は周りの子どもたちにある意味で新風を吹き込んいる。例えば息子の誕生日に HIHの子供や近所の子を招いて、普段接する機会がない子どもたちにお互いを知る機会を与えている。その時に、あこがれと同時に嫉妬に似たものを感じることがある。その点では子どもたちの関係に注意している。大まかに言って、息子はリーダーシップをとる性格で、周囲から一目置かれている。息子が8歳のころ、一度だけ従兄弟と同じアラブの学校に行きたいと言った。子ども心として、一緒にスクールバスに乗りたかったためだ。数カ月後、まだアラブの学校に行きたいかと聞いたら、HIH にそのまま残りたいと答えてくれた。

父親として、子どもには私が最高と思う環境を作ってあげたい。自分が子供の時に得られなかった、異文化理解と共存という機会を子どもに与えることができるのは嬉しい。また、今のところ息子は私に何でも打ち明けてくれるので、助けが必要な時にはいつでも助言できるようにしている。このような方法が将来、両民族間の共存に繋がると思うか?:もちろん。みんながこのような環境に育てば,両民族が平和に共存できる未来が絶対に来ると私は確信している。(2010/04 筆記)


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中島ヤスミン
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