(一話紹介)二千年前のうさぎと亀

うさぎと亀が山の麓まで競走した話の言い伝えは、よく知られていますが、実はそれより二千年前にも、うさぎと亀は競走しました。
よく鶴は千年、亀は万年と言われますが、当時は獣医さんもいなかったので、十年生きれば超長生きと言われていました。

その二千年前の競走は、「五合目達成」という札を持って、山の登山口からピクニックコースを走り、五合目の山小屋で「五合目達成」のスタンプを押してもらい、登山口に戻ってくるものでした。
スタートは、鶏のコケコッコーで切られ、うさぎは勢いよく走り出し、亀はマイペースで、ゆっくり着実に走り出しました。

うさぎと亀の差は、開くばかりでした。うさぎが、四合目と五合目の途中に達した時には、亀はまだ一合目と二合目の間にいました。
「これなら、五合目の山小屋でお茶を飲みながら、お菓子を食べて、ゆっくり歩いて山を下っても、亀には負けない」と思い、「それなら亀にいじわるをしよう」と、うさぎは悪だくみを思いつきました。

亀が山小屋に達することも、登山口に戻ることも、誰かが通りかかって助けてくれない限り、出てこられないような、大きくて深い落とし穴を三つ作り、見た目では落とし穴だと誰も分からないように、木の枝や木の葉を覆い被せて、落とし穴を完成させました。

うさぎが、落とし穴を作り終わっても、亀はやっと三合目の手前です。うさぎは喜び、急いで山小屋まで走り、まず「五合目達成」のスタンプを押してもらった後、おいしいお菓子を食べ、ジュースや英国風紅茶を飲んで横になりました。

うさぎは余裕で休んでいるばかりでなく、お昼も食べてから山を降りようと考え、山小屋のヤギのおじさんから献立表をもらっていると、落とし穴に落ちているはずの亀が、五合目の山小屋に到着しました。
山小屋のヤギのおじさんに、「五合目達成」のスタンプを押してもらっているところを見て、うさぎは、びっくり仰天でした。亀は体重が軽くて、三つの落とし穴は全く効果なく、安全に通れたのでした。

それでも、うさぎはお昼を食べても急いで走れば、楽勝と思い、ゆっくり食事もしてから走り出したのですが、自分が落とし穴を作ったことをすっかり忘れていて、しかも誰にも分からないほどよく出来た穴だったので、自分が掘った穴に気がつかず、五合目に一番近い穴に落ちてしまいました。
梯子を使って作った穴だったので、深すぎて、うさぎの跳躍力を以てしても、穴から出ることができませんでした。

亀はすずしい顔をして、登山口の羊のおばさんに「五合目達成」のスタンプを見せて、亀の勝ちが決定しました。
うさぎは、大きな声で助けを求めました。
その声に気づいたヤギのおじさんが来てくれて、「どうしたの」という問いかけに、仕方なく、うさぎは正直に答えました。
「どうしようもない奴だな、お前は。どうせ助けてあげても、お前はまた悪いことを考えて、何か悪さをするんだろ」
「もう二度と悪いことを考えたり、やったりしません。一日一善を心がけます」
うさぎは、泣きそうな顔をして答えました。
うさぎは、おじさんに「どうしようもない奴だな。呆れたよ」と言われながらも助けてもらい、おじさんの監督の下で、落とし穴を三つとも元どおりにしました。

うさぎは、おじさんに「こんな悪いことは、するんじゃないぞ」と叱られ、肩を落として歩いて山を下り、登山口に戻った時にはもう日が暮れていました。
うさぎは、登山口の羊のおばさんにも「悪いことを考えるからだよ」と叱られました。
二千年後のうさぎも、二千年前の話は、勉強になっていませんでした。


(おわり)

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