ショートショート『注文を間違える料理店』

ホールスタッフが認知症を患った人達というレストランがある。そこは注文や配膳を間違えることが当たり前として存在する。優しく温かい心が無ければ客にはなれないのだ。

とある国の首相は、そのレストランの噂を耳にするなり「それは面白い」と、近く来訪するある国の大統領との晩餐会の会場にそこを選んだ。
とある国の首相は悪戯好きで、ある国の大統領は極度の短気で負けず嫌いでもある。

注文を間違える料理店にて、首相が大統領を歓迎する。

「大統領、今日は自由に注文が出来るお店での晩餐会になります。メニューの中からお好きなものを選んでください」

「それはありがたい。好き嫌いがあるからね。どれどれ、メニューを。ふむふむ……」

「大統領、好きな食べ物は何ですか?」

「大好物はチーズバーガーだね。我が国のハンバーガーは世界一さ」

「あいにくこの店にハンバーガーはございませんが、ハンバーグステーキならあります。うちの国の上級の牛肉を使用したハンバーグは最高に美味しいですよ」

「確かに君の国の牛肉は柔らかくて甘みがあって美味しいともっぱら評判だが、我が国の牛肉は歯ごたえがあって臭みが少ない。そして何と言っても安価だ。我が国の牛肉は最高さ」

「しかし、某ハンバーガーチェーンでは牛肉ではなく犬肉を使っていると噂になってますが?」

「ああ、それは隣国人用さ。キャンキャン吠えるあいつらには犬肉で充分さ」

「・・・」

「ジョークだよ、ジョーク。ガハハハ」

大統領はハンバーグステーキを注文した。首相としばらく談笑していると奥から料理が運ばれてきた。
注文したはずのハンバーグステーキではなくジャンバラヤが目の前に置かれたが、全く顔色を変えずに何事も無く食べ始めた。

「なるほど。このジャンバルジャンはスパイシーで美味しい」

「ジャンバラヤですよ」

「そうそう、シャングリラ」

「ジャンバラヤです」

「ジョークだよ、ジョーク。ガハハハ」

大統領は舌ドラムを叩いて、その店の料理を絶賛した。首相は拍子抜けした。大統領が間違えた注文に対して憤慨し、大きな声で荒立てると思っていたのに期待はずれだったのだ。悪戯は失敗した。

晩餐会は何事もなく平凡に終わった。

大統領は装甲車並みの防備をした大統領専用車輌に乗り込みレストランを後にした。

「見たか、あの首相の顔。まるで鳩が機関銃を撃って快感した様な顔だったな」

大統領がシークレットサービスでもある運転手に向かって喋り出した。

「大統領、それを言うなら鳩が豆鉄砲を食った様な顔です。あの首相は変わった人ですね。悪戯は百害あって一利なしです」

「あぁ……注文を間違える料理店を晩餐会の会場にするなんて、ふざけたことを考える奴だ。百戦錬磨のこの俺にドッキリを仕掛けるなんて百年早いわ。むこうの出方は百も承知二百も合点。彼を知り己を知れば百戦殆うからず。可愛さ余って憎さ百倍。百年の恋も一時に冷めるわ。ガハハハ」

「本当に負けず嫌いですね」

「ところで今何時だ?」

「もうすぐ9時になるところです」

「腹減ったな。晩餐会の料理だけでは物足りなかった。そうだ、途中に我が国のハンバーガーチェーン店があったろ。そこに寄ってくれ」

車はハンバーガー店のドライブスルーに寄った。注文し商品を受け取ると宿泊先のホテルに向かった。大統領は我慢できずに袋を開けた。

「やっぱコレだよな。チーズバーガーとコーラ……ん?あれ? これ? チキンバーガーア?」

注文した物と袋の中身が違っていたのだ。大統領は憤慨し、運転手に八つ当たりした。

「違うーだーろぉ、このハゲェェーー!!!!!」

「大統領、運転中なので殴るのはやめてください。チキンバーガーいいじゃないですか。お似合いですよ」

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