リンク召喚

遊戯王リンク召喚は失敗だったのか?

1.はじめに

遊戯王は2020年4月からマスタールールの変更が行われます。前回の新マスタールール改訂ほどでは無いものの、今回の改訂は良くも悪くも多くのユーザーを賑わせたものとなりました。
それに加え、ルール改訂と同時に『ラッシュデュエル』という新たな対戦形式が設立され、このラッシュデュエルをベースとした世界観のアニメ『遊戯王セブンス』が4月から放送されるようです。

今回の記事では『リンク召喚は失敗だったのか?』というテーマでリンク召喚、マスタールール、ラッシュデュエルについて1プレイヤーとしての感想を述べて行きます。

いきなりですが、リンク召喚のある環境を3年間プレイしてきた私としては

『リンク召喚は成功だったが、新規ユーザー獲得方法としては失敗だった。』

という感想です。
皆さんはどうお考えでしょうか?

2.背景

新マスタールール(2017.4~)では、リンク召喚の導入とルール改訂により、融合(以下F)シンクロ(S)エクシーズ(X)等のエクストラデッキから特殊召喚するモンスターはエクストラモンスターゾーンもしくはリンクモンスターのリンクマーカー先にしか正規召喚出来なくなってしまいました。
つまり、エクストラモンスターを大量展開するためにはリンクモンスターを経由する必要があり、F、S、X召喚を主軸とするデッキでも必然的にリンクモンスターの採用が求められることとなりました。S、X、F召喚は弱体化することとなり、今まで通りの展開が出来ないことに不満を持ったユーザーの引退と、S、Xモンスターの価値の暴落によるショップへのダメージを招いてしまう結果となりました。


俗にいう『リンクショック』から3年後である2020年4月からのマスタールール(2020)では、エクストラモンスターゾーン等のフィールドはそのままにF、S、Xモンスターはリンクマーカーやエクストラモンスターゾーンに関わらずメインモンスターゾーンにいきなり出すことが可能になります。

ルール変更の影響でF、S、Xモンスターは強化、リンクモンスターやエクストラデッキからのペンデュラムに関してはこれまでと同じくエクストラゾーンかマーカー先にしか出せないため、強さは据え置き(相対的に弱体化)という処置です。

このルール変更に対して、F、S、Xデッキを使用していたプレイヤーやリンク環境に飽きていたプレイヤーからは『素晴らしい改訂』と絶賛されていましたが、同時に『最初からそうして欲しかった』『リンクが失敗だったから戻したんだろう』という声もよく耳にします。

確かに『リンクショック』はプレイヤー、ショップに多大なるダメージを与えましたが、果たして遊戯王はリンク召喚が失敗だったからルールを戻したのでしょうか?

3.リンク召喚の成功の秘訣

冒頭に述べたように私は『リンク召喚は成功だった』と思っています。その成功というのは、遊戯王のユーザー拡大や売上的な意味合いでなく、競技目線で考えたときに、1プレイヤーとして遊戯王がより面白くなったと実感したのです。

その理由は大きく3つあるのですが、
①エクストラデッキの汎用性の向上
②位置の重要性
③リンクモンスターの特性の面白さ

です。

理由①エクストラデッキの汎用性の向上

リンク召喚はS召喚のようにチューナーも要らず、X召喚のようにレベルを揃える必要もないため、既存の召喚方法と比較して最も簡単で条件が緩い召喚なのは間違いありません。緩いということは『誰でもエクストラデッキを使える』点と『対戦中の選択肢が増える』点でメリットがあります。


私はトロイメアフェニックスが最もリンク召喚の魅力を伝えれるカードだと思っています。
例えば、相手がマクロコスモスのような厄介な永続カードを使ってきたとして、従来の遊戯王では

(1)メインギミックに除去効果を持つテーマ

(2)エクストラデッキに除去効果を持つSXFモンスターがおり、それを出せるデッキ

(3)サイクロン等の除去カードの採用

これらどれか条件を満たさなければ突破できません。
しかし、トロイメアフェニックスなら名称の異なるモンスター2体を並べるだけで破壊できてしまうのですから、簡単なものです。今までならレベル4モンスターを2体並べてダイヤウルフを出さなければ突破出来なかったかもしれません。それが、モンスターを主軸にした一般的なデッキであれば解決する方法を持つことができます。
トロイメアフェニックスだけでなく、攻撃力が高いモンスターはアストラム、対象に取れないモンスターならニンギルス、のように対戦中の多くの詰みパターンの解答をエクストラデッキで持つことができるのです。

結果、リンクモンスターによりあらゆるデッキが柔軟性を手にいれ『引けないから負け』『デッキに対抗カードが無いから負け』が起こりにくくなっています。

さらに、誰でも使える汎用エクストラカードは新規カードの登場により、多くのデッキを平等に強化することができます。新規カードが登場しても、『シンクロデッキじゃないから関係ないね』『僕のデッキだとレベルが合わないから使えないな』それだとデッキの強化も楽しみ方も格差が生まれてしまいます。
汎用性を追及したリンク召喚はそんな格差を生むことなく全てのプレイヤーに『自分のデッキに必要なリンクモンスターはどれか?』『この状況で有効なエクストラの選択肢はどれか?』という考える楽しみを与えてくれました。

理由②位置の重要性

また、リンク召喚の導入により位置の概念が定着しカードの多様性や戦術の広がりに貢献しました。新マスタールール公開当初は『枠無しフィールドが使えなくなる』だとか『面倒だ』という声も多かったのですが、今では当たり前になっています。位置の概念が導入されたことで

『この位置にセットしたということは無限泡影か....?』
『この位置にしたせいでアニマに吸われてしまった!』
『リンク展開の邪魔にならないために、この位置に置こう』

といった今までにない読み合いやプレイングが生まれ、ゲームがより奥深くなりました。そうなるほどやり込み甲斐があるので、新召喚方法と同時に位置の概念を取り込めたのはリンク召喚の功績だと思います。

理由③リンクモンスターの特性の面白さ

リンクモンスターの特性により、カードの強さに大きな変化が生じ、プレイヤーにとって刺激となりました。
リンクモンスターの特徴としては

『モンスターを簡単に墓地に送れる』
『守備表示がない』
『トークンが活用できる』

点が特に大きいと感じます。
もちろん、リンク召喚の特性によって強すぎる効果から禁止カードになってしまう事例も多く生じたのですが、これまで採用されなかったカードにスポットが当たったことが1プレイヤーとして新鮮でした。

以上の理由から、リンク召喚はS召喚やX召喚とは比にならない革命的な召喚方法だと感じました。
リンク召喚が強すぎる故にどのデッキもソリティアのような展開を行うことや、手札誘発が必要不可欠な点、先攻ワンキルやループを多く作ってしまった点はリンク召喚の汚点です。その点や、プレイヤー離れを招いてしまった点を除いてゲームの面白さ、という観点で見ればリンク召喚は成功だったと思います。

4.リンク召喚の失敗

しかしながら、リンク召喚は新規ユーザー獲得においては効果的でなかったようです。実際それはアニメ遊戯王VRAINSが通常よりも半年も早く打ちきりになってしまったことからも物語っています。

私は業界人ではないで、実際の売上実績等エビデンスありきの話は出来ないため、あくまで1プレイヤーとしての感想になってしまうのですが、リンク召喚は初心者には難しいギミックであり、リンク召喚ありきのゲームになっている現状で全く遊戯王をしたことの無いプレイヤーにもオススメは出来ません。

先程の『リンク召喚の成功の秘訣』の項で『リンク召喚は最も簡単な召喚方法』と言いましたが、これは簡易的という話であってリンク召喚を用いた遊戯王ははっきり『難しい』と言えます。
そもそも、遊戯王というカードゲーム自体が難しいと言われ敬遠されがちですが、それは『根本的なルールの難しさ』が理由であり、これは競技レベルで考えた時の話なのでターゲットである子供には関係ないと思います。

・優先権
・チェーンの組み方
・タイミングを逃す
・効果の裁定


などなど
これって初心者が知らなくても別にいいことだと思いませんか?もちろん競技レベルでやりたい、だとか大会に出たい、という意志があるのなら避けては通れない道ですが、それを初心者に求めるのは既存プレイヤーのエゴです。私は新規ユーザーのターゲットである小中学生は間違ってようが自分なりで楽しめばいいと思ってます。
プレイヤーからすれば遊戯王は『簡単かどうか』で考えがちですが、初心者からすればそれ以前に『やりたいか』どうかが重要なのです。

そういった点でリンク召喚は対若年層において『分かりやすさ』が欠けてたのではないでしょうか。エクシーズ召喚なんて凄く伝わりやすいもので『同じレベルのモンスターで強いモンスターを出す』。シンプルで伝わりやすいギミックです。それに対してリンク召喚は切り札を出すにあたってのプロセスが長く、それに加えてリンクマーカーなんてアニメで伝わり憎いギミックがあるわけですから視聴者は置いてきぼりになるでしょう。

そんな伝わりにくさから『やってみたい』という意欲を掻き立てることに失敗し若年層のごっこ遊びになれなかったことが、新規ユーザー獲得におけるリンク召喚の失敗だと言えます。

5.ラッシュデュエルは第2の遊戯王になれるか?

本筋からは逸れますが、遊戯王VRAINSでの失敗を踏まえて、新しい遊戯王のアニメでは『ラッシュデュエル』という遊戯王OCGとは別物のラインナップを展開し、それを元にアニメを放映するようです。

どうしてもOCGをベースにすると遊戯王VRAINSの二の舞になる可能性が高いので、このセブンスの判断は英断ですが既存プレイヤーとしては度肝を抜かれました。
ただ、このラッシュデュエルには不安な点がいくつかあります。

①ルールが全くの別物

ラッシュデュエルではラッシュデュエル専用ラインナップのカードを用いて対戦するのですが、これはOCGとは異なる2つの特徴を持ちます。

一つ目が『1ターンに何体でもモンスターを召喚可能』。二つ目が『毎ターン手札が5枚になるようにドロー』です。

OCGプレイヤーとしての第一印象としては『それって面白いのか?』につきます。実際のカードラインナップはまだ公開されてないので一概に言えませんが、ルールを聞く限りだとモンスターを大量展開して殴り合わせたいようです。

モンスターでの殴り合いというコンセプトは初代遊戯王から受け継がれてきた『THE 古き良き遊戯王』というイメージがあり、先攻制圧だのワンキルだのソリティアだのが横行している現代遊戯王においては【閃刀姫】や【オルターガイスト】【サンダードラゴン】等のビートダウン系デッキの分布が多い環境は『良い環境』なんて呼ばれたりしますから、殴り合いメインなのは聞こえは良いです。

ただ、引っ掛かるのがラッシュデュエルでは『アドバンテージの概念がぶっ壊れている』のです。カードの枚数に差をつければ有利になれるのはカードゲームの基本なのでカードゲームの面白さを感じるポイントを失いそうなのが残念です。この『カードゲームの面白さ』というのもOCGプレイヤーのエゴですが、2つの特長の内どちらか片方だけではダメだったのかな?と思いました。

そう思うのは『面白そう』と感じて遊戯王に入ってきてくれた子供たちが『面白い』とハマってくれるか?という部分で不安を感じたからです。

大量展開と大量ドローで派手なデュエル!というコンセプトはアニメでも伝わりやすく、ごっこ遊びとして魅力的です。そんな中プレイしている子供たちが『しょうもない』と感じて手放さないことを祈ります。

②OCGへの流入が困難

先程も述べましたが、ラッシュデュエルはOCGと別物のため、新規ユーザーがラッシュデュエルからOCGに手を伸ばすのはハードルが高いのではないかと思います。
一方、ターゲット層は違いますが遊戯王のソーシャルゲーム、デュエルリンクスは新規層や昔遊戯王を遊んでいた層を取り込めている成功例ですが、デュエルリンクスのように簡略化した遊戯王をリアルカード展開するのでは駄目だったのか?と思いました。チェーンの概念を排除したり、テキストを簡略化して取っつきやすくすれば、遊戯王のイメージを損なわずに遊戯王の入り口を作れたのではないかと感じます。
そもそも、手放されようが子供たちに『遊戯王を遊んだ』という記憶を植え付けることが目的であれば、別物だろうとキャッチーなラッシュデュエルで問題無いという戦略なのかもしれません。

③カードショップのリスク

ラッシュデュエル用カードはOCGとは別で商品展開されるのですが、そもそもメインターゲットが子供ですから、シングルカードの回転率は高くなく、シングルカードを在庫に持つことのショップ側のリスクが非常に大きいことは容易に想像出来ると思います。また、ラッシュデュエルもアニメの関係で数年は続くとしても、いつまで展開されるか分からず、万が一畳まれた場合のショップの損害を考えるとシングル展開でのショップのバックアップは困難でしょう。
となると、カードパックを剥いて当たったカードで遊ぶことを強いられますが、子供としては逆にその方が良いのかもしれませんね。


結論として、リンク召喚の失敗を踏まえて、アニメではOCGと切り離したことは思いきった試みだと思いました。数々の不安はありますが、ラッシュデュエルがどれだけ子供達を引き付けることが出来るかに掛かってるので、そこはリンク召喚でOCGを面白くしてくれたコナミなので大丈夫だろうと、OCGプレイヤーである私達の杞憂だった、となることに期待します。

6.マスタールールは3年前から考えられていた

本題に戻りますが、4月からのOCGはどうでしょうか?
マスタールール(2020)ではこれまでのS、X、F召喚の縛りが無くなる訳ですが、この改訂は個人の感想としては『変えてもそのままでも良かった』
しかし『最初からこれで良かった』や『前回が失敗だったから変更した』というのは間違いだと思います。
確かにこれまでのゲームを否定する改変や、リンク召喚を強制的に使わせる構造は非難を受けても仕方なかったですが、 仮に初めからマスタールール(2020)だったらどうなっていたでしょうか?

多くのプレイヤーは様子見をしてリンクモンスターはなかなか使われなかったと思いますし、自分のデッキとリンク召喚を切り離して考えて3年リンク召喚に触れずに終えるプレイヤーも出ていたかもしれません。

実際、リンクモンスターの初期のラインナップは貧弱で環境にリンクモンスターが定着するまで時間を要しました。それは既存のテーマや既存の召喚方法が完成されており、パワーを押さえた初期のリンクモンスターはエクストラデッキの不純物だったため既存のカードに勝てなかったのです。

それでも状況を覆せたのはリンクマーカーによって既存の召喚方法を制限できたからじゃないでしょうか?もしリンクマーカーの制限がなければ既存のカードのパワーに対抗するため、リンクモンスターのインフレは凄まじいことになり、ゲームバランスが崩壊していたことでしょう。

『マスタールール2020は3年前から考えられていた』私はそう思います。

遊戯王は現在では1万種類と膨大なカードプールを持っており、リミットレギュレーションこそあるものの全てのカードを使い続けることが可能です。そんな中、新たな召喚方法を追加するのはゲームバランスを大きく崩すリスクがあるため、リンクマーカーの制限によって既存の召喚方法とのバランスを見ながらインフレさせたことは正解に感じます。

そこまでして、リンクモンスターを優遇するのか!と言われるかもしれませんが、新しいギミックを売るのがメーカーなのでそれは仕方ないことであり、それでゲームが面白くなっているので考えて作ってくれてるんだな、というのが正直な感想です。

プレイヤー的には『今までやってた3年間は何だったのか』そう感じても仕方ないことですが、強制的にリンクモンスターを使う旧ルールのおかげで、リンクモンスターの強みやリンクモンスターありきの遊戯王の面白さを学べたことは現プレイヤーのアドバンテージとなっているはずです。

新マスタールール変更は強引でしたが、飽きずに楽しむためにも必要な刺激だったと思います。

一番最悪なルール変更を考えたとき『リンクモンスター、もしくはリンクマーカーの廃止』なのですが、そんなことがあればリンク召喚は失敗だったと言わざるを得ません。

また、仮に今のマスタールールのまま継続した場合、リンクモンスターが重要となるゲーム性は引き継がれてしまうので、新規カードもリンクモンスターを優先的に収録しないとゲームに飽きが来てしまうリスクがあります。
プレイヤー的には『新マスタールール』のままでもよかったものの、公式的にはアニメをラッシュデュエルで進めるためにも必要な変化だったのだと思いました。

7.さいごに ~とりあえずやってみるか~

マスタールールの変更は古参プレイヤー離れを招いてしまったことは致命的ですが、これからはリンク召喚、S召喚、X召喚、F召喚とバランスに配慮しながらの商品展開してくれることに期待しましょう。

遊戯王は4月からアニメによってOCGとラッシュデュエルが切り離されるという前代未聞の展開ですが、これはメーカーが新規獲得に本腰を入れただけでなく、OCGプレイヤー的には『競技がアニメの販促に引っ張られなくなる』のはメリットではないでしょうか?

OCGプレイヤーのカジュアル層からはアニメキャラデッキの人気も高いのでそこらへんの需要はデュエリストパック等で補填していって欲しいですね。

リンク召喚はゲームの競技性と面白さを高めてくれました。そして、ルール変更によってリンク召喚を定着しつつ、既存の召喚方法と共存する形でゲームがまとまったこれからの遊戯王はより面白くなることでしょう。
ルールが変わることは衝撃的ではありますが、『とりあえずやってみるか』という気持ちは大切かもしれません。3年前もそうでした。

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