16JAcks_客室105号室
TRPGシステム『Dead or AliCe』を用いて開催された、8ペア16人の参加者によるデスゲーム、『16JAcks』。
当該企画と、自PC『スバル』、ペアを組んだ『ミムジィ』、またそれらにまつわるさまざまのことについて、とりとめのないお話。
*デスゲーム再び
2020年11月。Dead or AliCe (以下DoA)を使用した『16人の救世主』(16AliCes)というデスゲームが開催されました。
16AliCesにはわたしもプレイヤー参加しており、それはそれはでっかい疵になった(オタクの表現)のですが、それについては別記事を参照していただくとして。
これに参加していた、ADSONさん。この方が、再度16人のプレイヤーを集めて開催したデスゲームが『16JAcks』。公式リプレイサイトはこちら。
今回は、16AliCes開催当時にはまだなかった大型サプリメント『赤と白の鏡騒劇』をがっつり遊ぼう! 救世主と末裔のペアでデスゲームだ! という企画です。
わたしはプレイヤー兼サブGMとして参加し、観戦も含めて目一杯楽しませていただきました。
*今回のペア
今回わたしとペアを組んでくださったのは、水面ちゃん。
前回大会である16AliCesの主催だった、DoAデスゲームの開祖です。
16JAcksのレギュレーションは救世主と末裔のペアということで、水面ちゃんが救世主、わたしが末裔を担当することに。
一番最初に、水面ちゃんから「12歳で堕落の国に堕ちてきて3年の救世主をやります」「参考図書は『戦争は女の顔をしていない』です」「猟奇をやります」「(堕落の国に)堕ちてきてから今に至るまでの日記を書きます」という情報がぽんぽんぽーん! と手渡され、わたしはわたしでそれを受けて「じゃあ才覚でグリフォンやろっかな」と即決。今見返すと20分ほどのやりとり。スピーディーな流れだったな……。
ところで、わたしは「『どうでもいい』の箱がでかい男が、どうでもよくないものを見つけてしまうさま」が死ぬほど刺さる、というドでかい脆弱性を持っているのですが(そして以前別のシステムでそういうPCをやりもしたのですが)、今回水面ちゃんから「その製造ラインから出してくださいよ」というオーダーが入ったため、スバルはそういう男が「どうでもよくないものを見つけてしまった」後をやるぞ! となりました。見つけてしまった対象はもちろん、ペアのお前だからな!! 覚悟しろ!!!
*『モザイクの』ミムジィ
相棒です。キャラクターシートはこちら。
海外児童文学の挿絵から抜け出してきたような、15歳の女の子。スバルは22歳なので、7歳も下。改めて考えるとすごい年齢差だな。
ミムジィの出身世界は現代日本。しかし、身体にはいくつもの部分的な亡者化を抱え、自分の本当の名前を忘れ、元の世界の記憶もほとんど喪失しています。
ミムジィの身体は現代日本人の見た目を大きく逸脱しており、猫の耳、鱗と鰭のある腕、兎の下肢に、流れる血はりんごジュースの味、というつぎはぎの状態です。
ちなみにこれは無料サプリ『救世主の箱庭』に収録されている、キャラクターロスト緩和MOD『亡者化深度』を引いてきたものですね。死や亡者化の代わりに、亡者への変貌を段階化し、5回の変貌で完全な亡者へと成る、というもの。
ミムジィは既に4回の変貌を経ており、彼女の3年の旅路がいかに困難で心を削るものだったかを端的に示しています。
ミムジィが記した日記については、PLである水面ちゃんに掲載許可をいただいて、こちらで読めるようにしてあります(観戦ロールなどもここにあります)。この記事を書いている3/18現在、日記はまだ途中までしかありませんが、すでにものすごい文量がある……。彼女が堕落の国に堕ちてきて、惑い、翻弄され、時には楽しいこともあり、しかし世界に通底する厳しさや残酷さに傷つきながら、出会って、別れて、得ては失い、3年。
その最後に、隣にいたのがスバルでした。
*赤い招待状
さてこのデスゲーム、開催される儀式の名は『ヴァンテアン・ゲーム』。
優勝ペアには、救世主に対しては『元の世界への帰還』、末裔に対しては『救世主の力』、という報奨が与えられることになっています。
参加者は自分の意思で参加を決定できる白い招待状か、拒否権なく招集される赤い招待状のいずれかを手に、開催地であるホテル『ジャック・オブ・ハート』に集います。
スバルとミムジィの手に届いたのは、赤い招待状。拒否権なし。
日々「堕落の国を救う」という目標を掲げて亡者を狩り、救世主と戦い、忙しく活動しているミムジィにとって、ヴァンテアン・ゲームの優勝にはまったく魅力がありません。スバルもまた、救世主の力にはまったくもって興味がない。
それでも、負ければミムジィは死ぬか、石と化すか。
私がいなくなったら寂しい? と尋ねられ、寂しいよ、と答えながら、しかしスバルはミムジィに「帰れ」と言うことになります。そうでなければ、失われてしまう。自分の前から消えてしまうことは、もはやどうしようもない。けれど当然、死んでほしいはずもない。
勝つしかない。
その結果、たったひとつ選んだものを失うとしても。
*データ構築のお話
ここで、デッキ構築と小道具のセレクトの話を挟みます。
スバルは前述の通り、グリフォンの末裔です。グリフォンの末裔が習得できる末裔技能は、味方の威力を大幅バフする主動作『おいで!』と、脅威度4で解禁される、『回避』相当の装備技能『猛禽の羽毛』。
脅威度1作成の1回戦で『猛禽の羽毛』は取れないので、選択肢に入ってくるのは『おいで!』です。
結論から言えば取りませんでした。
順を追って構築の話をします。
まず、グリフォンの末裔は末裔技能の傾向からして才覚型です。相棒であるミムジィは猟奇型なので、素直に行けば才覚型のスバルは妨害役に回ることになります。
とすると、2~4枠の『精確』、8~10枠の『妨害』がまず確定です。これは一番基本のセット。
次に、攻撃手段。空いているのは5~7の枠と、J以降の絵札。
ダメージソースになる主動作は、(ペア戦であれば)たとえ威力がさほどなくとも数字の枠と絵札枠に1個ずつほしい、というのが前回大会の個人的な学びです。猟奇と才覚のペアでは確実に猟奇が先に落とされるので、才覚にもダメージソースがないと普通に負けます。
ここで、5~7枠には『劇毒』。これは防壁でターゲットを吸えない、かつ継続でダメージが入れられる《猛毒》の付与技能。ミムジィが落ちる前に相手のHPを低水準に持っていけていれば、妨害で耐えつつ十分な回数の判決表を振らせることができます。対面が愛型だった場合は『回復』『救済』を振られるときついですが、これは絵札の枠に『封殺』を構えてある程度カバーを狙います。《封印》は、脅威度1であれば相手にどの型が来ても基本的に腐らないので(脅威度が上がってくると数字枠が強くなるのでそうでもない場合が大いに出てくる)、そういう意味でも置いておきたい技能です。
5~7枠は『必衰』や『暗器』を据えてもいいのですが、《衰弱》が後半以降に腐りがちなこと、『封殺』を構えた以上ランダム不調で《封印》が出てもイマイチおいしくないこと、《指切り》の有効性も相手によって変わりすぎること、など、安定しないのでやめました。
さらに、Kの枠には『奪取』を据えます。これは当然、相手の有効カードの奪取、あるいは『妨害』などのカード補充用です。あって困ることは一切ない技能ですね。
次に、装備技能。これはAの枠に『万能』。『妨害』を振る才覚はとにかく1でも多く達成値を上げたいので、『万能』または『器用』が欲しい。ここで『万能』が好きか『器用』が好きかは派閥がありそうですが、わたしは『万能』派です。
やや脱線しますが、装備技能を置く枠に関して、わたしはかなりAに置きがちです。Aの技能は基本的にすごく強いんですが、やはりどこで使ってもいい、というわけではないので、カードを抱えたくない気持ちのほうが大きいんですね。あと、いずれは枯れる枠だし……。まあ、相手に強い技能を使われるくらいなら積極的に枯らしたほうが良いという向きも大いにあるんですけれども。ちなみに脅威度が3くらいになるとわたしもA技能を取りはじめますが、脅威度1だと愛型で『救済』を構えるか構えないかくらいです。
……というあたりでようやく脱線から戻ってきて、ここまでで、枠は下から順に『精確』/『劇毒』/『妨害』/『封殺』/(空き)/『奪取』/『万能』となっています。
この空きの枠に、『おいで!』を入れるかどうか。対抗に持ってきたのは『伝授』です。『妨害』の2枚目もありですが、それよりはカード操作が利く『伝授』のほうが候補として強かった(『妨害』は、同時に『精確』がないと困る場面が多々あるため)。
ここに『おいで!』を入れるメリットは、序盤の削り合いで有利をとれること。デメリットは、相手のHPが低い状態では『おいで!』の意味がなく、中盤以降にデッキ枠が1個思い切り腐ること(脅威度が上がると猟奇に『過殺』を持ってもらうことで大変なことになるのだが……)。『おいで!』の枠のために『万能』を『器用』に差し替えることも一瞬考えましたが、コンスタントに達成値+1のほうがいい。わたしはこの安心感が好きです。
一方、『伝授』。これは裁判を通して不要カードのトレードをし続けられるのがメリット。デメリット……腐ることはないけれども、ちょっと弱気かな、受け身かな、という気はしてわりと悩みました。
しかし、ここまでのデッキ構築ですでに主動作が3枚あり、積むのが『おいで!』にせよ『伝授』にせよ、主動作が計4枚あるデッキになることは確定。どう考えても、使わない主動作いっぱい来るな……と思い、ただ捨てるよりは『妨害』『精確』にトレードできる可能性を高めたほうがよかろう、ということで最終的に『伝授』を採用。場合によってはミムジィにカードばんばん渡して切り札狙ったりもできるしこっちのほうが安定だね、となりました。
以上でデッキが確定。
次に、小道具のたぐい。
凶器は、これはもう『多彩な凶器』一択です。脅威度1の才覚にこれ以外はないでしょう。あるのか?
また、『奪取』を取った以上は、当然先制で相手の上を取りたい。デッキに『仕込』を積む余裕がない以上、『日刻みの時計』を持ち込むしかありません。さらに、先制値を1でも稼ぐための『着慣れた衣装』。
ここにお茶会に必須の『ティーセット』を加えて計4個です。こちらはかなりシンプル安定のセットで完成です。
ちなみにキャラクターシートに記載の『ジャックの証』というのは、今回16JAcksのレギュレーションで設定される『エース』『ジャック』という役割の指定用。フレーバー小道具なので、所持数制限とは別に持っています。
*1回戦Cホール
ということで、実際の1回戦。
対戦相手は104号室、救世主プルネウマと、三月兎の末裔イスタ。W猟奇の超攻撃型ペアです。特にイスタのほうは、『逆鱗』を持った上に5~7の枠に『麦藁の冠』を置いた「マジか?」というような構成。
詳細はリプレイサイトに任せるとして、概要。
お茶会は、1ラウンド目に二人がかりでイスタを抉り、先手をふたつ取ってしまった2ラウンド目では味方を舐め、という動きでした。104号室側からこちらへの動きとしては、ミムジィへの抉りが1回。
このミムジィ抉りが、決着したときのすべてに繋がって……ああなってこうなった。
ミムジィの心の疵は『堕落の国』と『救世主』。そして、抉られたのは『救世主』のほうでした。
ミムジィは、ミムジィ自身に対して「『救世主』として振る舞うこと」を強迫的に課し、そうでない自分には価値がない、生きる資格がない、と思っていました。それを抉られた直後の手番、スバルの疵を舐めますと宣言したミムジィが何を行ったか。
答:スバルへの加圧デスインタビュー。
これは舐めシーンだよな? という字面だがそうとしか言いようがない。
自分たちの部屋に戻って開口一番、「スバルはどうして生きているの?」から始まって、「人を裏切ったことはある?」「優しくしてくれる人を殺したことは?」「私は生きてると思う?」「私は誰?」……。
一歩回答を間違ったら崩れ落ちていくようなスレスレの質問が、重なる重なる。……スバルへの舐めシーンだよな!?
しかもこのデスインタビューを投げかけるだけ投げかけて眠りに落ちていくミムジィをよそに、横槍に入ってきたプルネウマからもさらなる圧迫面接を喰らうことに。正直この手番までやや薄味だったのに、いきなりものすごく濃縮されたな……と思いました(感想文)。
さらに次のシーンはスバルの手番、再度ミムジィと差し向かい。
おれはお前を選んだんだ、とまっすぐに言い、おれを嫌っても裏切っても構いやしないが、適当にはされたくない、と言い。
その後ダイスが通ったのもあり、スバルはミムジィの日記を通して、その過去の一端に触れることになります。それは即ち、ミムジィの疵に触れることにほかなりません。
その上で、スバルは再度、スバルがミムジィを選んだこと、選び続けること、たとえミムジィがそれを信じなくても結果は何も変わらないということを、はっきりと言葉にしました。
そして裁判。
猟奇と才覚のペアで猟奇が先に落ちることはわかっていたんですよ。わかっていたんですが、2ラウンド目でミムジィが落ちたときにはさすがに泣きが入りそうになりました。
しかしながら、そこから決着までにどれだけかかったか。
答:9ラウンド(計11ラウンド)。
2対1盤面で、とにかく『奪取』と『伝授』を駆使しながら相手の行動を阻害しまくり、間を縫って『封殺』と『劇毒』をブチ込んで、お互いに判決表を振りまくるというとんでもない泥裁判でした。
最終的には敗北したんですが、最後のあの判決表が1足りていたら……と未だに歯ぎしりをしています。
ただ、2対1で9ラウンド戦って計7判決させたのに立たれたらしょうがねえんだわ! 恨むなら乱数とココフォリアを恨むしかない!!
……というのはともかくとして、実際かなり健闘したと思います。
プレイミスも(多分)なかったと思いますし、相手のリソースの切れ方とこちらのデッキの噛み合いがかなり上手いこといった結果の超長期戦だったので、頑張ったな~! みんなわたしを褒めてくれ! という気持ちです。普通は2対1で9ラウンドも保つようなゲームではないとも思うんだが……なんか……なんかすごい長期戦をした。見学席のVIP(DoA製作者)にも褒めてもらった。
でもまあ、あの、あんな泥裁判はしばらくおなかいっぱいです。
*選んだこと、選ばれたこと
105号室は裁判に敗北し、しかもスバルは亡者化判定に失敗して、という状況で、104号室のプルネウマはミムジィに生死を賭けたコイントスを持ちかけます。
表が生、裏が死。
ミムジィは迷いなく死に賭けました。
スバルが限界を迎えていることはわかっていて、これから亡者に変貌するスバルに誰かを殺させるわけにはいかない。
その選択を、スバルは「ばかだな」と思います。スバルが選んだのは後にも先にもミムジィだけ、殺したくないのもミムジィだけ。けれども一方で、生きているだけでは救われないものを山ほど抱えたミムジィに、擦り切れるまで生きてほしいわけでもない。だからその選択に否やを唱えたりはしませんでした。
落ちたコインは裏向き。
スバルとミムジィは死を前に、最期の言葉を交わします。
スバルからは、何もかもなくなっても、ミムジィを選び続ける、と。
ミムジィからは、選んでくれてありがとう、と。
背の翼から、耳から、ひとひらひとひら落ちていく羽根。その代わりに得る、猫の耳、鱗と鰭のある腕、兎の下肢に、りんごジュースの味の血。ミムジィを模して、亡者への階段を四段。最後に影を失って、スバルは完全に亡者へと変わり――ミムジィはそれを殺し、彼女が堕落の国を生きた日記だけを遺して死んでいきました。
ただ、ミムジィのPLである水面ちゃんからは「ミムジィはかなり救われましたよ」とのお言葉をいただいており、わたしはこの結末にある種の安堵を覚えてもいます。
その勝利に何ひとつ得るもののないスバルが、ミムジィが倒れた後にも一人限界まで戦い抜いたこと。そうして、救世主として機能しないただのミムジィを生かそうとしたこと。ひいては、ただそこにあるミムジィという一人を選んだ存在が確かにあるということ。
心の疵『救世主』が抉れ、自分に強いてきた生き方を損なわれたミムジィは、それによって、死を前にしながらも「生きていける」と思えるようになったそうです。
具体的なかたちとして救えたわけではないでしょう。勝って生かすことはできなかったし、その後に繋げることもできませんでした。
でも、心の中の固い結び目を、ひとつ、ほどけたような。ただ生きているだけでは救われないものを、ほんのひと匙ぶん、癒せたような。
そんなふうに考えています。
*スバル
キャラクターシートはこちら。
グリフォンの末裔ですが、名付け親が救世主だったため、日本語(と思しき言語)圏の名前を持っています。
以下がキャラクターシートのメモ欄です。
名付け親は救世主だったらしい。
世界を救おうとしていたらしい。
そして、おれが生まれて一年もしないうちに死んだらしい。
馬鹿馬鹿しいよな。世界なんて、たった一人に救えるものじゃないだろう。
こんな世界で、誰かが何かをできるなんて、思ったほうが馬鹿だろう。
そう思っていた。
出会ってしまうまでは。
はい。
心の疵は『冷笑主義』と『巡り逢い』。
冒頭のほうで述べた通り、わたしには「『どうでもいい』の箱がでかい男が、どうでもよくないものを見つけてしまうさま」が死ぬほど刺さる、というドでかい脆弱性があります。
つまり、『冷笑主義』とは「『どうでもいい』の箱がでかい」という部分を指し、『巡り逢い』は「どうでもよくないものを見つけてしまう」という部分になるわけですね。この解説、わたしの胃を非常に痛める。
スバルは22年の人生を、世界は何も変わらない、変えられないという、ある種の諦念とも絶望とも呼べるような価値観とともに生きてきました。その中にミムジィという少女が現れたとき、スバルはそれをどうしようもないほどの強度で「選んで」しまい、人生を転換することになります。
スバルが「選んだ」と言う何事かは非常にプリミティブで、恋い慕うわけでもなく、もっと広い意味で愛しているというわけでもなく、ミムジィに何かをしてほしいと期待することもなく、自分の働きかけに応えてほしいというわけでもない。ただひたすら、ミムジィをたったひとつのものとして自分の中に据えること、それだけが徹底されていました。
その理由を尋ねられてもわからない。けれど、わからないままでも関係ない。ただ選んだ。そしてその選択は変えない。選び続ける。
スバルはそういう在り方をしました。
スバルはミムジィに出会い、彼女が『救世主』として振る舞うのを見て、そのさまが取り繕いであると即座に看破しています。そして、そもそも『冷笑主義』を抱えたスバルには、救世主の行いや、その成果に対して期待するものが一切ありません。それは当然、ミムジィの行いにも適用されます。そんな振る舞いは馬鹿馬鹿しい、したって仕方がない。そう言いながら、またミムジィに対して「お前はほんとうにばかだな」、「自分を安くで切り売りするな」、と繰り言をしながら、半年。
そうしてミムジィに『救世主』を一切期待しなかった、むしろやめさせようとしていたスバルは、だからこそ、ミムジィとともに上述の通りの結末を迎えました。
キャラクターの構想を練っている段階で、スバルは根本的に、「ミムジィを救う」かたちには設計されていませんでした。
16JAcksはペアPvP。自分のペアとの関係も当然大切なのですが、対戦相手のいるゲームでそちらに注力しすぎても片手落ちです。なのでそのあたりの塩梅を探って、「具体的に救うことはできずとも、地獄のどん底まで一緒にいてくれる」キャラクターにしよう、と思ってそうしました。
というよりもまずもって、ミムジィ自体が、具体的に「救う」ということを考えてしまうとかなり攻略難易度の高い相手です(抱えた問題が生きざまと癒着しきっているため)。頭っから救おうと勇んでも仕方ないな、勝っていけば見えるものもあろう、と思って、……思っていたんですが……そこまでのロールと、2対1の超長期戦泥裁判による有言実行完全証明とががっちり噛み合った結果、何かに大正解してしまった。
世界は変わらない。
二人でそう結論しながらも、ミムジィは、スバルがただそこにいる、何者でもないミムジィを「選んだ」ということを信じてくれました。
どんな地獄のどん底まででもついていくつもりでしたが、結果的に、スバルはそうではない、ほんの少しだけましな場所に踏みとどまってミムジィを捕まえてくれたようです。
*堕落の国で
ちなみにデスゲーム本戦よりも前、堕落の国においてのスバルについてもう少し語るとすれば、それはこのスバルというやつが、考えれば考えるほどに「やばい」ということでしょうかね……。
スバルは末裔です。当然、救世主の責務、30日ルールに縛られた存在ではない。人を殺す必要はないし、積極的に人を殺す理由もない。にもかかわらず、ミムジィに非常に積極的についていき、半年。どれだけ少なく見積もっても6回の裁判、ひいては殺し合いに参加したはずです。ミムジィは『救世主』としてかなり活動的でもありましたから、亡者相手も含めて、おそらくかなりの数の裁判をしてきているでしょう。実際のところ、「一緒に救世主を殺してくれる?」と尋ねられて、「何をいまさら」と答えるやつがそれまでの裁判でどうしてきたかというのは自明ですね。
殺したくないのはミムジィだけ。
この男、あまりにも言葉通り、そのままの意味でそうらしい。普通に生きてきたんだよな?
いや、普通に生きてきた……とはいえ、スバルは故郷ではかなり浮いていただろうとは思います。スバルの生い立ちなんかについては、上の方にリンクを付けたミムジィの日記が読めるページにある『喪いの部屋』というところでほんのちょっとだけ触れているのですが、堕落の国の、特別グリフォンの集落というわけでもない町で、22歳独身の冷笑主義者グリフォン男。近所の偏屈なおじさんなんだよそれは。
スバルは、堕落の国では誰でもなんでも殺せるようでなければならない、というような心構えをしているわけではありません。もともと、誰でもなんでも殺せる。おそらく、初めて救世主との裁判をしたときも顔色ひとつ変わらなかったような気がします。
そういう中でスバルはミムジィを見出し、それだけは裏切らないし、どこへでもいつまででもついていく、と選んで、実際にそのようにしました。
スバルはミムジィと一緒にいることで、彼女の疵、ひいては強迫観念に付き合って、自分自身ではあまりにもばかばかしいと思うような行動を取り続けることになり、そのことにはかなり苦しみました。自分のばかさ加減、愚かしさ、そうとわかっていて離れられないこと、離れたくないこと。選んだ以上はその苦しさを呑んではいましたが、けっして苦しくないわけではなかった。けれども、それが嫌でミムジィに「そんなことはやめろ」と言っていたわけでもなかった。
スバルには、ミムジィをもっと甘やかすことも、早々に何かを諦めさせることもできたでしょう。冷めた、引いた目線のいい大人ですから、そうしようと思ったときにはそうできたはずです。
そうしなかった理由を一言にまとめるのなら、スバルはただ、ミムジィに救われてほしかった。それだけです。
甘やかしても諦めさせても、ミムジィを折ってしまう。だから、自分の苦痛はともかくとして、素知らぬ顔でフォローに回り続ける。まあ、素知らぬ顔でっていうか、あれはあれで素の面構えだとは思いますが……。
ともあれ、スバルはミムジィを選んだことで自分が救われたというわけではないと思います。薄らぼんやりした冷笑主義の世界の苦しみから、より具体的な愚かさの苦しみに焦点が移動して、それが良かったのか悪かったのかはわかりません。本人は、選べてよかったと言いますけれども。
しかしながら、そこに苦しみがあるとわかっていてなおミムジィを確固たるものとして自分の中に据え続け、その選択から一歩たりと逃げず、堕落の国の危険な旅にも、裁判に明け暮れる日々にも構わずついていく、……完全に何かがキマっているような気がしますが、スバルというのはそういうやつでした。
水面ちゃんの話を聞くと、ミムジィは完全に「このスバルってやつおかしいよ」と思っていたらしいのですが、一切否定できない。本戦が終わってから振り返って考えれば考えるほど何かがやばい。本戦の間は何故か気づいていなかった。なんでだ?
ちなみにこれは余談として、ミムジィと一緒にじゃんじゃん戦っているせいでスバルは行く先々の末裔に結構モテたと思うんですが、なにがしかを断った際に「ミムジィ様とお付き合いされてるんですか?」と聞かれたときはかなり目が死んだと思います。そういうんじゃないんだよ。
*総括
はい、ここまで1万字超あるんだわ。
短くいきます。
スバルは諦念と絶望にぼんやりと侵された自分の人生の中で、ミムジィという『たったひとつ』を見出し、選びました。
スバルにとってそれは単純な救いではなかったし、むしろ新たな苦しみの種でもありました。しかしその一方で、自分が何かを選べたこと、諦めの中にそうでないものを見つけられたことは、間違いなく幸いなことでした。
ミムジィに救われてほしかった。
かといって、自分が救う、と言うほど自分を信用するようなスバルではありませんでしたが、それでもできる限りを尽くした結果がここにあります。
世界を変えることなんて、誰にもできやしないと思っていた。実際のところ、スバルやミムジィの外側にあるもの、世界や生きることそのものが持つ過酷さや痛みが減じられたわけではまったくないでしょう。
それでも心の中には、届き、触れ、変わったものが確かにある。
だからわたしの中のスバルは、まあ特別悪くはなかったんじゃねえの、というような顔をしています。概ねいつもの、しらっとした顔ですが。
堕落の国。力のすべてが心に根差すこの場所で、ただ自分自身という小さな世界に、救いのひと匙があったこと。
スバルには、それだけで十分のようです。
プレイヤーとしても、楽しく、嬉しく、良い経験でした。
改めまして、主催のADSONさん、イベント参加者のみなさま、何よりペアを組んでくれた水面ちゃん。ありがとうございました!