雪の札幌を歩く
北海道は牛乳が美味しいから、ラテが美味い。そんな至極単純な事すら、実際店に行くまで気付かなかった。
札幌で訪れた『BARISTART COFFEE』はラテに使う牛乳の種類が選べる。
メニュー表の中にあった"ガンジー牛乳"という牛乳。そんな種類の牛乳がある事すら知らなかった。
しかし、ガンジーと聞くとどうしても『塩の行進』がよぎってしまい、名前には惹かれたものの、塩辛かったら嫌なので違うものを注文した。
ちなみに、平和主義の象徴であるガンジーには意外にも差別的な一面があった事が近年語られている。
また、禁欲生活を保てるか自分自身を試す為に、敢えて裸の女性と寝ていたという謎の逸話も残っている。
ラテを片手に歩く札幌の街は快晴だが、雪が人の背丈ほど積もっていた。
自転車が雪に埋もれて左ハンドルの一部だけが見えていた。春になったらまた乗れるのだろうか。
雪かきされた路面は凍っていて足下からしんと冷える。その上、年季の入ったドクターマーチンではつるつると滑る。舞台ではたまにしか滑らないのに…。
転びそうになりながら
(ここで育った人は体幹が強いだろうな……)
と思った。
聞けば北海道は国内一位ほヅナヨコ(横綱)輩出地だそうだ。歴史に名を残すビッグヅナヨコ(大横綱)の大鵬も北の湖も千代の富士も北海道出身らしい。
千代の富士が幼い頃漁業を手伝っていて自然と足腰が強くなったのは有名な話だが、路面の凍結によってバランス感覚が鍛えられた面もあるのかもしれない。
ちなみに大鵬は初代の貴ノ花、千代の富士は二代目の貴乃花(当時は貴花田)とそれぞれ対戦した時に引退を決意している。
歩き回るのも"体力の限界"(©︎千代の富士)なのでもう一軒。
『ONIYANMA COFFEE』は来る前から目星を付けていた、深煎りも浅煎りも扱う楽しみなお店だった。
折角のSONYα6100も、僕の鈍い腕にかかれば何回撮っても奥のマスカルポーネから手作りという自家製ティラミスにピントが合わない。
店名を冠したブレンドは深煎りでティラミスに合わせるならそれかと思い頼んだ。大変美味しかったので、帰りには浅煎りの豆を購入。家で飲むのが楽しみだ。
既に豆でパンパンになりつつあるリュックを背負ってまた歩く。
この寒いのにアウターが脱ぎ捨ててあった。脱ぎ捨てた人はどこへ行ったんだろう。
都合8軒のコーヒ屋さんを回って豆を1kg程購入。わしゃ行商人か。
道中はずっとTHA BLUE HERBの曲を聞いていた。
『STILLING,STILL DREAMING』の一曲目「(次は札幌〜札幌〜)......針は変えたんだろうな?」を聴いてからというもの、札幌をBLUE HERB聴きながら歩くのが僕の密やかな夢だった。
重い荷物と情報量の多い曲で二宮金次郎状態。そう言えば前日に布川さんが食べさせてくれた味噌ラーメンが最高の一言で、今まで食べた味噌ラーメンが完全に過去の物になってしまった。
ちなみにICE BAHN『越冬』の一節「暖かさパッケージ」は味噌ラーメンがスープの表面に油の膜を貼って冷めにくくしている様子が由来だとか。
札幌からの帰り道、立った劇場の事を考えた。小さい演劇用のライブハウスは有難い事に満員だった。
ずっと興味があった。同じ事務所のトム・ブラウンという怪物が、一体どこから来たのか。
出ている若手芸人は東京のライブより随分と荒削りだが活き活きとしていた。
成る程、今ひとつピンと来なかった『都会的』だの『洗練された』だのという褒め言葉はこういう意味合いかと合点がいった。彼らに比べたら我々は確かに『都会的』なのかもしれない。
ネタの中に固有名詞が多く出てくるのが気になった。聞けば彼らは冬の間は家でテレビを観て過ごす事が多いらしく、それも関係しているのかもしれないと勝手に楽屋で相方と仮説を立てた。
何より、「漫才とは、お笑いとはかくあるべき」と言った様な堅苦しい理論を振りかざす先輩がおらず、また自らそんな考えに捉われる事もなく伸び伸びと、自分の好きな事をやっている様に見えた。
Method Man「自分自身に正直になっていれば、決してそれが間違いなんて事はないんだ」
北の大地は広く、その人らしくある事を許容してくれる。少なくとも僕の目にはそう映った。
その土壌で育まれ、東京に行き揉まれて出来上がったのがトム・ブラウンだとしたら、あの荒々しくも繊細な漫才が出来上がる事にも合点がいく。
今のところの結論はそこにしておこう。深追いするとゲボが出るかもしれない。
ビニール袋に入れた金魚を相方に、目出し帽を被りM-1に出場していた『金魚と強盗』に遭遇。
彼の事は以前から知ってはいたがまさか札幌に居たとは。
何故そんなスタイルになったのか恐る恐る聞いた。というのも、僕には懸念があった。
"気を衒った" ピン芸人が "目を引く為に"このスタイルをとっていたとしたら興醒めだからだ。
しかし、彼は違った。
北海道は旭川の出身で、お笑いは好きだが周りにお笑い好きな人がおらず就職した彼は、お笑いへの思いを捨てきれずに仕方なくホームセンターで買った金魚を相方にし、会社の人に顔バレしない様に覆面を被っているとの事だった。
僕はいたく心を打たれた。
このバックストーリーを、僕は聞きたかった。これだけで移動してきた甲斐があった。
ちなみに芸名が『強盗』である為に、NHK等には出られないらしい。
北海道芸人の『やすと横澤さん』が空港まで送ってくれた。途中のラーメンがまた絶品だった。
横澤さんの車は中古で三万円で、カーナビは四万だった。なので実際はカーナビに乗っていたのかもしれない。
TB、札幌芸人の皆様、お客様、ありがとうございました。また必ず行きたいです。
コーヒーが飲みたいです。