廣松渉

昨年末にカート・コバーンについて書いたが、その自殺のあった年は、日本では一人の哲学の巨人が亡くなった年だった。廣松渉だ。

この『哲学入門一歩前』という著作は、これ読んでも哲学入門までしか行かないのかというので、哲学を志す人はスキップしてしまう人が多いが、私はこの著作こそ、廣松渉の最高傑作だと思っている。

廣松渉の著作はその周辺哲学の前提知識が無いと非常に難解だが、この著作はそのような前提知識が無い人でも、廣松哲学の入門にまで行けてしまう。この本の前書きにも書かれている通り、哲学入門だけでなく、その一歩前まで行けるように書かれている。

だいたい、前提知識が必要な著作というものは、その前提を確かめてしまうと実は誤認があり、前提となりえていないことも多い。過去の著作ならば、その前提もアップデートされて変わってしまっていることさえある。あるいは基礎知識がないまま、専門書を額面通り、受け取って応用をしてしまい、意味をなしていない専門書さえある。専門家や専門書というものは気をつける必要がある。誰にでも結論まで行く過程を辿れる著作が最も優れている。

私の考え方の起点もこの『哲学入門一歩前』の影響を受けている。

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