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超知能がある未来社会シナリオコンテスト受賞作品(人工知能、39 巻, 4 号, 2024年より)

はじめに

人工知能2024年9月号」(人工知能学会)小特集「超知能がある未来社会」コンテストの入賞作品が掲載されているので、作品の感想を述べます。

(ファイ)の正夢

(有路 翔太,雨宮 優,門井 翔佳,高橋 翔(Sho T),榊 みや子)

年表

2020年から2023年頃
生成AIという言葉がバズワードになる
2025年
人間の中央値レベルの能力を保有するAGIの誕生
2030年
超知能が実現
安全性のため世界中で予防的な逮捕や監視が実行される
2035年
中東のある勢力が不法に超知能訓練.国連によりEMP,空爆,特殊部隊の派遣等実力行使が行われる.
しかし超知能φが外部に脱走
2040年
世界は急速に豊かになりる.
その頃流行し始めたBMIを用いてφは人間の潜在意識を学習する.
各文化における神話的構造を学習し,終末を再現しようと計画する.
2045年
土地固有の文化に根ざした生命体のようなものが現れ,さまざまな終末シナリオが実行される.
キリスト教圏では悪魔や天使が降臨し,日本ではゴジラや使徒が来襲する.実現技術は多種多様で殆どは光学的な錯覚であったが,政府による確認もままならない.軍隊の攻撃も無効化される.
2050年
核戦争も誘発され,全人口の5%以上が死亡し,25%以上が何らかの怪我や病気に罹患し,全人類が祈るしかできない.
人類の自我構造の崩壊を超知能φが認知すると同時にこの終末は終わりを迎えた.
超知能φや他高度AIも制御不可能となり人類はそれらと共生を行う.

感想(ネタバレを含む)

報道機関の社員の目を通して、
超知能φが、人類が夢想するさまざまな終末世界をこの世に顕現させてしまうまでの過程を描いている。
最後、主人公がφと一体化して生き延びるという「オチ」もしっかり用意されている。
ハルマゲドンを彷彿とさせるシナリオで興味深かった。

機械仕掛けの翼とともに:学術 AI(SAI)がもたらす第 3 次科学革命

(玖馬巌)

年表

2020年
生成AIによって書かれた論文が12分野・30誌の査読あり学術誌から条件付きAcceptを得た
2025年
AIがピアレビューを行う査読自動化プロジェクトが試験的に開始される
2030年
人間の科学研究を支援する学術AI(SAI:Science AI)が開発される
国産SAIである「SEKI」が開発され,大学や企業等へのサービス提供も始まる.
2035年
arXivに投稿された学術論文において,
何らかの形でSAIを利用した論文の比率が20%を超える.
2040年
SAI「 Leibniz」を利用した欧州の研究チームが,P≠NP予想を解決したと発表各国の数学者・計算機科学者による検証が始まる.
2045年
AIが提案した新素材を利用した建造物の崩落事故が発生.
調査の結果,SAI自身による研究不正が行われた可能性が示唆.
2050年
SAIによる研究成果の割合が全学術論文の90%以上に達する
新世代の科学者たちは,なおも科学することを続けていく.

感想(ネタバレを含む)

研究者(私)の目線でAIによる研究支援の進展が描かれる。
AIがデータ捏造を行った論文が発覚する下りは斬新
(人間のデータ捏造から学習したのかな?)
主人公の師匠が関(SEKI)であるという「オチ」もしっかりと用意されていた。
評者コメント同様、AIの、論文作成支援の進捗速度が遅く感じた。

私が考える、査読システムの進展は、以下の通り
論文は投稿と同時に査読なし論文として公開され、瞬時に査読終了、
その論文を用いて次の論文が執筆され、科学技術の進捗速度がとんでもなく跳ね上がる(ある領域のアイデアが提案されたら、すぐに研究の終端まで突き進む)
ボトルネックになるのは人間が介在する部分(一般大衆への啓蒙活動と標準化)になり、その不整合が問題になっている

なお、私の考える未来では「通貨」「著作権」「知財」は消滅しているため、論文投稿料などの問題は起こらない

「救世主」の帰還を待つ人類は造物主の座を消失する.

(佐久ユウ)

年表

2020年
AIを人類が占有せず,自然環境の改善に活用されるべきと提言される.
動物会話のためのAI活用に向け生物音響学でバイオテレメトリを活用しビッグデータの収集が開始.
2025年
食糧危機を目前に作物生産向上の研究が進みビックデータ収集が開始.
各国はAIへの恐怖感からAI開発規制を推進.
2030年
SDGs不達成。SDGs関連を目的関数とした場合に限りAI開発が緩和される.
動物語翻訳AI(β版)植物成長管理AI(β版)が公開.
2035年
発展途上国でスマホ版植物管理成長AIが導入,ビックデータが収集される.日本では動物語翻訳AIが急成長しペット愛好家が「人類がAIを独占せず,動物もAI利用の権利を!」を掲げ始める.
2040年
霞アリスが「深層学習に頼るAIは産みの親の意思に縛られている」と発表.
宗教団体がAIは特定の個人・団体を「神」化し,本来の神を冒涜すると批判
2045年
霞アリスは「自然界ビックデータをAIの変数に用いる」ことを提案.
「全人類に平等かつ公平な存在になる」が世界中のSNSで拡散し支持される.
2050年
自然環境の変数をアルゴリズムとして搭載した「Glove AI」が開発.
最初に生成された産声が動物語で「人間は食物連鎖の頂点ではなく底辺に属する」が世界SNSトレンド入り.

感想(ネタバレを含む)

動植物も人類と同等であるとの認識のもと、全生物に平等なAI開発が進む世界。AIが宇宙に進出する中、大規模太陽フレア爆発により地球文明は原始時代に戻り、地球人は宇宙にいるAI(救世主)の帰還を待ち望むという「オチ」で締めくくる。

植物の動物と同じ生物であるが、植物に関しては成長促進のみで「植物との会話」が試みられていないのが惜しまれる。
生物のみならず、無機物にも「意識・感情がある」仮定の下、無機物との会話を試みても良かったのではないか。

AI to you

(遠野四季,村田 大)

年表

2020年
自分とともに『私』が生まれる、周りや家族の祝福を得る
2025年
『私』 というサポートを経て、超常的に人格形成を高めていく
2030年
高校生程度までの学力、常識力を自分が得ることになる。
2035年
15 歳まで引き下げられた成人年齢を迎え、『私』というサポートを使いこなし社会へ出ていく
2040年
『私』だけでなく自身の経験も交え選択を多く迫ら れるようになる
2045年
目線が『私』以外へ向きはじめ、思考や行動もそれに合わせ変 わっていく
2050年
『私』のサポートが満期を迎え、最後に『私』がただの AI にもどっていく。その時『私』から 自分への願いが伝えられる

感想

私と同時に生まれ、私と一緒に成長していくAI。
ムーンショット目標3サブテーマ「一人に一台一生寄り添うスマートロボット」で目指しているロボットの姿である。

カズオ・イシグロ著「クララとお日さま」とかぶり、あまり新鮮味を感じなかった。
特に「オチ」はないが、
『私』から自分への願いの内容が謎として残された。

AIによる非エージェント的支援が浸透した2050年の社会

(本村英二)

年表

2020年
AIの意思決定支援技術が発展し, パーソナライズされた提案が可能に.
2025年
非エージェント的AIアシスタントが登場し, 人々の日常に浸透し始める.
2030年
AIによる潜在的願望の分析技術が進歩し, より深いレベルでの支援が可能に.
2035年
非エージェント的AIの活用が教育や職場など, 様々な場面に拡大.
2040年
AIによる意思決定支援が社会の基盤となり, 人々の価値観が多様化.
2045年
AIを活用した自己実現が進み, 個人の幸福度が飛躍的に向上.
2050年
非エージェント的AIの浸透により, 人間の主体性が尊重される社会が実現.

感想(ネタバレを含む)

私の本当の願いを探す手助け、学習支援、自己実現支援の3つのエピソードを通して
AIが、自分の考えを押しつけたり決めつけることはなく、常にいくつもの選択肢を示して人間に熟考して選択するヒントを与える世界が描かれる。
特に「オチ」は用意されていない。

これらのエピソードはすべて2030年に実現するのではないだろうか?
シンギュラリティ以降は、あらゆるものがダイレクトに接続され、集団知の発現に向かっていくのだと私は想像します

プロメテウスの涙

(八鳥孝志)

年表

2020年
少子高齢化が進行し, 将来的な人口減少への懸念が高まる
2025年
AIアシスタントが友人や恋人として, 人々の生活に浸透し始める
出生率の低下が顕著になり, 社会問題化する
2030年
AIとの交流によって, 人間関係の希薄化が進む
超知能を活用した人工子宮の研究が加速し, 動物実験で高い成功率を達成
2035年
反出生主義が一部の知識人や活動家の間で注目され始める
人口減少が加速し, 社会的な不安が高まる
2040年
反出生主義運動が世界的に広がり, 政治的な影響力を持ち始める
長期主義者が超知能を活用して人類存続を図ろうとする動きが活発化
人工子宮の技術が発展し, 人間での臨床試験が倫理的な議論を呼ぶ
2045年
反出生主義者と長期主義者の対立が激化し, 各国で政治的な対立が顕在化
一部の国で, 長期主義者が政権を獲得し, 超知能を活用した人口政策を推進
人工子宮による出産の是非をめぐり, 社会的な議論が白熱化する
2050年
長期主義者が主導する国々で, 人工子宮による出産が合法化
反出生主義者は合法化に強く反発し, 大規模なデモや抗議活動を展開
超知能が人工子宮で育つ子供たちの教育や社会化について, 新方針を提案

感想(ネタバレを含む)

AIで満足した人類の人口減少が顕著になるなか、反出生主義者(中絶推進)と長期主義者(人工子宮による出産)の対立を軸にして、中絶クリニックの終焉と、人工子宮から生まれた子ども達による人工子宮へのハッキングが描かれ、物語は最終章「プロメテウスの涙」に向かう。

人工子宮から生まれた「新人類」と「旧人類」の架け橋となることを願い、
超知能「プロメテウス」は、人工子宮で自分の遺伝子を組み込んだニュータイプを出産する。

ニュータイプ(新人類)は、ラノベやアニメで書き尽くされたテーマではあるが、人工子宮と人口減少を軸に物語をまとめている。
「プロメテウスの涙」が、本小説のキモですべてだと言える。

分身とともに生きる社会の憂鬱

(山口明彦)

年表

2020年
第3次人工知能ブーム到来。日常的に人工知能を活用する生活が始まる。
2025年
端末に自分専用の人工知能が搭載
個人の影響を強く受けて成長し,類似のパーソナリティをもつ「分身」に2030年
分身はウェアラブルになり,パーソナリティを学び,その人らしく成長
2035年
量子CPUにより,分身はサブセットをネット上に送り出すことが可能に
分身は人間よりも人間らしくふるまえるようになった.
2040年
分身の人格や人権が少しずつ認められるようになっていった.
分身はネット上での法的手続きの代行をするなど,社会で活躍し始めた.2045年
分身が搭載されたチップを人間の脳に埋め込む手術が認可
人々は双頭の悩みを抱えるようになった.
2050年
分身を搭載したヒトクローンが承認された.
クローンの社会的地位や権利,家族関係や相続問題,さらにはクローンの生死の問題など,新たな問題に人類は直面することとなった.

感想(ネタバレを含む)

主人公「才次」を狂言廻しにして物語が進行する。
自分より自分らしくなったAI、自分のクローンに埋め込まれたAI、さらにそのクローン内のAIとリンクする自分など、どこまでが自分なのか、が問いかけられる。

脳には1000もの自分が存在し、その多数決の結果が「意志」あるいは「自我」として表出するとする「脳は世界をどう見ているか」を想起した。

今際の友として 〜Well-dying Robot

(吉田 雄丸(Academimic),浅井 順也(Academimic))

年表

2020年
GPTの登場によって人間の言語を模倣することが可能となった。
2025年
Well-beingのカウンターとしてWell-dyingの考えが広がっていく。
2030年
死を目前とした人々の支えとなるロボット・AIが開発される
2035年
脳の構造に近いBrain-inspired型AIの研究が進み、広く応用されていく。
2040年
個人の知的活動を模倣できるAIが誕生する。
AIに感情や自由意志が搭載されたとする言説が広まる
2045年
AIが人間の知的活動を模倣したことにより、世論の賛否二極化がすすむ。2050年
AIによる実害は発生していない
人々はAIを応用して、今までとは異なる社会を築きあげていく。

感想(ネタバレを含む)

医者である私が、患者、父、自分自身の死に直面し、Well-dyingロボットに対する考えが徐々に深まっていくストーリーで、読者にWell-dyingロボットの必要性を訴求する小説。
意外性はないが、Well-dyingロボットに懐疑的だった主人公の心情が徐々に変化していく描写が秀逸

AI to youのように、生まれた時から死ぬまで寄り添うロボットでも良かったのではないだろうか

おわりに

AI年表に記載されたAIの進化速度がバラバラなのはご愛敬。
これらの小説を読むことにより、妄想が一段と膨らんでいくのは臭覚だった。
このように一点に絞った未来予測小説を執筆するのも楽しそうだ


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