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電気学会交通・電気鉄道/リニアドライブ 合同研究会(2023年1月26日~27日)主催

はじめに

2022年4月15日開催のリニアドライブ技術委員会で「矢野さん、岡山に引っ越ししたのなら2023年1月のリニアドライブ研究会、岡山で企画してくださいよ」と言われて、「では、やりましょう」と請け負ったのが事の発端。

予算の上限は1日あたり3万円。これは、会場費、機材輸送費、アルバイト雇用費など諸々を含んでの金額。

いろいろ当たってみるが、この金額で借りられる会場はなかなか見つからない。

五福研究室秘書の夏目さんが根気よく検索し、「倉敷芸文館」をさがしてくださった。

芸文館会議室利用料金

申込みは半年前開始なので、半年前にすぐに申込み、会場を無事に押さえることができた。

1日目夜には有志懇親会が予定されていて、2日目の朝が早いので倉敷ステーションホテルに宿泊することにした。

交通・電気鉄道/リニアドライブ合同研究会

準備

倉敷で開催するからには、参加者に来てもらいたい。
研究会は「対面オンリー」で行うことにした。
そもそも「芸文館」には、WiFiがないのだ。

対面オンリーで準備を進めていたのだが、
万一を考えて、ZOOMも使えるように準備することになった。
親委員会には電気学会からZOOMハイブリッド開催キットが貸与されていて、こちらを利用することにした。幸い使用実績も多い。

電気学会のハイブリッド開催シッステム

案内は「対面オンリー」としていたが、結果的に数名が事情があって遠隔参加となり、ハイブリッド機材の設営が必要になった。
発表者も全員ZOOMに入ることになるため、準備も本番もたいへんなのだ。

今回の研究会主催者である矢島さんが八面六臂の活躍をされた。

研究会案内

日 時
2023年1月26日(木) 10:00〜18:51
2023年1月27日(金) 9:20〜15:25
場 所
倉敷市芸文館202会議室(岡山県倉敷市)
議 題「鉄道一般,リニアドライブ技術一般,磁気浮上技術,リニアドライブの応用,および磁気応用一般」
参加費 無料(講演論文集は別途販売)

講演論文集の販売サイト(論文1本あたり300円)↓

1月26日(木)10:00〜12:00 「鉄道一般」

座長 古関隆章(東京大学)

車上主体型列車位置検知システムを想定した衛星測位精度の評価手法の検討

◎木下皓介, 渡邉翔一郎(東京電機大学), 山口大助, 望月駿登(交通安全環境研究所)
JRでは、メンテナンスが大変な地上設置機器を極力なくし、代替手法で従来と同等かそれ以上の効果を狙っている研究が盛んだが、本研究発表もその一つ。
車両位置検出を地上設置機器に代えてGPSデータを用いて行うことを目指した研究。基礎実験なので鉄道車両の代わりに自動車を用いている。

放射電磁波の検出による地上コイルの部分放電発生位置推定

○太田 聡(鉄道総合技術研究所)
リニア新幹線のコイルなどの劣化につながる放電現象を、発生する電磁波を複数のアンテナでキャッチして放電場所を推定する研究

OFDMを用いた軌道回路の伝送特性向上に関する検討

○望月 寛, 氏本めぐみ, 中村英夫(日本大学), 石川 了, 佐野 実, 西田賢史(京三製作所)
高い伝送効率を有するOFDM伝送の、軌道伝播信号を、誤り訂正を行って高精度に情報伝送する手法の検討。昔、電力会社も電力線信号伝送などを研究していたな

鉄道電気設備システムチェンジの評価手法の検討

◎横山悠介, 加藤政彦, 山田雄吾, 福島規至(東日本旅客鉄道)
電気設備の交換時期を一律に決めるのではなく、設備の劣化状況をモニタリングし、寿命限界まで使用できるようにするための評価方法の研究

動的計画法を用いた高速鉄道の最適運転曲線計算法の考察

◎風間勇希, 渡邉翔一郎, 日高邦彦(東京電機大学), 宮武昌史(上智大学)
高層鉄道の省エネルギー運転曲線計算法の提案

12:20〜13:55「リニアドライブ技術一般」

座長 田中 実(公益財団法人鉄道総合技術研究所)

鉄道車両における高速域のトルク向上のための誘導電動機の性能設計法

◎谷口晴城, 近藤圭一郎(早稲田大学), 宮武昌史(上智大学), 古関隆章(東京大学)
高速域でも高トルクを発生可能な誘導電動機を設計・導入することにより運行エネルギーの削減を狙った研究

回生ベクトル制御を用いたハルバッハ配列界磁型同期モータにおける実機効率の報告

◎小松悠悟, 森下明平(工学院大学)
ハルバッハ磁石配置モータの特性を正確に測定するため、測定用の発電機にもセンサを設け、正確にモータ特性を計測する技術の開発

可変速運転時の電費改善を実現する複合磁性材を用いた可変界磁モータ

◎高沢渓吾, 堀内 学, 北島 純, 吉田 亮(信州大学), 楡井雅巳(⻑野工業高等専門学校), 佐藤光秀, 水野 勉(信州大学)
著者らが提案している、複合磁性材を回転子に挿入した可変界磁モータは、幅広い回転速度で高効率を実現可能であることをモータのシミュレーション結果で示した

シングルステータ形アキシャルフラックスモータのリング形永久磁石ユニットによる始動特性の改善

◎石生田祥宏, 小柳瑠雅, 杉元紘也(東京電機大学), 落合章裕, 佐藤 忠(荏原製作所)
フロッピーディスクなどの駆動に用いられる、アキシャルギャップ型モータのバックヨーク側に永久磁石を設けて、始動特性を改善した

14:05〜15:16「鉄道制御技術」

座長 竹内恵一(公益財団法人鉄道総合技術研究所)

超過トルク・超過角運動量理論による各種空転制御手法の理論体系化

○牧島信吾(東洋電機製造), 古関隆章(東京大学), 近藤圭一郎(早稲田大学)
多数の駆動輪がある列車では、駆動輪の空転が生じる。このような空転を減らす制御を行い、列車全体の省エネルギーとモータの長寿命化を狙う。

摩擦変動を高速模擬する小型軌条輪装置を用いた鉄道車両制御技術試験のための模擬走行環境の提案

◎上野 爽, 大西 亘, 古関隆章(東京大学)
鉄道の車輪と軌道間に生じる摩擦を模擬可能な模擬走行環境装置構築手法の提案

車上からの自律的な進路制御手法に対するシミュレータを用いた安全性検証

○曾我俊輔, 杉山陽一, 櫻井勇輝(鉄道総合技術研究所)
不測の事態で列車運行が遅延しているときに、運行の効率化を狙って、列車の進路を列車からも制御可能とした場合、如何に安全性を担保できるかをシミュレータを用いて検証した内容

15:30〜17:30「磁気浮上技術」

座長 大島政英(公立諏訪東京理科大学)

吸引式1軸能動制御型磁気軸受の開発 -浮上ギャップ長の設定法-

◎大場寛之, 森下明平(工学院大学)
著者らが提案している新型軸受の設計方法に関する提案

視覚測定による2自由度磁気浮上システムの浮上制御と姿勢計測

◎浅川駿太, 上野 哲, 趙 成岩(立命館大学)
視覚システムを用いた、著者らが提案している新型軸受の制御と計測方法に関する提案

Feedback Control Design for a 3-DOF Magnetic Levitation System based on I-PD Closed-Loop System Identification.

◎YANG YUEYING, 大西 亘, 古関隆章(東京大学)
リニアモータの3軸浮上制御方法

非接触給電バッテリー充電システムを備えた磁気浮上搬送車の高周波電磁界中浮上実験

◎持田眞衣, 森下明平(工学院大学)
非接触給電で磁気浮上搬送車を磁気浮上させた研究

受動的に磁気浮上するシングルステータ形ベアリングレスグラファイトモータの構造と原理

◎橋本琢朗, 杉元紘也(東京電機大学)
反磁性を用いた、制御電力なしに磁気浮上して回転を行うモータの研究

17:40〜18:51「鉄道運転技術」

座長 竹内恵一(公益財団法人鉄道総合技術研究所)

車上センサフュージョンによる列車位置検知に基づく地上子仮想化の提案

◎長井健介, 大西 亘, 古関隆章(東京大学)
列車の運転席から見える風景から特徴的な建造物をランドマークとして列車の位置推定を行う手法の実験

実用上の制約条件を考慮した乗務員行路の自動作成アルゴリズムの開発

○加藤 怜, 小久保達也, 中東太一(鉄道総合技術研究所), 西川幸男, 芝田雄吾, 小林篤史(東日本旅客鉄道)
列車乗務員の全ての制約条件を考慮して、乗務計画を立てたところ、人員を3名減らすことができた。業務時間内に収まっているが、当然ながら一人あたりの乗車時間は増加した

無線による連続位置情報に基づき後続の優等列車への遅延伝搬を抑制する列車制御の提案

◎坂井桂祐, 大西 亘, 古関隆章(東京大学), 田中和広, 森田隼史, 徳原克俊, 葛西光希(日本信号)
後続列車はできるだけ前の列車との間隔を詰めればいいというものではない。後続列車のホーム進入速度が速いほうが遅延時間を短縮できる。そのさじ加減をうまく予測する方法の提案

1月27日(金)9:20〜11:20「リニアモータ技術」

座長 鈴木憲吏(東京都市大学)

揺動回転する球面モータ設計のための簡易シミュレーションプログラムの開発

◎石田利行, 五福明夫, 矢野智昭(岡山大学), 笠島永吉(産業技術総合研究所), 下岡 綜(岡山大学)

五幅研修士2年の石田君の発表
永久磁石同期モータの永久磁石平面と電磁石平面を平行にずらすことにより、回転子を揺動運動させるモータの研究開発を行っている。
今回は、簡易シミュレーションプログラムで挙動を精度良くシミュレーションできることを示した内容

電磁石平面と永久磁石平面が平行にズレているモータ

Q:揺動周期と回転周期が固定ではなく、いろいろな動きにできないか
A:現在は、固定周期だが、磁石と電磁石の個数を変えると周期を変更できる
Q:静止状態からのシミュレーションは可能か
A:可能です
Q:これだけ正確にシミュレーションできるのなら、オブザーバとして使えるのではないか
A:貴重なご意見ありがとうございます

無事にQ&Aも終えてほっとした。私の出番はなかった。
毎日猛練習していた成果が出たようだ。

磁化曲線モデルに基づく位置センサレス駆動リニアスイッチトリラクタンスモータの速度制御

◎遠矢貴一朗, 平山 斉, 川畑秋馬(鹿児島大学)
モータに流れる電流から可動子の位置推定を行う位置センサレス駆動により、性能を落とさずに安価なモータを提供できる可能性を示した

非接触精密位置決めステージ高加速度駆動のための横磁束形リニア同期モータの設計

◎片山真守, 古関隆章, 大西 亘(東京大学), 坂田晃一(株式会社 ニコン), 金 弘中(株式会社 コベリ)
ステージを高加速度駆動可能とする、横磁束型リニア同期モータの新しい構造を提案した。

ハルバッハ界磁型リニアモータにおける端効果の検討 -端効果低減の実証試験-

◎山口裕登, 森下明平(工学院大学)
著者らが研究を進めているハルバッハ型リニアモータの端効果を打ち消すコイル配置の提案

逆突極性を持つ半波整流可変界磁リニア同期モータの可動子構造が推力に及ぼす影響

◎寺脇創太, 平山 斉, 川畑秋馬(鹿児島大学)
リニアモータの高推力化に向けて逆突極性を持つ可動子構造を提案し、その影響を解析した

11:40〜13:15 テーマ「鉄道検査・保全技術」

座長 島田健夫三(三和テッキ株式会社)

レール電位検出型レール破断検知手法に関する検討

○松脇康之, 寺田貴行, 中野浩明, 石川 将, 布施卓也(大同信号)
レールを目視することなく、レールの破断を検知する手法の提案

震災後の電車線設備点検手法の開発

○村田 悠, 山田創平, 山宮 聡, 吉田匡志, 加藤 洋(東日本旅客鉄道)
電車運転席のカメラ画像から、電車設備の異常を検出する手法の開発

鋼支持物のボルト劣化検知に関する研究

◎長山健太郎, 青木裕也, 吉田匡志, 加藤 洋(東日本旅客鉄道)
電車の走行振動を利用して構造物の共振周波数からぼると劣化を検知する手法の研究

13:25〜15:25「発電・給電技術」

座長 平山 斉(鹿児島大学)

商用周波による鉄道車両用非接触給電システムの基礎検討

○依田裕史(鉄道総合技術研究所)
レール間に設けたコイルから鉄道車両に給電することにより、架線システムをなくす研究

リニア振動発電における初期エネルギー変更による充電特性および制振効果向上の検討

◎丸山太一, 小柳雄亮, 白濱瑛嗣, 小島穂高, 大橋俊介(関西大学)
制振効果を有する振動発電機の特性に関する研究

フリーピストンエンジン発電機における燃焼変動外乱時に回生運転を継続する制御法

◎入江渉馬, 佐藤光秀, 水野 勉(信州大学), 長沼 要(金沢工業大学)
ピストンがリニア発電機を駆動して発電するエンジンシステムの制御方法

補助人工心臓用空芯偏平型経皮電力伝送用トランスから発生する放射性妨害波の測定 -経皮トランスを導電性シールド材で覆った場合-

◎前川七奈, 柴 建次(東京理科大学)
人工心臓への非接触給電に対する放射性妨害波を遮断する方法の研究

波エネルギー変換装置用横磁束型リニアジェネレータの実時間制御実験

◎労 凱宇, 古関隆章, 大西 亘(東京大学), 梅田 隼, 谷口友基, 藤原敏文(海上・港湾・航空技術研究所海上技術安全研究所), 後藤博樹(宇都宮大学)
波力発電機の制御方法に関する研究

おわりに

電気鉄道とリニアドライブのセッションを交互に配置したことにより、2日とも40名ほどの出席者がいて、会場は大賑わいだった。

電気鉄道のセッションは初めて出席したのだが、いかに線路周辺の設置機器を減らして列車を従来通りあるいは従来以上の精度で運行するかという話題が主で、鉄道事業者の利益に直結する話題なので、質疑応答も活発に行われた。

ただ、鉄道システムにイノベーションを起こすなら、ヨーロッパのように改札をなくし、誰でも駅構内に自由に入れるようにするのが重要だろう。
無人コンビニの技術を活用すれば可能性は高いし、改札人員は不要になる。
駅の無人化や改札撤去関連の発表がなかったのが個人的には残念だ。

リニアドライブ関連も、モータの効率をはじめとする性能向上に関する研究発表が数多くなされた。

ただ、前回の研究会と大きく異なる点として、前回の研究会ではモータの制御や設計に機械学習を取り入れた研究発表が非常に多かったのに対し、今回は機械学習を取り入れた発表はほとんど見かけなかったことが挙げられる。従来の最適化手法を用いた最適化の発表が多かった。

最後に会場を準備した私の挨拶で締めることになり、「倉敷の美観地区を楽しんでから帰ってください」と発言して、締めの挨拶とした。

参加されたみなさんに、「会場の芸文館も、周辺の美観地区も素晴らしかった」といっていただけてほんとうに良かった


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