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トランジッションデザインを使った東京都民のための循環型ファッション廃棄プロジェクト#2

この記事は前回の記事に続き、2023年6月から11月にかけて行われた、サービスデザイン修士課程の卒業プロジェクトの概要について説明するものです。


アウトプット

短期介入施策としてのサービス提案 -継衣-

‘Tsugiii’ (つぎい・継衣) :次に継いでいく衣(服)。東京都民に向けた、地元のシニアと古着屋での1) ベーシックなデザインでのアップサイクルと、2) 服との個人的なストーリーを通じて、不要になった衣類をサーキュラーファッションに手放すためのサービス。
  • ベーシックなデザインでのアップサイクル:地元のシニアとの会話の中から、自分の込めたい思いをもとに、単色染めやワンポイントの刺繍(刺し子)でパーソナライズされたデザインに仕上げていく。「粋」の精神のように、地元のシニアは縫製のプロではないため新品のように完璧ではない上に、単色染とワンポイントステッチでシンプルな装飾だが、その人だけのデザインであり、こだわり抜かれている。

  • 個人の服とのストーリー:アップサイクルを施したシニアとサービスの依頼者であるユーザー(東京都民)各々が服のストーリーや思い出をタグのQRコードからオンライン上で記載。

  • 地域通貨:ユーザーは、アップサイクルされた衣服や使用済みの衣服を古着屋で手放すと、地域通貨が付与される。また、地域の高齢者もこのサービスに協力することで、地域通貨を給料として得ることができる。(アップサイクルサービス自体は法定通貨での支払い)

  • 次に服を継ぐ:古着屋で手放された衣類が再販に適していれば、その古着屋で販売される。傷んでいる場合は適切に分別され、リサイクルに出される。(家庭から出されるよりもリサイクル可能品の割合が高まる)

サービスのストーリーボード

望ましい未来実現に向けた、2050年のグランドビジョン

このプロジェクトは、2050年の東京におけるより望ましいファッションのビジョンを実現するための社会変革の第一歩として「継衣」を構想しました。具体的には「コンシューマー(消費者)」から「コラボレーター(協働者)」としての顧客の立ち位置の転換を目指し、東京都民が想像したビジョンの根底にあった、地域と”共”に暮らす社会の実現を、社会システムの変革によって目指しています。このテーマは社会学、経済学者などの有識者の議論とも一致しています。

短・中・長期の社会変革のシナリオ(Social Transition Path)

継衣を起点とした「衣服(ファッション)」「コミュニティ」「経済」の5,15,30年後の社会変革のシナリオを想定しました。主には、「ファッションビジネスが循環型に変革する」こと、「住民が地域のウェルビーイング向上のために協働する」こと、「経済が法定通貨以外の(地域)通貨によっても動機付けられる」ことを想定しています。

フィードバック

最終的な成果物に対し、専門家からのフィードバックを以下の通り頂きました。

「これまでの自身のものづくりの経験から、サステナビリティにおける作り手の顔が見える重要性を理解しているので、このサービスを高く評価します」
              - アパレルブランド ブランドディレクター

「社会レベルで大きな変化が起こるとき、このプロジェクトのような地域社会での草の根の活動は大きな影響を及ぼすだろう」
           - サステナビリティ&サーキュラーコンサルタント

「サステナビリティのプロジェクトでもビジネスが成り立つことがわかった。是非一緒にこのプロジェクトを実現してみたい」
                            - 古着屋店主


このプロジェクトのまとめ

大学院の卒業制作としてスタートした本プロジェクトは、総勢30名の東京都民の方、アカデミック・ビジネスの専門家の方にお世話になり、トランジッションデザインとサービスデザインの接合を試みるプロジェクトとなりました。

私の短期サービス「Tsugiii」は、現在の社会におけるサーキュラーファッションの草の根的な活動を増幅させ、2050年の望ましいサーキュラーな衣類との向き合い方の実現に向けて、移行を促進することを目的としています。それはファストファッション企業を敵視するためではなく、再生可能なビジネスと地球のために皆で協力するためです。私はほとんどのステークホルダーが現在の社会構造においても、経済的な実現性があるのであれば、サーキュラーモデルを好むと考えています。そのため、私の提案は長期を見据えた、社会的な利益の追求を可能にする循環型社会構造への移行です。

東京都民はサーキュラーファッションに関心がありますが、ファストファッションは非常に安価であり、手間のかかるサーキュラーなファッション行動は実践されにくいです。また、東京に住むシニアは、年齢を重ねるにつれて身体的な理由で遠くに住む友人たちに気軽に会いに行くことができないため、地元コミュニティの必要性を感じています。大量生産・消費の現代では、物質的に新しく完璧なものに価値あるものとされていることがわかります。それに対して江戸では、資源不足により、見た目の派手さではなく、「粋」の精神で、さりげなくこだわり抜いたものが庶民の間では評価されていました。そして、都民との共創ワークショップでは、近い将来ゴミが簡単に捨てられなったことを想定し、「粋」な精神が再び衣服に求められる社会になったら、「共にくらす」ことが大切になってくるのではないかと至りました。その社会の実現の第一歩として提案したのが、都民のための服の継承サービス「Tsugiii(つぎい)」です。

このプロジェクトの次のステップとしては、この構想を本格的なサービスとして試験的に実施し、アップサイクルされた服やサービス品質がユーザーの期待に沿うものであるかどうかを検証する必要がありますこのプロジェクトの限界として、本サービスは製造後の衣服のみを対象としているため、製造時の環境負荷を軽減することはできません。また、直接的に都民のファストファッション購入を踏みとどまらせることにもアプローチできません。しかし、私は短期サービス(Tsugiii)を通じて、循環庁や地域通貨などを取り入れた、ファッション業界・コミュニティ・経済の移行を中・長期的に社会変革のシナリオとして描きました。また、ファッションの専門家が最終フィードバックとして残したように、社会レベルで重大な変化が起きたとき、草の根の活動が都市や社会レベルに影響を与える可能性があり、この短期サービスの可能性を信じています。

私はサービスを通じて、市民が地域社会との「協働者」となり、自律分散型社会を実現することをイメージしています。それは、何が望ましいか?は、いつ、誰にとって、どこで、何のためにかによって変わり続けるため、地域の中で自分たちのあるべき姿を議論し続けることが重要です。このサービスは、都民がサーキュラーファッションの未来に踏み出す最初の一歩になると考えています。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
次回はトランジッションデザインプロジェクト実践にあたり、参考にした資料についてまとめたいと思います。


レポート本文

本記事は以下レポートの簡略版になりますので、詳細を知りたい方は
以下ページ下部にある、PDFレポートをご参照ください。
(PC環境推奨です)



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