なぜあなたはR-1グランプリ2021に怒っているのか

ある朝ぼくがポストを覗くと、差出人不明の、ところどころ写真の挿入された、数枚の便箋が入っていた。どうして届いたのか解らないし、読む義理はなかったけれど、ぼくは仕事を辞めた直後で、暇で、読むことにした。途中でいやになったら、破ればいい。それは以下のような内容だった。






R-1グランプリ2021が終わりました。とてもおもしろかったので感想を書きました。偉そうな感想なので、偉そうと思う方は読まないで頂ければさいわいです。

以下ネタバレを含みます。

※ 個人の感想なので異論は全然ありです。また、ネタタイトルは筆者が便宜上付けたものです

①マツモトクラブ/告白

前半、後半と同じセリフや似た仕草がリフレインされることで、前半がすべてフリになり後半がすべてオチになる、とても美しい構成のネタ。

前半が平板に進むため、いやがおうにも観客は「このあと何か来る」と感じさせられるが、個人的には伏線回収物が来るとは気付けなかった。

後半で伏線回収をゴリゴリに行うネタは、どうしても前半部分に不自然さが残ることがあると思う(プラン9のドレミの歌とか)。それが悪いと言うのではなく、構造的にそうなってしまうのである。だが、今回のマツモトクラブのネタではうまいことセリフがストーリーに溶け込ませてあり、観客が途中で構造に気付くのを阻止していた(勘のいい方は勘付いたと思うけど)。

加えて、私が知らないだけの可能性も多分にあるが、マツモトクラブが今まで伏線回収系のネタを世に出してこなかったことも、後半の展開を隠すことに一役買っていた気がする。マツモトクラブは“セリフと仕草、演技力で周囲の情景を想像させる“などさまざまなテクニックの持ち主だが、ネタ中のストーリーラインはシンプルなものが割合多かったように思う。

以上の点から、マツモトクラブによる伏線回収は多分に意外性を生んだと思われるし、それが笑いを増幅させることに繋がっていた気がする。

ところで、アンジャッシュのコントを続けて見ていると、意外と下ネタが多いことに気付く(バットといちもつを混同するネタなど)。これは仕方のないことで、なぜ下ネタを入れるかといえば、「擦れ違い」という難しい要素をすでにひとつ入れ込んでしまっているので、それ以上に難解な要素を入れると観客が置き去りになってしまうからだ。擦れ違いを理解する余力を脳に残すためにも、マクガフィンのほうはシンプルなものに統一する必要がある。

そんなふうに伏線回収物には種々の制限があるが、そういえば、空気階段のタクシーコントでは前半部にも趣向が凝らされていた。運転手のキャラクターを存分に活かしたボケ(「迷路書いてるんです」など)が含まれていたし、同時に、「これはボケとツッコミによる一対一対応のやりとりが主軸となったオーソドックスなコントですよ」とミスリードしてもいた。そしてそのミスリードには、水川かたまりの高い大喜利力が寄与していたように思う。

そういった大喜利的な強さが、今回のマツモトクラブのネタのボケの一発一発に含有されていたなら、トップバッターとはいえ結果は変わっていたかもしれない。演技時間の短さの問題でネタに濃度を出せなかった可能性もあるけど。

でも、マツモトクラブがさまざまな構成のネタに挑み続けていることは、とても明るいニュースなような気がする。音声の使い方で我々を驚かせてくれたときのように、ふたたび我々をあっと言わせてくれる日は近いかもしれない。

あと言わずもがなだけど、マツモトクラブの作る表情ってやっぱりとてもおもしろい。

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②ZAZY/四季

4つのフリップを用い、男女の日々を描いたネタ。

ZAZYはめちゃくちゃおもしろいのだが、お茶の間から揶揄されるとすれば、「何やってんだか解らない」という一点に尽きると思う。実際、きぬえにパンパンのころ、私の周りでは悲しいことにそういった評価が多かった。

よくよく見ればZAZYのネタは破綻ばかりが起こっているわけではなくて、たとえば鼻に入れる植物が「ズッキーニ→冬瓜」と大きくなったように、関連性や流れがあるものが多く、むしろホエールウォッチングタイムのような唐突な方向転換は少ないように感じる。

とは言ってもやはり怒涛の展開が目立つので、そこにいかに観客をついて来させるかにZAZYは腐心していたんじゃないかという気がする。先に挙げた「ホエールウォッチングタイム(を含むネタ)」を披露したあと、「ホエールウォッチングタイムって自分でも何言ってるか解らない」とZAZYがごちていた記憶があるのだが(記憶違いかも)、そんな言葉からも葛藤がうかがえるように思う。

そういった状況を打破するために編み出されたのが「なんそれ」なのではないだろうか? ナンセンスな展開のあとでも「なんそれ」を挟むことで、観客は共感し、安堵し、変に肩肘張ることなくネタを受け入れることができるようになる。

そして、「なんそれ」で客のガードを解きつつネタの純度をぐんぐん上げていくために用意されたのが4つのフリップだったのではないだろうか? 複数のフリップ、そしてそこに記された春夏秋冬の文字を見て、観客は感覚的に、「ああ、同じような構成のショートストーリーが4つ繰り返されるんだろう」と感じる。つまり、春のフリップでルールを説明してしまえば、夏以降はルールを説明する必要がない(すでに観客はルールを理解しているから)。よって自由に発想を飛ばすことが可能になる。

このようにZAZYのポテンシャルのマックスを巧妙に見せつけた上で、最後のあの展開が待っている。これは巧妙に積み上げた構造を打ち破るものであり、そこからZAZYの「こんなところで自分の発想は止まらないぞ」という宣言というか、気概を感じる。

前半の要素が回収されるのかと思いきやしない、というこの展開は、考えてみればひとつ前の出順だったマツモトクラブの演技がフリになり、いっそう爆発したのかもしれない。それくらいマツモトクラブの伏線回収はきれいだったのだ。ZAZYが出順二番目ははやすぎる、というのが大方の見かただったが、マツモトクラブが出演者2〜3人分を担ってくれていた気がする。

ちなみに「伏線回収される」ネタとしてはギースの卒業式を、「伏線回収されない」ネタとしては磁石の講師を思い出すが、ZAZYはハモネプ文化も踏襲してフリにしていた感じがして、そこに新規性がある気がした。それを抜きにしても単純に不協和音はおもしろい。

恥ずかしながら追記すると私はバカなので、「一個前のフリップに言及する」というネタについていけないときがある。鬼脳トレのnバック計算でワーキングメモリーを鍛えてからもう一回ZAZYのネタを観劇して感激したい(ところどころであるようにひとつ前のフリップが見えていればありがたいなと個人的には思ったが、全フリップそれではスピード感が失われてしまうのだろう)。

改めて観返してると、ツッコミつつボケるという数珠繋ぎのシステムやっぱりめちゃめちゃいい。手数が格段に増えて、2008年の石田みたい。かたち上はツッコんでるから、観ている我々はZAZYがボケ続けていることに気付かないし。

ゴシック体ですいませんとかの言いかためっちゃ好きなんだよなあ あと市役所ジャグリングで掴まれてからの広葉樹林フェィク

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③土屋/自転車

自転車競技部員が徐々に田原俊彦化していくネタ。

まず特筆したいのは、このネタのあまりのプレーンさだ。ふつうコントで見られる「同一のボケの繰り返し」「起承転転転」「伏線回収」みたいな要素がほとんどない。コントを見ないで育った人が作ったコントと呼ぶべきなような、非常にプリミティブなものに感じる。

関係ないかもしれないが、前コンビのとき土屋さんってネタを作っていたんだろうか? 作っていないんだとしたらその無垢さがいいほうに転んでいる気がするし、ブラットピークでネタを作っていて、今回のネタでも意識的にイノセントさを自己演出していたなら、相当な食わせものだと思う。

と思ったが、見返してみたら「足の痛み」で伏線回収していた。そこから「会いたい」「伝えたい」に繋げるという破壊力の高い流れになっていたので、やっぱり意図的なんだろうか。でも決勝の順番決めの様子なんかを見ていると本当に真性に天然な感じもする。作為なのだろうか、どちらにしろすごいけども。

「世代じゃないのになんで?」という言葉が端的に表している通り、トシちゃん全盛期を知らず、爆報フライデーでしか触れてない世代にとって、トシちゃんはちょっと厳しい人に映ってる気がする(実際のトシちゃんには繊細さとかいろんな魅力がある)。そこをちゃんと取り入れたのが、新生R-1を謳う今大会において評価されたポイントのひとつなのかもしれない。

そういった、たとえば「三人組の代表としてアルフィーが出てくる感性は古い」というような感覚はめちゃくちゃ好きだ。トシちゃんだけじゃなく多方面にその方向性で毒を吐くネタだったらどうだったんだろう、と考えてみたが(たとえば隣の選手が鈴木雅之みたいになってるとか)、そんな一言ネタみたいになってしまうよりは、自転車競技一本で通したほうが鮮やかだ。

トシちゃん一本で通すとして、ネタ時間に余裕があれば、たのきんトリオ以外にもトシちゃん情報で遊べたんだろうなあ(「隣で藤森が困ってる」とか?)    余裕があれば、「会いたい」のくだりのあとも具体例を出して遊べた気がする(「くるくる回転するやつ見せてほしいなあ バカみたいにくるくる回転するやつ」とか?) 私のつたない脳みそでは思いつかないけど

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④森本サイダー/出会い系

出会い系で出会った人に逃げられたあと、メタ的に観客へ語り掛けるネタ。

導入でどうしても蛙亭のマッチングアプリのネタを思い出してしまったが、全然別物で安心した。その後、山陽ピッツァの消防士のネタやR-1での大悟のネタを思い出すことになるが、それとも毛色が違かった。私はむだに思い出しすぎだ。

リュックを見せるために一周するところや、フリップにフリップで言及するところなど、構成の器用さが目を引いた。音楽と字体ににじむ悲哀もいい。

ベルトの穴に私は気付いていなかったが、あれは「客が気付いていないところにまで被害妄想的に突っ掛かってしまう」という解釈でいいのだろうか? だとすれば、被害妄想的な方向にどんどん流れていって、「どうせ家の床腐ってそうとか思ってんだろ」といった方向まで進むのも個人的には見てみたい(たぶんサイダーさんはその方向性を棄却してるんだと思うけど、YouTubeのモノマネ動画で見せているような切れ味の鋭さを長尺ネタでも見てみたい欲求がある)。

「僕は天才なのに」から始まる承認欲求高いくだりがとてもおもしろくて、(ステレオタイプな印象で申し訳ないけど)オタク的な風貌にもマッチしていてよかった。時間が長ければそこを掘り下げて魅せてくれるんだろう。

(※ ただの感慨だが、「マッチングアプリ」という無害な名前に甘えていたのに、やってきた男に「出会い系の人〜」とか言われたら、現実を突き付けられたようで嫌だろうなあ というか今回のネタで森本サイダーが使っていたのは最近のマッチングアプリなのだろうか? 旧来の出会い系だとしたら愛おしいな)

私の好みというだけかもしれないが、ひとつの方向にぐんぐん突き進むとネタに破壊力が生まれる気がし、たぶん3分だとそれができにくいのだと思う。結果、広く浅いというか、散漫な印象になってしまう。

容易に場面を転換できるフリップ芸ならば別だが、ひとりコントにおいて3分はきつそうだ。佐久間一行とおいでやす小田が対談で話していたように、4分くらいは欲しい気がする。とはいえR-1は最後に優勝者のネタをプレイバックしなければならないので、ネタ時間は削減するしかない。

そんな駆け足の空気感のなか、ひとつの方向にぐーっと突き進んだゆりやんが優勝したのは至極頷ける。

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⑤吉住/化物

子供と仲良くなった(かと思われた)怪物に村を襲撃されるネタ。

言葉が通じないところでジャブの笑いを起こしつつ、それがちゃんと伏線として効いてくるところや、村長の存在をはやめに知らしめることでバックグラウンドをむりなく想像させるところなど、さすがの技術が光っており、感嘆した。

村が襲われる際の光(と風?)の演出、目をひんむいた演技も最高で、めちゃめちゃ笑ってしまった。

Wと比べてハード目なネタが選定されていたところも、本人や川島が言及していた通りだが、吉住が内に持つ世界の広さを示していたようでとてもよかった。今回ハードなネタを披露できたことは今後の活動においてかなりプラスになるだろうと、勝手に期待している。AマッソにとってのWがそうだったように。

ただやっぱり3分だと物足りなさがあって、その先が見たいなと思ってしまう。我を見失った吉住がどれだけ酷いことを言うのか、どれだけむごいことをするのかが気になる。「頭を狙って下さい」と命じたあと攻撃が効かなかったとして、たとえば「二手に分かれて逃げ場を封じろ、そして目を潰せ目を」とか「仲間を救護してる場合か? まず討伐だろうが」などとエスカレートしていくパターンを見たい気もする。そしてその先で怪物とちょっと解り合える空気が醸し出されながらコントが終わっていくとしたら泣いてしまう。

などと勝手なことを述べてしまったが、本当に、もう30秒時間が長ければ決勝ステージに行ったようなに思う(吉住が悪いのではないが、まだ予告編の段階で終わった感覚だった)。もう30秒あれば、前の2人がひとりコント寄りのネタだったこともあるし、その流れに乗って吉住に高得点が付いた気がしてならない。

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⑥寺田寛明/翻訳

漱石の 月が綺麗ですね のように英文を翻訳するネタ。

めちゃくちゃシンプルでストロングスタイルで、まずはその様が恰好いい。

またバランス感覚が絶妙で、大富豪、ソフトクリームのような古くからあるネタと、弱いwi-fi、かな入力など新しめなネタが取り合わされた形となっている。のちの出順であるkento fukaya もそうだったが、フリップ強者はネタの配分を考える力に長けていてさすがだ。

フリップ芸をする者はそのシンプルさに色をつけるため、たとえばヒューマン中村なら動きを付けたりしていたし、山田よしならフリップとリズムを合体させたりしていたけど、寺田寛明はあえてセンテンスだけで勝負したのだろう。もしかしたらそのぶん、やっぱりちょっと薄味な印象になってしまったのかもしれない。ZAZYの後で濃い印象を残すには、なにかネタに一貫性——デジタルあるあるに縛るとか?——が必要だった、のかもしれない。と、勝手なことを思った。

個人的には、砂肝のくだりであったような発想の飛躍を後半でもう2〜3個見てみたい気もする(たとえばこぼれたソフトクリームで床がいっぱいになっちゃうような?)。寺田さんの大喜利力を持ってすればそれは容易なことであるはずなので、あえてやっていないのだとは思うけども。

そういえば敗者コメントがとてもよかった。ちょっとしたひとことに分析力がにじみ出ている。その力は多方面で役立ちそうだ。

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⑦かが屋 賀屋/電車

電車に乗り遅れた男が何もかもうまくいかなくなるネタ。

汗で額が光っている、長髪が息でなびく、息切れしつつ唾を飲み込むといったリアリティが相変わらず凄まじいし、「当たり前ですよねすいません」といったセリフで電話相手の剣幕を想像させるあたり、さすがのかが屋テクニックだ。

コーヒーで濡れた書類を見て観客が悲鳴を上げるのも解る。これはいい悲鳴だ。それくらい観客を共感させ引き込み惹き付ける力がある。

「切り替え」とつぶやいてからのイヤホン、拾い上げつつズボンを示す、破れ目に気付いたことで息切れが復活する、と展開のシームレスさも見事すぎる。そしてオチに時事性を取り入れるというダメ押しの一手で、「いいもの見た」という感想が観客の胸の中で育つ。

そういったストーリーテリング力が賞レース優勝には必要だ。お笑いに限らず小説でもそうで、読後のボリューム感というのが必要なのだ。

そういえば、もとはかが屋ふたりで演じていた乗り遅れのネタをひとりでやっているところがかなりエモい(ジャルジャルがキングオブコントで2年連続空き巣のネタを演じたことを思い出した)。それで結果を残していることもなおさらエモいし、観ている側としてもどこか誇らしくなった。

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⑧kento fukaya/triple flip story

3つのフリップを駆使したネタ。

まず序盤の「今日は後ろの気分って感じい?」の語調でつかまれる。佐久間一行の決勝ネタ(バッタのおなか触るやつ)のような耳心地のよさを感じた。この「ずっと聞いてられる感じ」はとても大事だ。ピン芸だと顕著に。

ネタのバランスだが、まず出だしの「プライドゼロ」の軽いブラックみが最高すぎる。そこから、「運転ありがとう」「19時におやすみと言われる→イカでも釣りに行ってるのかなあ」と、〝あるあるの範疇にあり、かつあるあるの最高峰なネタ”が繰り出されていく。

そしてラグビー部のくだりを境に異常さが微増していき、「ゆっくりゴリラが立っただけ」「じじいのストック半端ない」など最高のワードが積み重ねられていく。リズム感のよさも相まってめちゃめちゃ笑ってしまった。

欲を言えば、料金所、電車のドアのネタのあたりにもうちょっと強いワードがほしかった気もする。あえて弱めのネタで繋いでいる可能性もあるが。

3セットのフリップを使ったことはビジュアル的に新機軸だというだけでなく、フリップ内の世界に広がりを出すことにも貢献していたわけだが、おそらくkento fukayaほどの発想力があるなら、さらに一歩進んだフリップの使いかたも考えてあるのだろう(各フリップで別々のストーリーが進行して最後だけ交錯するとか、フリップを前後に並べて奥行きや背景を示すとか)。今回は割とフリップショートコントという感じだったので、フリップ長尺コントも見てみたい。たぶんもうあって、私が知らないだけなのだが。

おじいちゃんあるあるとかのタイトルを文字で見せる丁寧さもいい。ネタ後のコメント(「畳の…」)なんかでも気遣いが見える。やっぱり普段気を遣っていろいろ気付く人ほどネタでも細部まで気を配り、そして破壊的なネタを好む気がする。

そういえば「畳の…」で発言を切ったあと、「畳と同じ大きさって言おうとしたんや」とせいやが笑っていたがよかった。そういうひとことで、「なんて言おうとしてたんだ?」と疑問に思っていた視聴者はスッキリできるので。ああいうひとことを生放送でスパッと差し込めるのはさすがだ。

ある意味でkento fukayaのネタはZAZYと対をなしているかもしれない。ZAZYや寺田が「フリップに寄り添い、フリップを見せている」のに対し、kentoは「フリップから距離を取り、フリップの内容を指摘している」。どちらも「フリップの内容を解りやすく観客に説いている」ことに変わりはないが、寺田らのほうが(あくまで見せかたに限った話だが)オールドスタイルで、kentoのほうがニューウェーブで、粗品的で、それを突き詰めると高田ぽる子ということになるかもしれない。そんなことはないか。

最後になるが、魔女の鏡がキティちゃんとかハンギョドンではなくサンリオピューロランド全体を示してきたのがおもしろすぎた 多勢に無勢だろ

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⑨高田ぽる子

取れてしまったおじいちゃんの乳首を買いにいくネタ。

モスグリーンが暗闇で光ると当たり前のように言っていたのがとてもおもしろ買った。そのモスグリーンもそうだが、おじいちゃんがストックをいっぱい持っているなど、「予想を裏切ってくるんだろうなあ」と身構えてしまっているのに、しっかり裏切ってきてくれるすごさがあった。それでいて別にメタに逃げたりスカしたりもしていないし。

自分の仕草とか格好、あと音楽と効果音で観客に狙い通りの印象を与えるのがうますぎて脱帽だ。リコーダーのくだりもギャップを狙ってしっかりギャップを感じさせられている。16分音符が連発されているのもたぶん作為的だ。8ビート程度ではギャップが生まれにくいが、16なら効果はばつぐんになる。

フリップ芸は大きく二つに分けられる。寺田寛明のようにフリップを客観視するタイプと、逆にフリップの中に入り込むものであり、高田ぽる子は後者ということになる。後者の場合、複数人でするコントとの垣根は本質的にあまりない。でも高田ぽる子のこのネタを複数人で演じようとするとリアリズムが歪みすぎるから、やっぱりフリップで演じるのが最適だ。このスタイルでどんどん多作でいってほしい。そして誰かパトロンに見つかって、壮大なアニメ映画とかを本当に作ってほしい。別に芸人でいることが悪いと言っているわけではなく、ただここで終わってしまうのはもったいなさすぎる。天竺鼠のようにアート方面も両立してくれたらとても嬉しい。

発想力とキャラ立ちがあるから漫才も向いていそうだが、ひとりでやるのが楽なんだろうか?

あと、フリップめくる速度が超速いのも効果的でおもしろかったなあ

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⑩ゆりやんレトリィバァ/ちゃうねん

「〜ちゃうねん」の構文でさまざまなものに当たり散らすネタ。

まず、抽象的な事象に目を付けるその着眼の意識に敬意を表したい。具体的な事象をネタにする(たとえば、電話を取ったのにすぐ切ってしまうというネタを作る)のもそれはそれですごいが、発想はしやすいほうだと思う。その点「〜ちゃうねん」は抽象的で、それをおもしろいと感じることがまず難しいし、それをネタに仕上げることも難しそうだ。だからゆりやんがこのネタを仕上げたことをまず尊敬してしまう。

構成も丁寧だ。無機物に語り掛けていく前にテレビのキャスター(無機物と有機物の中間)を挟むのが高等的すぎる。

樹への突っ掛かりをギリギリまで引っ張る→「次いじられるの絶対僕だ」っていう準メタ的なくだりを挿入する+ロッカーで音を出す→ロッカーの中の樹で忘れていた樹を思い出させる と、持てる技術がすべて注ぎ込まれているように感じられる。

特に樹の引っ張りかたは圧巻で、イジりかたを細かくマイナーチェンジして飽きさせず、それでいながら観客に また樹かよ と思わせる最高なあんばいだ。普段から天丼を愛しているからこそ為せる芸当な気がする。

ふつうなら天丼のくだりを後半に持ってきて、椅子のくだりや電話を切ってしまうくだり(電話のくだりはオチに直結しているため最後に配置する必要があるが)なんかを最初に持っていきたいところだが、最初に天丼を持ってくることで後半でもう一度天丼ができるという、天丼至上主義な構成になっている。

3分という時間を短く感じさせない濃厚な掘り下げ度合いだった。先に挙げたように、全体的にスピーディに流れていってしまう今大会の空気感の中、しっかり楔を打ったゆりやんが結果を残したのはめちゃめちゃ納得できる。

ところで、女性出演者のキャッチコピーに全部少女とかクイーンとか入ってるのが時代錯誤な気がしたがどうなんだろう

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今大会、外面はシャープになったが、キャッチコピーや舞台美術の温度感は旧来のままで、大学入った途端金髪にした知り合いを思い出した

ぎちぎちに詰まった番組の構成に対し、「芸人へのリスペクトがない」などの批判が多かった一方で、「ここから成長していけばいい」「このドタバタ感がいい」という意見も少数ながらあった

確かにR-1が完全にM-1の姿を追う必要はなくて(仮にスタッフがM-1に寄せたいとしても)、R-1らしいある意味でのチープさを残しながら、それでいて格式高い大会を目指していくというのはアリだ

吉住のネタ直前に番宣の挟まれる可能性があったようだけども、そういったネタの疎外となるファクターだけ最低限除外していけば、多少安っぽい感じがしてもそれはそれでR-1の色としていいのかもしれない

いずれにしろ前年までと比較すれば格段に大会のランクはアップした気がする 大会名をカタカナにするといった(捉えようによってはこけおどしの)改変も、なんだかんだで奏功している気がするし、この方向性で改良していってくれることを期待したい 既存のフォーマットを解体するのはとんでもない労力だと思うけど

スタッフの皆さんお疲れ様でした いろいろ批判はされているけど、変革の意識がちゃんと見られたのはすごいことだと思う






そこで手紙は終わっていた。私は便箋をまとめ、コンロの火にくべた。



ハワイが危機になったらハワイキキなんですかね?