#5 母からの応援歌
私のキャリアのスタートは美容師だ
もともと叔父がフォトグラファーだったので、フォトグラファーになりたかったのだが、カメラマンを目指す上で写真を撮るだけのフォトグラファーは強みがなく、別の特技が無ければ生き残れないと教えられ、、では、モデルさんのヘアとかを扱えるフォトグラファーだったら需要があるはずと思って、高校最後の夏休みに美容室にバイトに行ったのがこの世界に入るきっかけになった。
バイト先の美容室はスタッフが10名程度で、私が住んでる田舎よりも10駅くらい都会に電車を乗った場所にある。
会社帰りのOLから大学生、、主婦と、、
こういう世界を知らない私からするととても華やかでキラキラしているのが最初に感じた印象だ。
私はそこではパーマ用のロットを洗ったり、床履きをしたり、お客様のお荷物を出したり、お茶を出したり、、、誰でもできることをこなしながら、美容院で過ごす人々を見ていた。
バイトにも慣れてきて、あることに気づく、、
美容院に来店されるお客様は皆、毛がボサボサだったり、少し疲れて見えたり、、野暮ったく見えたり、、、
1ヶ月に一回、、2ヶ月に1回
伸びきった髪を整えにくるので、、毛の状態もそんなに良くないのかなぁ!?という感じで見ていたが、、その、来店された野暮ったい女性達はみんな帰りのレジの時には美しく、キラキラとして活力に満ち溢れてる変化に私はいつも驚かされていた。
美容のことを何も分からない私からすると、
それは魔法のようでとても感動的だった。
この時の感動は一生忘れないと思う。
フォトグラファーになるために準備をしてたし、進路も決めていたが、、
この美容師という仕事は自分の人生をかけてやるべきだ!と思ってすぐに親に相談して、、美容専門学校に行かせてもらった。
美容関係の仕事をして20年になるが、この道を選んで良かったと今でも思う。
たぶん、この気持ちは変わらないと思う。
今は色々な形で仕事をしているので技術的なことだけやればいい感じじゃなくなってきているが、、技術者として誰かのヘアメイクするときは、美容室でのバイトで感銘を受けた、人が綺麗になるという感動をいつも考えながら、技術に向き合うようにしている。
美容師の生活は決して楽なものでもなく、要領の悪い私はまったくうまくいかず、何度も辞めようと思ったが、、沢山の人達に支えられて今日までやらしてもらっている。
関西から東京に出るきっかけは、純粋にもっと勉強したいし、知らないことをもっと知りたいという気持ちの一心で東京に出てきた、、
その後ヘアメイクアーティストいう仕事があるのを知って、、東京で師匠に付いて、、私の美容人生の第二幕が上がる、、
美容師、、美容室で働くというのは、仕事ができないアシスタントでも給料が貰えて、さらに先輩に色々教えてもらって生活ができるという夢のようなシステムだが、、
ヘアメイクは違う、、
ほぼ丁稚奉公で無給料、、昼間は師匠に付いて現場に行き、、ひたすら技術を盗む
夜はバーで生活費を稼ぎ、家に帰るのは朝方4時頃で、、そこから3時間ほど寝て、、師匠の現場に行くという生活を2年近く続けた。
夢があって、若く、、お金もなく、寝る時間もなく大変な生活だが、そんな生活でも辛くはなかった、、しかし、夢だけでは生きていけない現状にヘアメイクアーティストの道を断念せざる得なかった。
食費はもちろん無く、、家賃を払うので精一杯、、水道や電気が止まるのもしょっちゅうで、、生活すること自体がギリギリだった。
悔しいが生活できないことを師匠に伝えて、、大阪に帰ろうと思っていた矢先に母から電話がきて「野菜をいっぱいもらったから、送る」との連絡がきた。
私はもう夢を諦めて、大阪に帰る準備をしていたが、、心配をかけたらいけないと思い、、荷物をとりあえず受け取って大阪に帰ろうと心で思いながら、母からの荷物を待った。
母からの荷物は連絡から翌日に届いて、、
届いた荷物は野菜など入っておらず、、母が作った料理がタッパに入っていて、、手紙が添えてあった。
夢を諦めて大阪に帰ろうとしている自分が情けなく、母の優しさが胸を締め付ける。
母からの手紙
こんにちは
お久しぶりです。
先日電話した時に少し元気がなさそうだったので、野菜ではなく、作りおきのおかずを送るので、、ご飯を炊いて、チンして食べてください。
それと
あなたの銀行に100万円振り込んでおきました、、使わないなら、貯金してください。
貴方はこういう支援の形を嫌がるかもしれませんが、、このお金は貴方へ憐れみを感じて振り込んだお金ではありません。
このお金は私たち家族からの貴方へのエールです。
貴方は自分の夢のために頑張り、自分のために努力してるつもりかもしれないですが、、
貴方の夢は私たちの夢でもあるのです
私たち家族の楽しみは貴方の夢が叶うことをとても楽しみにしてます
だから、このお金は私たちの夢を叶えるためのお金でもあるので、、気になさらず貴方の好きなように使ってください。
季節も変わりはじめて体調を崩さないように身体に気をつけて頑張ってください。
母
今でも、私の仕事へのモチベーションはこの手紙の中にあって、どんな時でも諦めず頑張れるのは母からの「貴方の夢は私たち家族の夢です」という言葉で背中を押してもらっている。
人それぞれに、気持ちを高める言葉だったり、歌があったりすると思うが、、私にとっては母からの手紙でそれは応援歌なのである。
やなぎ まさお
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