柳家花ごめ

落語家です。

柳家花ごめ

落語家です。

最近の記事

嘘道(うそどう)

 以前、映像作品の脚本を書く機会がありまして、その企画をした劇団留級座の星野さんに許可を頂いたので、ここで公開させてもらいます。    映像の脚本の書き方が分からなすぎて、ほぼ新作落語みたいな書き方してます。よくここから映像にしてもらえたなーと改めて感心が止まりません。そもそも引き受けた自分の無鉄砲さがすごい。 劇団留級座 映像配信作品「シバイスト」(2023年5月)より 嘘道(うそどう) 登場人物 男 女 マスター カウンターに女が座り、何か飲んでいる。カウンター内

    • 難易度ウルトラハードモードワード

      ことわざ、と言うのはつくづくよく出来ていると思う。  時にユーモラスに、時に鋭く、人生の教訓や人間の心情の機微を描き出す表現の数々。実に的確な先人たちの言葉である。  しかしだ。先人たちも我々と同じ人間だ。そして人間というのは、完璧な存在ではない。  なかには、一体どういうつもりでその言葉をことわざとして受け継いできたのか、と疑問に思う表現も混ざっている。 「赤子の手をひねる」ということわざがある。ごく簡単なこと、容易に出来る事柄を示す言葉だが、私は長年、このことわざに対

      • 魅惑の哺乳類

        ※この文章は、2021年に春風亭吉好兄さんが企画した、『噺家が好きなテーマで原稿を書いて一冊の本にする』という同人誌に寄稿したものです。兄さんの許可頂いて、こちらにも公開致します。 「好きなテーマで自由に書いていいよ」というお題を聞いて、普段の私だったら、ホラー映画とかそっち系のテーマにしていたと思う。  しかし、ちょうどこの原稿のお話を頂いた時、私はある生き物に夢中だった。今好きなことを書いていいなら、ヤツらの話をするしかないと思った。  出会いは、YouTubeの動画

        • 二度と無い出会い

           せっかくなので、noteのアカウントにプロフィール写真を載せた。  ご覧の通り、金色の虫である。  何年か前、自宅マンションの駐輪場にいたのだが、そのあまりの金色っぷりに思わず写真を撮ってしまい、それ以来、何かとアイコン写真などに使わせてもらっている。だって凄く金色だし。  本当は捕まえたかった。私は取り立てて昆虫好きな訳ではなく、どちらかと言えば虫は苦手な方なのだが、ここまで金色なら話は別だ。ぜひ手に取って、ゆっくりと観察してみたい。できれば連れて帰りたい。  しか

        嘘道(うそどう)

          点滅してる青信号でも止まる

           体力が無いので、すぐ立ち止まりたくなる。  そのくせ歩くのは好きなので、「まあ行けるだろ」とばかり長距離を歩こうとしてすぐ後悔する、ということを繰り返してしまう。いつまで経っても己の体力を見誤る。  そんな私のオアシスが赤信号だ。訳もなく路上で立ち止まっては通行人の邪魔になるし、不審だ。赤信号なら合法的に堂々と立ち止まれる。  合法的にも何も赤信号で止まらなかったら違法だが、全く車の来る気配のない、幅も狭く見通しのいい横断歩道で赤信号を前にじっと止まってると、なんとなく

          点滅してる青信号でも止まる

          シャンプー台のやまんば

           美容院に現れるやまんばの存在を知る人は少ない。  というか、私しかいない。もし私以外にその存在に気付いている人がいたら物凄く怖い。  と言うのも、そのやまんばは私の脳内にしか存在しないからだ。やまんばは、美容院でシャンプーをしてもらう時に現れる。  小さい頃、漫画で読む日本昔ばなしのシリーズが家にあった。お馴染みの有名な話の他に、各地に伝わる民話の様なものも多く、幼い私のお気に入りだった。  中でもとりわけ記憶に残っているのが、やまんばの話だ。どこの地方の話か忘れてしま

          シャンプー台のやまんば

          多分一生忘れない

          小学校の同級生で、放課後よく遊んでいた女の子がいる。 家も近所で、私が彼女のお宅にお邪魔する事が多かったと思う。二人してインドア派な子供だったため、大体は絵を描いたりゲームをしたりして過ごしていた。  事件は、いつもの様に二人で漫画を読んでいた時に起こった。 「おやつ持ってくるね」と言って部屋を出ていった彼女が戻ってくると、その手には煎餅やクッキー、飲み物、袋入りの唐辛子が載ったお盆があった。  唐辛子が載っていた。  乾燥され、鮮や

          多分一生忘れない

          予知すべき事とは

           幼い頃、ケンタッキーのカーネルおじさんが怖かった。今思えば失礼極まりないが、あの笑顔が信用ならなかった。 次に怖かったのは、かに道楽の動くカニの看板だった。 でも彼らは、私の「幼心恐怖ランキング」の2位、3位に過ぎない。両者を大きく引き離し、ぶっちぎりの首位に立っている奴がいた。 「喪黒福造」 藤子不二雄A先生による漫画、「笑ゥせぇるすまん」の主人公。 出会いはおそらく5歳位の時、アニメが放送しているのをたまたま観たのだ。その年頃の子供としては遅い

          予知すべき事とは

          空か海か

           よくする小学生レベルの妄想で、「鳥か魚どっちかの能力が貰えるならどっちがいいか」と言うのがある。 昔は絶対に鳥派だった。水中で息が出来るのも魅力的ではあるが、飛べる、というカードの強さはやっぱり捨てがたいし、色々と便利そうだし、何よりビジュアルがかっこいい。鳥の羽根が生えてしまうと日常生活に支障をきたす場面もあるだろうが、その点は魚のほうが影響は深刻じゃないか。何しろ、人魚みたいに下半身魚になるか、半魚人のように全身鱗に覆われてしまうか、どちらかになってしまう

          開演

           万雷の拍手と共に幕が降り、客席に明かりが灯る。私は椅子から動けず、身をこわばらせてジッと息をひそめている。  感動で胸が一杯になった訳ではない。恐怖でだ。この瞬間が1番怖い。明るくなって、もし私の思い描く光景が具現化していたら…間違いなく、発狂するだろう。ショック死してもおかしくない。  私は、暗闇が怖い。ただの暗闇じゃない。大勢の、見知らぬ他人と共有する暗闇が、怖くてたまらない。  例えば、劇場。明るいのは舞台の上だけ。客席の様子は、闇に包まれて分からない。暗転などしよ

          あやまられる

          「あやまられたんだよ」  久々に会った友人は、ギプスを付けた右足に視線を落としてボソリと呟いた。大学の同期である彼は、最近講義に姿を見せて見せていなかった。体調でも崩したかと思っていたが、ようやく姿を見せたと思ったら、松葉杖を付き、大層なギプスを足にはめている。 「どうしたんだよ、それ。事故った?」  驚いて聞いた俺に対して返ってきたのが、上記の言葉だ。あやまられた。一瞬、何を言っているのか理解出来なかった。 「あやまられたって…何?」 「あれ?言ってなかったっけ?女

          あやまられる

          人魚の夜

          登場人物 山岸 詩織 坂田 美和子 一 明転 詩織 : 目の前が、真っ暗になった。医者が何か説明していたけど、話なんか入ってこない。分かった事はただ一つ。私に残された時間は、あと半年という事実だけ。どうして私なの?何も悪い事はしていない。こんなの理不尽だ。人生なんて理不尽なものだと分かってはいるけど、これだけはどうしても受け入れられない。まだやりたい事は沢山ある。仕事も楽しい。両親も元気だし、友達もいる。好きな人だっている。なのに…。私は嫌だ。絶対にそれだけは嫌だ。私は