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「生理中バッジ」の是非

はじめに

私は、一方的な批判が集まって、サービスや取り組みがなくなるのは好きではない。だから、実際機能するのか・受け入れられるのか、見守って判断したい。バッシングがあったのでやめます!は正解ではないと思っている。
まして今回は試験中の取り組みに対する議論なので、こうやって発信することで、議論が活発化して、何が全員の幸せなのかをみんなで模索できれば嬉しい。

定義として、今回の話は「店員と客」に限定して、店舗において生理中の店員が「生理中バッジ」を着用することの是非を考えるものである。

なお、11/22AM現在、現時点における私の評価は「プライバシーがどう保護されるのか不明」「店員が売り場で着用する必要性を感じない」であり、店頭への生理中バッジというシステムの導入には「反対(ただし改善により賛成に転じる可能性あり)」である。

生理中バッジについて

11/21、WWD JAPANの記事に、大丸梅田店の新しい取り組み「michi kake」の取材記事が載った。

ここで紹介されたのが生理中バッジ(生理バッジ、生理ピンバッヂなど。本稿では生理中バッジとする)だ。
ツイッターで感度の高い人達が、この記事に反応しているのを見て、私も存在を知った。

生理中バッジは、記事に記載の通り、10月15日から大丸梅田店で導入された新しい取り組みである。
店員が生理中であることを表明することで、対客および社内でのコミュニケーションを活発化させる目的があるとのこと。

導入の意図や、使われ方については、漫画「ツキイチ!生理ちゃん」の19話を読むのが早い。
大丸梅田店の考えは直接語られていないが、この19話は大丸松坂屋百貨店への取材をもとに作成されているので、ほぼ大丸梅田店の考えが代弁されていると認識して良いと考える。

ちなみに、基本的な「生理ちゃん」の姿勢については、私は好感を持っている。
今回、生理中バッジの運用について「生理ちゃん」を多く引用するが、これは作品への批判ではないのでご留意いただきたい。

また、大丸梅田店の「michi kake」についてはこちらを参照。
私はもっと性がオープンなテーマになってほしいと願っているし、michi kakeをはじめとする性への取り組みには大いに期待があり、大変嬉しく思っている。

※11/22夜追記:せっかく記事を書いたので、michi kakeに10分ほど駆け込んできた。
満ち欠け、というくらいなのでかなり生理に切り込んだアプローチがあるのか?と思ったが、どちらかというと「自分の体を愛するためのフロア」という印象。
洋服やアクセサリーに混ざって、漢方やサプリメント、生理用品、セルフプレジャーアイテムの店舗も並ぶ。照明の明度が高くてキラキラしているからか、什器が新しいからか、清潔感があった。
閉店間近だったがちらほらとお客さんはいる。
そして、肝心の「生理中バッジ」だが、見つけられなかった。
ざっと通路を通り抜けただけなので、全ての店員は確認できていないし、irohaなど奥まった店舗は覗けてもいない。誰も着けていないのか、見つけられなかったのか、定かではないので、ここについてはまた再訪することとする。

何が論点か

生理や性の話をすると、論点が増えたり、感情的な意見が混ざったり、はっきり議論にならないことも多い(まあ何の話でもそうだけれど)。

なので、最初に定義しておくと、今回私が論点にしたいのは、必要性と、安全性だ。
つまり「店員が生理中であるかどうかは、客体にとって、店員とのコミュニケーションに必要/有用な情報か?」「生理中か否か、ということを表明したくない人間のプライバシーは保護されるのか?」という2点である。

生理の表明はいつ必要な情報か

今回の導入について、前述のWWD JAPANの記事では以下のように説明されている。

同売り場は10月15日からは売り場のコンセプトに合わせて、同店のスタッフへ本人の希望に合わせて、生理中であることを示す“生理バッジ”を試験的に導入している。社内や来店客とのコミュニケーションツールを目的にしている。( 引用元: WWD JAPAN | 女性の性と生理にフォーカスした新売り場を大丸梅田店がオープン スタッフの“生理中バッジ”も導入

考えたいのは、果たして来店客とのコミュニケーションにおいて、このバッジは必要なのかということだ。
私は疑問に思わざるをえない。
このバッジをきっかけに客と店員がどのような会話をすると想定されているのだろう。
「私は/私も生理中なんです」という表明は、会話の取っ掛かりにはなるかもしれないが、それなら「私は/私も生理があるんです」でも充分に用件を満たすんじゃないだろうか。

これは、「生理ちゃん」19話を見ても同じだ。
客がスタッフに「バッジつけてる」と話しかけ、スタッフが「大変ですよね」と返事をする。客が「あんた生理かいな」と気遣いを見せる。ただ、それ以上の展開は見られない。
バッジから何も、広がらないのである。
むしろ作中で主に語られているのは、社内のコミュニケーションだ。
(とはいえ、この話は百貨店側の目線で描かれているので、社内の話が多いのは仕方ないし、ページ数という尺の関係もあるだろう)。

もちろん、この「生理中バッジ」が、上述のような広がらない会話を、意義あるコミュニケーションと考えて実装されている…という可能性もある。
ただ私は、本気で"店員が生理中だと分かると、客に親近感を与えるので話しやすくなる”と思って運用しているのであれば、ことはもっとナンセンスだと感じる。
なぜなら、生理は特別なことではなく当たり前のことだから。
わあ生理中バッジ!あなた生理中なんだ!って話しかけたい?
そっか〜〜…で?って感じじゃない?

結局のところ、客と店員なのだ。

客は商品を買うために「生理の当事者としての意見」を参考にするかもしれない。
使ったことのない生理用品なら、使用感や不安要素について質問したいと思うだろう。実体験のある店員の意見は心強い。そういう観点でいうと、生理の当事者かどうかは、表示の意義があると言える。
でも別に、今まさに生理だからといって親近感が湧いたり、発言に実感を伴ったりはしない。そこにライブ要素は不要だ。
付け加えると、生理が無い人=第三者の意見が欲しい場合もあるだろう。

繰り返しになるが、初対面の店員と客は「売り手と買い手」の関係であり、プライベートな間柄ではない
買い手は、買うかどうか判断するために店員の助けを求めており、店員の現在の体調は商品の購入に影響をもたらさない

とはいえデメリットが無ければ、実施を止める要素たりえない。
ただ、生理中バッジにはデメリットがある。
プライバシーの話だ。

生理中と伝えるべき場面

プライバシーの話の前に、脱線するが、生理中であることを伝えるべき時もある、ということは特記しておきたい。

私は、決して、「生理中であることを表明するメリット」が無いとは思わない
むしろ、社内(ないし、思いやりを持つ人間同士)など、親しい間柄においては、大いにあると思うのだ。先ほど触れたが、それは風邪でも持病でもいい。周りの人間に「自分はこういう状態です」と表明することは、とても大切だ。

生理中バッジは決して突然生まれたものではない。

ツイッターで検索すると、今回の報道より前から生理中バッジを求める声があったことがわかる。
だがその声のほとんどが、マタニティマークやヘルプマークみたいに、とか、教えてくれれば気配り方が変わるのに、といった、「外から見て分からない負担を視覚化するツール」としての需要である。
また、実際に販売されているものもある。掲載は控えるが、興味のある方はお探しいただければすぐ見つかるだろう。この商品は、パートナーや家族に対する表示ツールとして販売されており、PMS等を理由とする衝突やトラブルを避けるためのもので、外出時に使用するものではないと示されている。

「生理ちゃん」19話でも、店員たちには「マタニティーマークみたいなもの」と紹介されている。その中で、プロ意識のもと生理中バッジをつけなかった店員が、酷い生理痛で倒れてしまう。
彼女が生理中だと話してくれていれば、もっと早く助け合えたかも。それはやはり、ヘルプマークとしての機能であり、社内でのコミュニケーションの話なのだ。

生理中であると一言伝えれば、分かりあえることは沢山ある。生理の症状…とりわけPMSへの理解などはまだまだ低い。個人差が大きいことが、それに拍車をかけている。
正しいリテラシーのある社会になれば、生理はまさに「生理的な身体活動」であり、変に特別扱いしたり蔑んだり笑ったり悲しんだりするものではないということを、当たり前として皆が考える。
生理、あるいは性に関する啓蒙活動は、悲しいことにまだ始まったばかりで、沢山のアプローチがあっていい。
「生理中バッジ」も、ヘルプマークとしての運用であれば、実用性と共に、生理への関心を高め、理解を促す一助になることが想像される。

加えて、不調への理解についても触れておきたい。
前述した「生理ちゃん」19話のワンシーンにおける、客が店員を気遣うセリフ「あんた生理かいな」も、客と店員のコミュニケーションではあるが、同じくヘルプマークとして機能した場面である。あら生理なの、体を大事にね。
それはしかし、生理でなければ気遣ってもらえないことなのだろうか。生理は人それぞれだ。ピンピン元気な人もいるし、立てないほど重い人もいる。
誰もが、立場より前に、きちんとアンテナを張って、他者に優しく生きていればいいのだ。生理でも風邪でも何か持病でも。
相手の体調が悪そうなら気遣う。それを生理の時だけ特別大事にするというのは、少し違うと思っている(…ただここには、しんどいのを言い訳にするな!的な根深いクソ思想との対立がある。今回は論点が違うので話さないが、みんなが他者に優しく生きる世界には、まだまだ遠いのが世の実情だろう)。

あと、重ね重ね言うが、買い手はヘルプマークの有無を理由に購入を決断しない。バッジを付けた店員へ気遣いをしても、バッジを理由に親しくはならないし、売り場の商品を買うかはまた別の次元である。

伝えない、というプライバシー

バッジが店員と客という関係において特に効果的ではないということに前段で触れた。効果がないだけなら、やってもやらなくてもいいが、問題があるならやらないほうがいい。

その問題点とは、店員のプライベートな情報がどう守られるのか、ということである。

生理中バッジは、WWD JAPANによれば「同店のスタッフへ本人の希望に合わせて」とあり、大丸梅田店としては、バッジ着用は義務ではないのでプライバシーは守られているという認識のようだ。

つまり、売り場には「バッジをつけた生理中の店員」「バッジのない生理中ではない店員」「生理中かどうか伝えたくない店員」がいるはずだ。
しかし疑問がある。果たして来店した客は、バッジをつけていない店員について、生理中ではないだけなのか、意思表示したくないのか、区別がつくだろうか

正直、先ほど述べた通り、デメリットが無ければ実施しても良いのだ。希望する人には、表明する自由があるから。
でもそれをバッジというシステムにしてしまうと、その環境の中にいる人間は枠組みに仕分けされてしまう。

誰しも言いたくないことがある。
休みの日に何を着ているか。昨日何を食べたか。芸能人は誰が好きか。
何をプライベートと考えるかは個人個人の差があって、プライベートなことを他者に伝えるかどうかも、個人の自由がある。

生理は隠すべきことではないし、当たり前のことで、恥ずかしいとか汚らわしいとか思うことではない。
でも、決して「隠すべきこと」ではないだけで、個人の自由に委ねられており、隠したい人は隠していいはずだ。当たり前であることと、気軽に扱うことは、決して連動しない。
何なら、隠すか話すか、その日の気分で違ってもいい。

店員がバッジをつけることは、世界に根を張る「ケガレ」の意識に対する打開策としての側面もあると思う。あまりにも性への理解が不足しているし、まだまだ生理はクローズドだ。このぐらいオープンでもいいんだよ!という、少し派手なアピールは大事だとおもう。
でも、隠したい人だっているのだ。
「バッジをつけていないから生理じゃないんだな」と思われるのも嫌だ、という人だっている。逆に「バッジをつけてないから隠したいんだな」と思われるのが嫌な人もいるだろう。

彼らの隠したいという意思はどうやって尊重されるのか?
自主的な活動なら良いが、仕事となると、そこに生活が関わってくる場合があって、主義主張に反するので仕事辞めますとは言えない場合もある。

前項で述べた、ヘルプマークやマタニティマークのような趣旨で使う生理中マークなら、納得できた。マークをつけていない人は、生理かもしれないし、生理じゃないかもしれないが、いずれにせよ手助けが不要なだけだ。
だが、生理中の人とそうでない人をカテゴライズするバッジシステムは、システムの内の人間の、話さないというプライバシーを侵害しうる。
その検討がなされていないので、私はこのシステムに対し現状「反対」としている。

ケガレからの脱却

最近になってようやく、女性の体への理解を深めようというムーヴメントが顕著になってきたと思う。
血液をケガレとする思想は、古くはヒンドゥー教の考えが奈良~平安時代に流入したものだそうだ。日本で千年以上続いた月経禁忌は、やっと転換期に向かっている。

よく、男性の無理解といった論調になりがちだが、それは全くもって正しくない。非当事者=男性の体で生まれた人だけに啓蒙するべきことではなくて、全ての人に理解を呼び掛けなくてはいけない。
生理のことを、恥じずに、隠さずに、当たり前のことを当たり前として語っていい時代がやってきたのだ。
すなわち、自分の体のことをどう語るかは、自分で決めていいのだ。

でも、まだまだケガレ意識は根深く、人前では語ることが出来ないと考える人も多くいるのが事実だ。生理の当事者であっても。
そういう人たちにとって「生理中バッジ」というシステムが店舗に導入されることは、隠したい人を強制的に隠す自由がない状態へ引きずりだす、恐ろしい取り組みとも思われかねないし、ひいては「女性の体への理解を深めようというムーヴメント」への誤った認識を与えかねない。

あなたの体に関するプライバシーは守られています。
バッジを使って啓蒙するのなら、そう言えるシステムであるべきだ。

結論

上記の意見から、私は、店舗においてあまり/まったく効果のない表示が、店員のプライバシーに抵触しているので、「生理中バッジ」というシステムについて、反対している。

何バッジだったらよかったか

批判だけするのも嫌いで、政治など特に「だったら対案を出せよ」と思うことばかりだ。よって、論じて「反対」としたからには対案を提示するのが礼儀だとおもう。

プライバシーに抵触する可能性のある事柄を、生理や性をテーマにした店舗の、店頭でつけられるバッジ化する。
この場合、まず大切なのは「つけたい人だけつけられるテーマ」であることだろう。
私は、得意な商品ジャンルを示すものが良いと思う。

例えば、生理用品の種類。
各店員が、推しの生理用品のバッジをつける。月経カップなら私に聞いてね!サニタリーショーツなら私に聞いてね!というアピールは、買い手の客にとって大いに助けになる。
これなら、男性などの生理当事者ではない店員も着けられる
個人的にはセルフプレジャーグッズでやってほしい。まだまだ無理解がはびこっていると思っている。

あるいは、実体験が語れる・親身な相談に乗れるといった、職能としての当事者性を示すものも、買い手にとっては有用だ。
腰痛・頭痛・腹痛・イライラなど、諸症状に有効な商品の説明ができることを示してもいいかもしれない。苦痛そうなバッジを着けているのはちょっと微妙だが。
大丸梅田店だと、生理周期を「ブルー期(生理中)」「キラキラ期(生理後)」「ゆらゆら期(不安定な時期)」「どんより期(生理前)」に分けているそうなので、それぞれの時期におすすめの商品を説明できますよ!というバッジも可能だろう。

ちなみに、別にバッジをつけていなくても困らない。店員なので、得意不得意はあれ、誰に何の商品のことを聞いたって良いのだ。
むしろ店員同士でも「それなら〇〇さんが詳しいわ!」と助け合えるかもしれない。

おわりに

今日の朝、WWD JAPANの記事を読んで、感情のままにワッと文章を書き始めてしまった。
そのまま、仕事があったり中断しながらこの記事を書いていたのだが、そうこうしている半日の間に、一気に大丸梅田店が炎上している様子である。

その中で、危険な発言を見つけた。曰く「みんなで抗議しましょう」とのこと。

冒頭でも述べた通り、正しく議論がされて、改善があればいいと思う。ただ糾弾して、中止に追い込んで、業界を委縮させていたのでは進展はないのだ。まして今回、大丸梅田店は「試験的に導入」しているのである。

プライバシーの考え方について、もっと聡明に丁寧に慎重になってほしいとは切に願うが、それは中止ではなく改善によって示されたい。

あくまでも現状の運用については「反対」であり、個人の自由に任せているからOKというプライバシーの考え方をしているところには不安しかないが、大きな企業が禁忌とされてきたテーマに取り組もうとしていることは、評価されてしかるべきだ。

新フロア「michi kake」が、良いムーヴメントの発信地となってくれることを願い、生理中バッジの是非を含めた再検討・より良い百貨店づくりが進んでいくことを期待して、本稿の末文とする。

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