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劇場版さよならテレビを観た(ネタバレしかない)

どうしてこれを見て不快な思いになるのか

まず初めにこの制作者によるインタビュー記事をご覧いただきたい。(第4回まである)

読んだかな? 読まずに飛ばした人に箇条書きで説明すると

・「さよならテレビ」というタイトルだからテレビの闇みたいなのを期待してるだろうけどそんな物は無い

・そもそもこのドキュメンタリーは見ていてイラつく物として作っている。

・むしろこのドキュメンタリーを見て怒った人はその怒った部分に自分が何をメディアに期待していたのかという写鏡になる。

・ドキュメンタリーには演出が無いと思ってるかもしれないけど、編集行為がされてる以上誰かの演出はある。

・日本のドキュメンタリーは頭が固すぎ。もっとエンタメを意識した作品があってもいい。

とまぁ、こういう感じの趣旨の事が書かれている。ハッキリ言ってこういう制作者の意図が分かった上でないと理解されにくい作品はその時点で作品としてのクオリティに疑問符がつけられる。しかもこれを狙ってやっているのなら尚更だ。制作者の意図が分からないと本当の意味が見えてこないーーそう考えると「さよならテレビ」はアニメの楽しみ方に近いのかもしれない。

Twitterで作品の感想をしている人を見ていると作中で然りに出てきた「報道の役割は弱者に寄り添う事」というフレーズに縛られている人が多く散見された。制作者である報道出身の土方Dは東海テレビ本社側の人間で取材対象である3人のうちの2人が派遣社員と契約社員なんだから、その弱者に寄り添ってないじゃないかというものだ。だから正義感の強い契約社員がインタビューの最後で

「テレビの闇はもっと深いんじゃないですか? こんなぬるい結末でいいんですか?」

という台詞を言うのが共感を呼んでしまう。これには東海テレビというテレビ局がドキュメンタリー番組を多く制作し、そういうのが好きそうなリベラル系な人達に絶賛されているという背景があるからだ。例えるならば行きつけのレストランでメニューにあったシェフの気まぐれサラダを頼んだら本当に気まぐれで作ったような珍妙なサラダが出た時の気持ちだろう。

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こちらは現在上映されている映画館HPに書かれた宣伝文である。(http://www.nanagei.com/mv/mv_n1417.html)

結論から言うとこの画像に書かれているような事はほぼほぼ詐欺に近い。薄っぺらいメディアリテラシーの代わりに、契約社員と派遣社員とアナウンサーが仕事であれこれやって上手くいったり失敗したりする光景を上からの目線で映し出す。

(日本の)ドキュメンタリーを好んで見るような人間は対象に寄り添って自分の目線で見て楽しむ事を好む。それが上から目線だとしても上から目線だと気づかせないような演出や上から目線でも不快にならないような演出が施される。だから、後半になるにつれ監督である土方Dが誘導をするようにインタビューを露骨に進めて行くサマは不快さを覚えただろう。制作者のいやらしさを出すというエンターテインメント、不快になる為のエンタメ演出を駆使したドキュメンタリー、それがこの「さよならテレビ」の本質だと思う。

思い出される「放送禁止」シリーズ

こちらは劇場で観終わってすぐに書いた感想である。真っ先に連想したのは「放送禁止シリーズ」だった。(期せずして同じフジテレビ系列である)放送禁止シリーズは「事実を積み重ねることが真実に結びつくとは限らない」という事がテーマにされていたが、この「さよならテレビ」もそういう側面が色濃く反映されている。

最後の数分で明かされるネタバラシ、ドキュメンタリーの中に仕込みとやらせのシーンがあった事を明かされるのはかなり刺激的なものだった。自分が見ている画面そのものが正しいとは限らないと口では言っておきながら、実際に見てそこに感情移入してしまうと、見ているものが本当だと思いたくなってしまうのである。「言うのは簡単だが、実際にするのは難しい」事の典型的な例だろう。

放送禁止ファンの人が見るかもしれないので一つ言っておくとこの作品はあくまでノンフィクションのドキュメンタリーで、放送禁止のそれに比べたらトリックなども少なく見易いものに映るかもしれない。何より一番疑問に思うのは「今の今まで映してた契約社員と派遣社員の日常は本当だったのか?」という作品に対する根幹的な事である。そういう根幹的なものが揺らいだとしてもこの作品自体は助けてくれない。制作者のインタビューなどを読み漁るしか無いのである。本当に不親切な作品だと思う。

まとめ

・作品自体は不親切。タイトルに期待してみると期待と違うものが出てくる可能性が高い

・途中で死んだような目になる福島アナウンサー、愛嬌が良いといえば聞こえがいいがヘラヘラ笑ってるようにしか見えない派遣社員のワタナベ、最後には主人公っぽい感じになる契約社員のサワムラと役者としてのキャラクターは揃っている

・全体的にみると放送禁止シリーズっぽいけど、そうして見ると今度はトリックが弱い

・こういう既存のものに挑戦状を叩きつけておきながら、中身はモヤモヤとした感じになるのは既にアニメ作品でいくつか存在している。その点で言えば日本のドキュメンタリー界隈はかなり保守的でガチガチなんだと思う。こういう作品はもっとあった方がいいと思うので。

・さよならテレビはノイタミナアニメ(フジテレビ系列だけに)(了)



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