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漫画編集者による意味のよくわからない言葉から漫画の本質に近づいてみようのコーナー8「もっと絵を上手くした方が良いよ」

ふざけんなよ!

そんな偉そうな事言うならお前描けよ! 描けるようになったら言えよ!

と、言いたくなるけどそれでは橋下徹くらいの知性になってしまう。そして漫画家としての立場を自ら放り出すことになってしまう。
編集者は編集者だから言えることがあるんだ、と思ってこの言葉を拝受し、分析していく方がいいと思う。

じゃあ、上手いってなんだ?

まず考えて欲しいのは編集者が言う「絵を上手くする」「上手い絵」ってのはなんだ?って事であろう。

『ベラスケスによるインノケンティウス10世の肖像画後の習作』(1953年),公式サイトより

例えば上はフランシス・ベーコンというイギリスの画家。20世紀後半ではもっとも重要な画家の一人だが「これだ、これを描いて欲しい」という編集者は多分一人もいない。

『書斎の聖ヒエロニムス』(1605年 - 1606年頃)

今度はカラヴァッジオという17世紀の画家の絵である。これはもしかしたら「おお、こういう絵がいいね」っていう編集者がいるかも知れない。
この二つの絵の差は写真的なリアルっぽさだろう。
じゃあリアルなら良いのかって言うと

“Untitled; Zuzanna,”2016.©Yigal Ozeri,

これはイスラエルの画家イガル。オゼリの絵だが「これで全て描いてくれ」という編集者は絶対にいない。これはハイパー・リアリズムとかフォトリアリズムという画法を駆使した作品。
つまりリアルすぎてもよろしくない。言葉を換えるとこうなる。

①上手い漫画の絵にはほどほどに写真ぽいリアルさがある。

これだけではもちろん、ない。
生成系AIに注目している人もいると思う。試したらわかると思うが
「まだ生成AIじゃあ漫画描けないよな」
ってわかると思う。一番デカい理由は
同じキャラクターで別の絵を描くのが極めて難しい
からだ。KEITO【AI&WEB ch】というYOUTUBE番組でAIマンガ家のけいすけさんと言う人がその難しさについて語っているが、ボクもほとんど同意見だ。ということで、漫画家の絵の上手さにはこういう条件もある。

②繰り返し同じ(ように見える)絵を描ける

それから、わかってても対応できないものに
③絵には流行廃りがある

というのがある。さいとうなおきサンなんかがこの話を良くしているので自分で調べて欲しい。
この対処は本当に難しい。一人一人には美意識が有り、その美意識は時代に影響を受けており、一回完成させると変更が難しいのだ。ボクが知ってる漫画家さんでこの変更が出来た人は少ない(かくいうボクも出来ない)。希有な、しかもすさまじい例もあって外薗昌也さんがそれ。


上が1980年、下が1996年。どれだけの苦労をなさっただろうと想像するだけで汗が出る。
これだけ努力してても例えば上のような絵が流行ったら、また戻すのはかなり大変だと思う。

じゃあどうすりゃいいのかっていうと……「これしか描けないけどね」っていうポジションに早く以降しちゃうことである。そして流行の絵に敏感な少年誌などから去って行くことである。水木しげる先生なんか何十年もほとんど変わってなかったわけだし。

さ、手近な漫画雑誌などを見ていただきたい(もちろんマガポケなどのWEB雑誌でも結構です)。絵の上手い人がたくさん並んでいる。①②③をクリアしてる人たちの絵だが……。何故違った絵なのだろう?
描いてる人が違えば違うのでは?
と思いますか?
そう。それが正解。

④絵の上手さにはいろいろな方向性がある

これ意外に忘れている人が多い。上手くなろうと思ったら、目標を決める。そこに向かう努力をするってことだが、最初の方向を見定める事をかなり自覚的にやった方がロスが少なくて済む。
なるべく楽して上手くなった方がいい。

まとめると

①上手い漫画の絵にはほどほどに写真ぽいリアルさがある。
②繰り返し同じ(ように見える)絵を描ける
③絵には流行廃りがある
④絵の上手さにはいろいろな方向性がある

こんな感じ。繰り返すけど
なるべく楽して上手くなった方がいい。
駆け出す前に方向を見定めた方が楽だ。

と、ここまで語ってなおふれてないもの

実はある。上の話は、漫画でなくても例えば連作イラスト(小説とか新聞連載記事などに使うもの)にも大体当てはまる。が、漫画ならではの絵の上手さってのも当然ながらある。
それについては、いつか別項目で。気が向いたら。

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