メディアの話その123  91歳のイーストウッド、54歳のサザエさん波平 49歳の小津映画笠智衆。

80年代、明石家さんまさんは「今年で30、しっとるけのけ」と唄っていた。30歳にもなってこんなかぶり物をするなんて、というため息とともに。
それから40年、さんまさんのキャラは変わってない。30歳手前のしっとるけのままである。さんまさんだけではない。あらゆる人間は、80年代のある日あるとき、年をとることを許されなくなった。あらゆる人間が強制的にピーターパンになった。

強制したのはだれか。「高齢化」というおばけである。

かつて「現役」は50代半ばで終わりだった。サラリーマンから芸能人まで。
そこからさきは「余生」だった。

理由ははっきりしている。1950年代まで、たとえば日本男性の平均寿命は60歳そこそこだった。55歳で定年退職。余生は5年で、そのあとは天国だか地獄だかに行く。

だからひとは、20代30代40代50代と出世魚のようにキャラを変えて「年相応」の顔で生きてきた。で、50代前半には、じいさんに、ばあさんに、なった。

サザエさんの波平(54歳)ふね(50歳)が典型である。
小津安二郎の「東京物語」に出てくる笠智衆は、老人役だが、実はまだ49歳だった。

ところが、80年代に50代のひとから、先進国では現役をやめなくなった。
80年代、ハリウッドには60代の現役主役スターはほとんどいなかった。
50代のクリントイーストウッドがすでに長老格だった。
40年たって、イーストウッドは今だ監督として番を張っている。
2021年には、91歳にして監督主演作「クライマッチョ」が公開予定である。

いまの50歳代というとブラットピットやトムクルーズあたりだが、どうみても世代としては現役「中堅」である。
60代70代の現役がいっぱいいるからである。
思えば、島耕作が象徴的である。80年代、課長昇進した我らが島氏は、部長になって以来、社長になり会長になり相談役にまでなったが、ある意味で歳をとることを許されなくなっている。2021年の島相談役74歳は、初芝電機創業者の亡くなった年78歳ともはや3歳しか違わない。

いま、波平とふねと年代が近いのは、江口洋介と森高千里夫妻である。森高千里はすでにふねより年上のはずだ。


私たちは「年相応」という概念を失った。
「団塊世代」「新人類世代」「バブル世代」「ロスジェネ世代」「草食世代」などと、世代でひとくくりされたまま、永遠に見てくれの年をとれずに、馬齢を積み重ねる。
それが天国か、地獄かは、よくわからない。
とりあえず、小津安二郎の映画も、サザエさんのマンガも、今後うまれることがないのは確かである。

そして一方で、心は確実に歳をとる。体や見てくれは若くって、心が老いる。ライフシフト地獄の始まりである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?