メディアの話その116 トースト娘の消失と氷河期と男女雇用機会均等と。

女の人が夏に肌を焼かなくなったのは、いつからだろうか? 
焼くのがやばくて、色白が正義になったのはいつだろうか? 
そして、価値転換はなぜ起きたのか? 
夏目雅子のCMやトースト娘ができあがる。
は、どこに行ったのか?


最大の理由は明白である。
1994年からの就職氷河期と1992年のリオ会議である。
かつて、夏にこんがり焼けた肌は、ステイタスであった。
沖縄へ、さらに遠くの海外の南の島で優雅に焼く時間がある。金がある。その証なのであった。
だから、高気圧ガール。だからトースト娘。


その後、バブルになると、小麦色の肌はディスカウントされた。
もともと、ANAやJALは沖縄方面でリゾート開発を行っており、その回収のためにも、夏、山下達郎、ビキニ、日焼け美女でコマーシャルをがんがんうち、若い女性を南の海におびき寄せていた。


さらに、ANAが国際便を増やし、カリブ海などトロピカルな方向に飛行機を飛ばすようになり、JALも対抗して、タヒチ直行便などを出していた。バブル景気に加え、円高傾向が強まり、海外旅行は、国内旅行よりも何倍も安かった。


バブル期、4年生の夏休みにさっさと就活を終えた女子大生たちも、OLさんも、こぞって南の海にでかけていた。


かくして、トースト娘が大量に生産された。


おまけにトースト男も生産されたが、むさ苦しいのでその話はどうでもいい。


バブル崩壊後もしばらくは南の海へ、という流れは止まらなかった。週末グアムやサイパンへ、という旅行商品が、CMをにぎわせていた。


が、1993年から94年にかけて、就職氷河期が到来すると、大学生の旅行需要はがくっと落ちた。

それとセットだが、OL、一般職という職種もなくなっていった。1985年に施行された男女雇用機会均等法が、皮肉にも就職氷河期とセットで、実質運用されるケースが増えたからである。金融機関や総合商社などがそうだ。

一方、92年のリオ会議では、世界最初の大掛かりな環境サミットが開かれ、温暖化、海面上昇など、生物多様性の危機などがはじめて、国際政治と経済の世界で、共通の課題としてもちあがった。
その中で、女性たちの注目をあびたのが、フロンによるオゾンホールの増大と、それに伴う紫外線の照射量の増加、その結果、起きた皮膚がんの増加であった。


日焼け=健康的、から、日焼け=皮膚癌、へとイメージが大きく変わろうとしていた。

その直後の93年から94年の就職氷河期が訪れる。

日本人は(白人に比べるとメラニン多いから、皮膚癌には相対的になりにくいはずだけど)、「日焼け=健康によくない」が、トロピカルなところに海外旅行に行けない、なぜならお金がないから、という事実を背景にして、正義となり、そして常識となった。

さらに背中を押したのが、おそらくは鈴木その子さんである。彼女が推す美白ブームは、地球環境問題と就職氷河期のダブルパンチで、日焼け=悪に対し、最後のひと押しとなるパラダイムシフトをもたらしたのであった。
2000年に鈴木その子さんは亡くなるが、彼女がかけた美白の魔法は20年たっても生き残っている。

夏のお肌対策はトースト娘から「絶対焼かない」に変わったわけである。

トースト娘の再来は、いまのところない。

それにしても、日焼けした夏目雅子さんやキャティは、かっこよかった。

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