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3度目の正直の話

南国の楽園、沖縄はいつだって本州人のあこがれだ。

私はこれまで一度訪れたことがあるが、かれこれ10年以上前の話。しかも元カレとのどうでもいい記憶と化していたので、ぜひとも今カレとの思い出にアップデートしたいところである。

今カレは旧ソ連出身であり、「リゾート地と言ったら黒海沿岸」しか知らないピュアな男。

沖縄旅行の話を持ち掛けたところ、ひたすらに

「沖縄の海の塩分濃度は?」

とうるさかったが、これは今回の話と関係ない。

そもそも濃度など知らない。


さっそく計画したのは2018年の7月、最高のシーズンに狙いを定めた。ダイビングをしたいという彼の意向を踏まえ、2泊3日の日程で本島のあらゆる観光地のプランを組んだ。

早朝の便で那覇空港へ到着する。熱帯特有の暑さに、彼はかなりの衝撃を受けたようだ。

と突然、空港のロビーでおもむろに

「これいらなかったかな」

と言って、長袖のトレーナー(裏起毛付き)を出す彼。


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どこに行くつもりだったのだ。

聞くところによると黒海沿岸は夜になると涼しいらしい。どうやら、彼は海の塩分濃度より先に知っておくべきことがあったようだ。

まあ、この件も今回の話には関係ない。


初日に予約した初心者ダイビングを楽しんだ私たちだが、その日の夜に不穏な情報を耳にした。


台風が、うまれた、だと…?


きっと反れる、大したことはないはずだ、私たちは3日間楽しい時を過ごせるに違いない、大丈夫…

祈りにも似た気持ちで、刻一刻と変化する気象情報から目が離せない。

2日目は美ら海水族館を見学し終わった時点で、

「明日の飛行機が飛ばない」

というメール連絡を受けた。私は観光そっちのけで、鬼の形相で予約の取り直しをする。日本語の読み書きができない彼はこんなとき役に立たない。台風が来ることを喜んですらいる。しかし私は明日帰れなければ有休をオーバーしてしまい、職場に多大な迷惑をかけてしまうのだ。

だが無情にも帰りの便の予約は3日後にしか取れなかった。

私は絶望的な気持ちのままレンタカーを運転して、南方のおきなわワールドに向かうのだった。

その日の夕方から強い雨が降り始めた。そしてこんな速報がスマホに届いたのだ。

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避難、だと…?

結局残りの3日間、ほとんどホテルに閉じこもったまま、備え付けのDVDを観ながら過ごしたのだった。台風に狂喜する彼を眺めながら。


初回の沖縄でコケたので、2度目の沖縄に挑戦しようと思うことは決して不思議ではないはずだ。

2019年の7月、我々は再び沖縄の地へ降り立つことを決定した。

今度のターゲットは石垣島だ。直前に友人が婚前旅行へ行っており、石垣島からフェリーで行ける竹富島のすばらしさを散々聞かされていた。

本島とはまた違った魅力がいっぱい詰まっている石垣島周辺。るるぶも買って準備は万端だ。

今回も2泊3日で石垣島、竹富島、西表島でマリンアクティビティを予約している。石垣牛は是非食べたいが結構値が張るな。写真をたくさんとるから、モバイルバッテリーは新しいものを買っておこう。西表島の虫は大きいだろうか?カヤックに乗っているときに飛んで来たら横転する自信がある…


しかし

出発5日前のこと、

再び台風が発生したのを知ることになった。


キャンセルは効かないLCCの便だ。

もういい。いっそのこと飛行機飛ばないでくれ。欠航になったらチケット代も返ってくるはずだ。時間とチャンスは失うが、お金さえ戻ってくればそれを別の楽しみに使える――――


だが、飛行機は欠航にならない。


この状況で石垣島に行っても、

なにもできない。

台風直撃の石垣島に向かったところで、時間もお金もすべて失うことになる。


ならば、今やるべきことはなんだ?


我々は沖縄出発前日の、日付も変わる深夜、羽田空港にいた。那覇空港行きの早朝の便をとっていたので、空港内で夜を明かすつもりだったのだ。

私は無心になり、すぐさま全国の天気予報を調べた。

それがこちらである。⇩

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上図はtenki.jpから引用させていただいている。

皆さんはこの気象情報をご覧になって、なにを思うだろうか?

行くべき場所はどこか、おわかりだろうか?


行くべき場所は、

そう、

北海道である。


私の頭は猛烈に回転しだした。日付が変わった直後、つまり出発当日に北海道での2泊3日のプランを組みなおし、新千歳空港行きのチケットを手に入れ、レンタカーを借り、かろうじて空いていたホステルや民宿を手配。

札幌→小樽→積丹半島→ニセコ→洞爺湖→登別温泉→支笏湖→札幌

の周遊プランをわずか2時間ほどで練り上げたのだ。

日本で唯一晴れている場所に来た優越感は、ムスカのそれと似ていた。


一方で、沖縄の飛行機代、二人分5万4千円は


捨てた。


北海道旅行は最高に楽しめた。

同じ年の9月、どうしても石垣島をあきらめきれない我々は、三度沖縄旅行計画を実行することになった。

内容は7月のときと同じ、シュノーケリングやカヤックなどマリンアクティビティが充実した予約を済ませた。


頼む、来ないでくれ、台風…

いい想い出を作りたいんだよォォォ…


私の願いを神様がどう解釈したかは知らないが――――

台風は、


来た。


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もしかしたら反れるかもしれない。

そんなわずかな期待を抱きながら、出発日を迎えることになった。


そして奇跡は起きた


…と言ってみたかったが、奇跡など起きなかった。


基本、旅の目的が海の石垣島は、控えめに行っても屋内施設は充実していない。

せいぜい鍾乳洞が見どころぐらいである。

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本島のおきなわワールドに比べてスケールはやや小さいが、なんにせよ雨に濡れないというのは大きなメリットだ。

しかし万策は尽きた。

雨はやんだかと思えば急によこなぐりになり、降り方の予想ができないので簡単に出歩けない。

昨年、初めて沖縄に行って台風の直撃を食らったときと同じく、そのパワーは関東よりも強烈である。

夜、飲食店に行こうにも車を出すしかなく、行ったところでお酒は飲めないという残酷な現実。もちろん運転するのは私だからだ。


最期のあがきで具志堅像をカメラに収める。

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ああ、これで石垣島に来たことは夢じゃなかった――――

だがここでも旧ソ連人、

「なに?だれ?なんなのこれ??」

と無粋なマネをしてくる。

「ボクサーだよ」と答えたものの、そうじゃない感がすごい。私は具志堅用高のボクサー時代とか知らない。愛すべきポンコツなクイズ回答者の姿しか知らない。

こういうところ、国際恋愛の世知辛さである。


このように、三度沖縄に嫌われ、もう二度と行くもんかと誓ったその頭で、またあこがれの気持ちを抱かせる。そんな魅力が沖縄にはあるのだ。

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