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そのとき

身につけているすべてのアクセサリーを捨ててしまいたかった。 目に見えるものも、そうではないものも。 何もかも捨てて、もう誰も知らない、どこでもない場所に行くことができたらどんなに救われるだろうか。 それは逃げだろうか。 今から持てるだけのものを鞄に詰めて、1番早い電車に乗って、いちばん遠くまで伸びる夜行バスに乗り換える。 すべてのことを忘れてただ窓の外を流れる街灯の数を数えて、きっと見える海を眺めて、それで知らない街で、 知らない街で、こんなわたしに何ができるだろう。 こんな

    • 死んでもいいわ

      「死んでもいいわ」 君が不意にそう言った。 僕らは夏のあの日夏祭りに行った。 初めて君に連絡をした時の緊張を思い出すと よく頑張ったなあなんて思う。 「駅前に16時、少しご飯を食べて夏まつりに行こう。」 僕のメールに君は、 「りょ」 たった2文字だ。 それで僕は10分も前についた。 そういうときって普通女子って浴衣とか着てくるもんじゃない? なのに君ってTシャツにジーンズ、スニーカー。 ショートヘアなんだから男の子かと思うくらいの格好で現れて、やっほーって言った。 「じ

      • よく晴れた日の夜だった。 空には赤い満月が見えた。 森の中に静かに佇むこの屋敷には、『夜景』なんて存在しない。 いつか本の中で目にしたことのある「夜景」は、宝石箱をひっくり返したような、という例えがぴったりなように美しかった。 ここでは空に無数の小さな粒が浮かんでいるのが見える。 小さな子供が癇癪を起こしてばら撒いたビーズのように。 僕は毎日、空にゴーストを見ている。 先生が教えてくれた。 あれらのうちの幾つかはもう死んだ星だそうだ。 死んだ星が放りだした光が、何十年何

      そのとき