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宝塚記念を見たって話。弐

引き続いて競馬場の出来事。

レースの様子だけ知りたいって人は目次から飛んでください。
5,000字以上の長文です。

1Rの馬場入場の時間になるとスタンドからドッと人が出てきた。既にゴールのほうは冗談抜きに通常のメインレースの時の人ぐらい集まっている。黒い髪に佇む禿げもいる。

とはいいつつ。

「皆さんは何レースから賭けますか?」
「とりあえず5Rからですね…」
「お、メイクデビュー賭けるんですか?」
「運試し的な感じで」

とのこと。
確かに1R〜4Rは未勝利戦で結構荒れやすいしな。まあ午前中は宝塚記念での組み合わせに徹するだろう。

酷暑とまではいかず、というか昨今の異常気象から見るに、6月の段階でしょっちゅう30℃を超える程ではない今年の環境は逆に珍しいことだろうか?異常気象に慣れすぎて普通を忘れてちゃったよ~ヨヨヨ。
そんな環境の中。ジメジメという湿気もまだマシな環境の中。
ファンファーレがなる。まだ1R だが。

ファンファーレに合わして手拍子をかき鳴らす人が既にいるっぽい。はやね?これって一応マナー違反なんだっけ?ワタクシそこらへんあまり理解できていないのですが。
まぁ「一番のマナー違反はマナー違反をその場で指摘すること」みたいなのをどこかで聞いたことがあるしスルースルー。今日はなんたって華の宝塚記念。面倒ごとはマジ勘弁。

(中略)

昼。予め買っていたスティックパンとシュガーツイストを頬張る。土日の昼食は大体コレである。

「5Rのメイクデビュー、なんか厳つい名前ばっかですね」
白Tシャツのお兄さんが言う。

メイクデビューとは簡単に言うと全員が初出走のレースである。パドックではミストにビビる馬(これは新馬とはあまり関係がないかも)がいたり、スタートがどことなくぎこちなく見えて少し面白い。

ふむ。白Tシャツのお兄さんが言う厳つい名前とは誰の事だろう。

2番 メイプルギャング
6番 ギャンブルルーム

おお。確かに厳つい。ギャングとギャンブル。どことなくカジノ感がある(小並感)。ちなみにこのメイクデビューはギャンブルルームが5馬身差で圧勝。キズナ産駒どりゃあああああああ(浅はか競馬知識)
ちなみに青チェック柄のお兄さんが賭けていたメイプルギャングは5着だったが、「まぁメイクデビューだし」と言っていた。経歴がなく判断材料が少ないし打倒なのか。お兄さんたち曰く名前で決めるのも全然アリだって言ってたし、これこそ普いつもの競馬とは違うギャンブルなのかも。

さて。午後の部最初のレースを終え、スタンドからはより大量の人が押し寄せ始め、場内の熱気が高まるばかり。お兄さんたちは馬券を買いに動き始める。
「とにかく勝って帰りは難波で串カツを食う」と意気込む白Tシャツのお兄さん。難波の串カツは確かに美味しいから是非勝って食べてほしい。まぁワタクシは味音痴だから特に何処がより美味しいとかわからなかったけど。

芝生ゾーンは既にレジャーシートで埋め尽くされており、ガキンチョ共の声が聞こえる。
ガキンチョは親が買った馬の枠をひたすら甲高い声で叫ぶ傾向が見られて少し、というか結構場内に響いたりして耳に来るのだが、最終直線に入ったあたりで魂を賭けた大人たちの声援にガチビビりして最後は声を出さない弱き者がいて面白い。趣があるね~。もし馬の走りに魅せられて言葉を失っていたなら謝る。ごめんよ~。

とか言ってる合間に馬券を買いに行ってた青チェック柄のお兄さんが帰ってきた。

「おにーさんが言ってたドゥラエレーデの複勝、買いましたよ」

なんと!我が推しドゥラエレーデくんの馬券を買ったと申したか!

「いや~実力が未知数なのと、さっきオッズ上がっちゃいましたけど複勝でもギリギリ美味しい範囲かなと思って」

うお~それっぽい理由。ワタクシなんてただクソキショローテで面白くて好きになっちゃっただけなのに。

「さて、俺も馬券買いに行こうかな~」と白Tシャツのお兄さん。
「あの…自分馬券買ったことないんで着いて行っていいですか?」

「「えぇ!?!?!?」」

あれ。言い忘れてた。

今日、人生で初めて馬券を買う。
いやこれは壱の時に書いたか?

「結構知識あったし何回か買ってるもんかと思ってた」
「僕もそう思いましたよ~じゃ僕教えますよ!」

ふほ~!(ワンダーアキュート(ウマ娘))
みんな優しいな~!!!

てことでスタンド内の馬券売り場へ。なんて言うのが正しいんだ?自動発売機?よくわからん。

スタンド内クーラーガンガンで涼しい~~~~~。
さて、初めてはマークカードでって決めてるんだぁ…。
たまたま6Rの真っ只中なので比較的人が少ない時間。折角だしGⅠカードとやらを使って17番ドゥラエレーデの複勝を塗り塗りして券売機?馬券売機?に挿入~

あ、まずはお金入れるんですね。すみません。

スッと出てきた馬券くぅ~ん。初馬券です。

ちなみに買ったのは
BOX3連複 200円
3ダノンザキッド
5イクイノックス
9ジャスティンパレス
10ディープボンド
11ジェラルディーナ
17ドゥラエレーデ
 計40点 4000円

勝負 3連単 300円
17ドゥラエレーデ
5イクイノックス
3ダノンザキッド

複勝 ディープボンド 100円
複勝 ドゥラエレーデ 100円

計4500円分。初馬券だし遊んでいこう(保険)。

競馬ガチ勢に見せると笑われる買い方です。事実お兄さんたちに「ダノンザキッドかぁ!」と笑われた。いいじゃない。初心者だし(保険)。

「トイレ済ませとくといいですよ、人多すぎてトイレ行ったら帰ってこれなくなっちゃうんで」

なるほど。現時点でも十分やばいのに特別競走なる名前を冠する9Rが始まるとドッと人が増えるわけだ。

「今日はGⅠなので特別競走は8R~12Rまでありますよ」

…らしい。
まあそんな訳でお手洗い。

(中略)

14時かそのあたりで係員の声がメガホン越しに響いていた。
「通行規制を行っていま~~~す!!!」
振り返ると大量の人間が。ぬお。ゴミじゃん。

ていうのは1時間前の話。

今ね、やばいよ。動けない。
そして迸る緊張感。宝塚記念が出走する1時間前、14:40から場内では常にピリピリ感を感じる。

熱い。2Lのペットボトルが底を突きそう。
お兄さんたちも座り込んでる。大丈夫ですか?

「ん?平気平気。気持ちを滾らせてるだけだから」
「「気持ちを滾らせている」」

白Tシャツのお兄さんとハモった。
まぁここのお兄さんたちは歴戦の猛者だろうし大丈夫か。

とかそうこうしている内に。
目の前を黒い何かが駆け抜けていった。
ダノンザキットだ。

「え、もう来たの!?シャッターチャンス逃した~」

とかって聞こえる。
お馬さんはヤンチャだから入場曲が流れる前に入場しちゃうんだ。違う?違うか。

『チャン チャン チャーチャチャーン チャン チャン チャーチャチャーン』

いつもとは違う入場曲。自然と始まる手拍子。
GⅠの時の馬場入場の時は観客側ギリギリを走ってくれるから迫力が凄い。
ちなみにこの入場曲は「ザ・チャンピオン」というらしい。

馬たちが目の前をドンドンと駆け抜けてく。
馬の名を叫ぶものもいる。歓声が上がるのだ。

「「「「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」」」」

手拍子が拍手に変わる。歓声が黄色味を増す。

「イクイノックスぅぅぅぅぅぅっぅぅ!!!!」
「ルメール頼むぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

本日の本命中の本命、ド本命が来た。
津々浦々で鳴るシャッター音。
隣の白Tシャツのお兄さんもレンズ越しにあの影を追う。

初めて目の前で見た。オーラが違うね。
…それ以外のことはあまりわからないけど。競馬初心者だしパドックでは発汗量ぐらいしか注視したことないから。ていうかオーラもわからないけど。まぁワタクシのシックスセンスを持って観測できる的な?ニュアンスで感じて。

音止まぬ場内。振り返ると莫大な人の数。屋外だけでなく、スタンド内指定席もほぼ全てが埋め尽くされていた。というか完璧に全てらしい。警備員のお兄さんが言ってた。

…もうすぐ出走の時間である。

モニターにサイレンススズカが映る。グラスワンダーが映る。ゴールドシップが映る。なんだこりゃ。他のGⅠでも見たことがない映像だ。過去の宝塚記念を駆ける名馬の映像。
まあこういうのアリだよな。宝塚記念なんだから。スタンドは拍手で包まれる。

そしていつものやつ。過去3年分までのレースの実況の後のレース逆再生。

『今年の勝者はどの馬か!』

『 GⅠ 宝塚記念 』

スターターがターフビジョンに移る。
観客が手拍子を始める。加速する拍子。

そして束の間の無音。

指揮棒が揺れる。

陸上自衛隊第3音楽隊の皆さんによる生ファンファーレ。
このレース、この瞬間だけのファンファーレ。

場内は4万4千の歓声と拍手に包まれた。

『上半期の総決算、宝塚記念のスタートを迎えます』

歴戦の馬が。GⅠホースが。期待と夢を背負う馬が。
ゲートの中に入っていく。
先ほどとは打って変わり静寂に包まれるレース場。
皆がゲート入りを見守っている。

『さぁ最後。17番ドゥラエレーデが収まって。』
『宝塚記念です!』

ガコンッ。

ゲートが開く音である。

『スタートしました!』

目の前を突っ切っていく千差万別の馬。
シドニーで行われたGⅠ「クイーンエリザベスS」で掲示板入りを果たしたユニコーンライオンが逃げる。追走する我が推しドゥラエレーデ。

さて。本日の大本命、100万という金額を賭けた猛者もいるという程の熱狂を沸かせるイクイノックスはというと。

『5番のイクイノックスは、後ろから2番手です!』

どよめく会場。おいおいどういうことだってばよ。

競走馬は本来先頭から順に
「逃げ・先行。差し・追込」
の4つの脚質、いわば走り方がある。
イクイノックスは本来差し、最初は中団ほどに控えて終盤に入るぐらいでスパートを掛けて先団諸共追い抜いて勝ちを掴みに行く。
しかし前走のドバイシーマクラシックでは逃げた。初めから逃げた。そして逃げ切った。父キタサンブラックを彷彿させる走りだった。

が、よ。前走逃げで今回追込ってなんだよ。
さらに追い打ちをかけてくる事実が一つ。

『スタートからの1000mは58.9(秒)!』

!!?!?!?!??!?!??!?

早すぎる。どよめきは増すばかりである。

2200mほどの1000m通過タイムは平均で1分1秒ほど。
1,2秒の差?それだけ?などと思うが馬は60km/hで走っている。
1秒あれば17mくらい移動するのだからこの差はデカい。
先頭のユニコーンライオンが引っ張る形でレースが進む。

ちなみに異次元の逃亡者の二つ名を持つサイレンススズカの宝塚記念の1000m通過タイムも58秒ほど。やっぱ今回のレース速ぇな…。

第3コーナーに差し掛かったあたり。
会場のどよめきが歓声に塗り替わる。

『さぁイクイノックス動いた!』

大きく外側を走る赤い帽子5番イクイノックス。
コーナーでは外を走れば膨らんだ分走る距離も増える。
が、しかしイクイノックスは順位を上げていく。

大外を走るイクイノックス。
また目の前にやってきた。1周してきたのだ。
残すはゴールまで一直線。
先ほどとは気迫が違う黒い影ども。

先頭のユニコーンライオンとの距離が縮まっている。
ドゥラエレーデももう限界と言わんばかりの走り。
横に広がった最終直線。
大外のイクイノックスが瞬きをする間に一気に先団まで来ていた。
追走する2番人気ジャスティンパレス。
中段から突き抜ける6番スルーセブンシーズ…ってなんだお前!?!?!?
イクイノックスに食らいつく様に横に並んで駆けている。
ワタクシは君に賭けていないんだが!?!?!?!?!?!?

おっと私情が。

「僕も賭けてないなにあの馬!?!?!?!?」

私情じゃなかった市場だった。

しかし。

「イクイノックスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」と叫ぶ数多の声。
視界が揺れている。鳴りやまぬ声援により視界が揺さぶられていた。
蹴り上げられたターフの土と交差する歓声。
誰しもが飲んでた息を吐きだして大声で叫んでいる。
揉み消されてもう聞こえない実況。
その姿を捕えようと必死で追う望遠の一眼レンズ。
会場がイクイノックスに釘付けであった。
世界一に相応しい走りであった。

気づくと彼は2ハロン先のゴール板を駆け抜けていた。

『しかし先頭は!!イクイノックスだゴールイン!!!』

『5番のイクイノックス。これが世界ナンバーワンの実力!!!』

会場内では拍手が巻き起こる。本日何度目の拍手だろうか。
その一員にワタクシたちも加わる。

…小太鼓の音が聞こえる。
勝者を称える音。「HEROES 英雄」。
鞍上のルメール騎手が天に手を掲げる。

父キタサンブラックが掴めなかった栄光を、その子イクイノックスが掴み取ったってだけで胸が熱くなる。

『216,379票、宝塚記念ファン投票歴代最多得票』
『史上16頭目の有馬記念・宝塚記念のドリームレースW制覇』

『今年、木村哲也厩舎には、日本ダービーの舞台で悲しい別れがありました』
『その事実が変わることはありませんが』
『イクイノックスが世界ナンバーワンホースとして、これからも厩舎の屋台骨を支えていきます』

…この実況。歓声と拍手で聞こえなかったんだけど、今聞いてちょっと涙出ちゃった。感動する言葉とか綴れないから引用したけどこの実況、ワタクシは好きだな。

さて。これ以上書くと蛇足になってしまうな。

あ、12R後のターフを歩こう企画、参加しました。
内ラチに抉れた芝の蹄跡がたくさんあって凄く凄かった。

エグ長文になってしまった。これでおしまい。
宝塚記念、良かった。ドラマが見れたね。

-4500円。

(5,464文字)

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