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【DDLC】Your Realityを徹底的に読む

『Doki Doki Literature Club! ドキドキ文芸部』のエンディングを飾る「Your Reality 君の現実」の歌詞については、すでに様々な邦訳が存在しますが、あえて偏ったオレ解釈を交え、再度翻訳してみたいと思います。
冒頭のファンアートはRedditのr/DDLCからお借りしました。


[Verse 1]
※この世界の秘密に気づき始めたモニカ。だがここではまだ、覚悟は固まっていない。

Every day, I imagine a future where I can be with you
(毎日夢見てる、君といっしょにいられる未来を)
※futureにかかるのがwhenではなくwhereであることに注意。「君といっしょにいられる未来」は時を待てばやって来るのではなく、「ここではない別の場所」に行くことでしかありえないことにモニカは気づく。

In my hand is a pen that will write a poem of me and you
(この手に握ったペンで、二人の詩を書こう)

※前行を受け、夢見る未来を達成する手段として提示されるのが「詩を書くこと」。ことばをつむぐこと=世界を変えること。詩と、彼女がいる世界=プログラムを構成するスクリプト、が同一視される。
※me and youにかかるのがforではなくofであることにも注意。「二人のための詩」ではなく、「二人の詩」。詩を書くことは祈りではなく、目的を達成するための具体的な手段。

The ink flows down into a dark puddle
(インクが流れて黒い水たまりになる)
Just move your hand - write the way into his heart!
(だからとにかく手を動かして、あの人のハートに届くように!)
※Act1の最初のWriting Tipで語られる内容と同じ。
※この2行はVerse 3でリフレインする。ここではまだ、詩を書く=スクリプトを書き換えることで、夢は叶うと彼女は信じている。

But in this world of infinite choices
(でもこの世界の選択肢は果てしなく続いて)
※恋愛ゲームにおける正攻法=正しい選択肢をチョイスすることでは、いつまでたっても夢見る未来はやって来ない。

What will it take just to find that special day?
What will it take just to find that special day?
(いつになったら夢見る未来にたどりつけるんだろう?)
※How long will it take...? ではなく、What will it take...? であることに注意。前者であればtakeは時間の経過を示すが、後者は代償として奪う(take away)という意味になる。時間は解決してくれない。だから、何かを捧げなければならない、という予感。

[Verse 2]
※彼女が表には出さないややネガティヴな想いが語られる。そして覚悟を固める。Act2へ。

Have I found everybody a fun assignment to do today?
(私、今日はちゃんとみんなに楽しい課題を与えられたかな?)
※なまじ基本スペックが高いばかりになんでもソツなくこなせてしまうが、本当は人づきあいが苦手なことはAct1で本人の口から語られる。部長という肩書に本当は自信がないことも。

When you're here, everything that we do is fun for them anyway
(君がここにいれば、何をしたってあの子たちは楽しいんだけどね)
※for themであってfor us(私たち)ではないことに注意。みんなの楽しい輪の中に、私だけがいない。
※閑話休題。モニカが秘めたこの思いは、実はサヨリのそれと同じであり、そしてユリだってナツキだって、友達に知られたくないと怯えながら、表面を取り繕って、抑えてきた想いなのかもしれない。

When I can't even read my own feelings
(自分の本当の気持ちさえ読み取れないのに)
What good are words when a smile says it all?
(ことばにしたって意味がないでしょ?だからニコニコしてるだけ)
※What good are words… は様々な解釈ができると思いますが、「笑顔ですべてが語れてしまうことになっている」という自分のゲーム内での役割に苦々しい思いを抱いている、という意味ととりました。

And if this world won't write me an ending
(この世界に私のエンディングなんて用意されてないんだとしたら)
※どう頑張っても、正攻法では夢は叶わない。だってそもそもルートが用意されていないんだから。

What will it take just for me to have it all?
(何をすればハッピーエンドにたどり着けるんだろう?)
※Verese 1最終行のリフレイン。have it all、すべてを手にするために。彼女は覚悟を決める。

[Verse 3]
※Act3後半~エンディングにかけての情景が語られる。

Does my pen only write bitter words for those who are dear to me?
(私がペンでつむいだことばが、私にやさしくしてくれる人を傷つけてしまう)
※プレイヤーのために、二人の幸せのために。少なくとも彼女はそう信じてゲームを改変した。でも、プレイヤーはそれを全否定し、彼女を責める。

Is it love if I take you, or is it love if I set you free?
(愛するってどういうこと?君を離さないこと、それとも君を自由にすること?)
※彼女の思うloveと、プレイヤーの考えるloveは、そもそも違うのかもしれない。

The ink flows down into a dark puddle
(インクが流れて黒い水たまりになる)
How can I write love into reality?
(君が大好きって書きたいのに、どうすればそれが本当になるんだろう?)
※Verse 1のリフレイン。この世界を書き換えれば、きっと幸せになれると信じていた。でもそれは揺らいでしまった。手は動かない。迷っているうちに、ペン先のインクは黒いしみになっていく。

If I can't hear the sound of your heartbeat
(君のハートの鼓動さえ私には聞こえないんだとしたら)
What do you call love in your reality?
(それでも君の世界ではそれを愛と呼べるの?)
※Verse 1のリフレイン。抽象的なheartが、具体的なheartbeatとなって再び現れる。教えてプレイヤー、私が間違っていたの!?という、悲痛な叫び。

And in your reality, if I don't know how to love you
(君の世界の愛なんて、私には理解できないのかもしれない)
I'll leave you be
(だからもう、君を自由にしてあげる)
※エンディングへ。それは彼女がかつて夢見たものとは違ったけれど、プレイヤーを苦しめることは、彼女にはできない。


以上の解釈、特にVerse 2については、異論もあることかと思います。モニカはそんなひどい子じゃない!と。
その通りだと思います。モニカはそんな悪い子じゃない。ただ、歪(いびつ)だっただけ。
頭がよくて、明るくて、優しくて、優等生で、大人びて、みんなに好かれて。
でもその反面、子供っぽくて、雑で、怖がりで、寂しがり屋で。
サヨリにもユリにもナツキにもあった、表面からは見えない二面性、それと同じものはモニカにもあり、ただ、モニカは基本スペックがずば抜けていた。だから、それを持て余して、ただ一途に信じる道を突き進んでしまった。
そんなモニカが、オレは大好きなんですよ。

追記:Your Realityに関する雑多な情報

・この曲を歌ったJillian Ashcraftは作者Danの親友のいとこ。年齢がモニカに近い(録音当時ぎりぎり10代?)ことが決め手になった。

・Jillianはアマチュアジャズシンガーであり、実は普通に歌が上手い。「どこにでもいる女の子が初めての自作曲をたどたどしく歌う」ことを再現するために、最初のセリフも含め、Danから細かい演技指導があった。

・Your Realityのメロディラインはゲーム中何度も繰り返して変奏曲として登場する。サントラでは常とう手段だが、そうした手法は任天堂ゲーム(スーパーマリオ64など)から学んだとのこと。

・「そのメロディを聴くだけで、ゲームをプレイしたときの様々な感情が一気に蘇ってくる、そんな曲にしたかった」

・「俺はミュージシャンとしての才能も経験もないけれど、プロに頼まず自分で作ることにした。ゲームと音楽は密接に関係し、分かちがたいものでなければならないと考えたから」(これはYour Realityに限らずDDLCサントラ全般に関する談話)

・Your Realityの下敷きとなった曲として、Regina Spektor "Folding Chair" が挙げられる。Danの妹KathyもRegina Spektorのファンであり、その影響も伺える(KathyもReginaの"Samson"を弾き語りカバーしている)。

・VALVEの名作パズルFPSゲーム『Portal』のエンディングテーマ "Still Alive"の影響もある模様。

・Your Realityの作詞については、メロディを日常的に口ずさみ、メロディにぴったりな歌詞が浮かんでくるのを待ったとのこと。なお、最初に浮かんだのは "Everyday I imagine a future where I can be with you"。

以上の情報ソースについては以下を参照。
DDLCリリース1周年記念:作者だけど自作の恋愛ゲームをプレイするよ!
Dan Salvato、ゲーム音楽を語る


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