【秋葉原アンダーグラウンド】第6章 14話
トガは何が起きているかわからない表情をしていた。イザナミを倒しマユの眠るICUに入った瞬間、突如閃光が走った。トガは薄目を開け放たれた閃光の先を見ると、そこには祈るような格好で立っているマユの姿があった。
「マユ、お前・・・」
溢れんばかりの閃光は、まるでベールのようにマユの姿を包んでいく。荒々しく、ときに穏やかなその流れは神秘的であり、見る者全てを魅了し動くことすら憚られてしまう。
「トガっさん!これって一体!?」
トガが後ろを振り返るとそこにレンとリツの姿があった。なぜお前たちがここにいる?というトガの問いかけに、地上に出て来たらすげえ光が見えてさ!とレンは答えた。トガとしてはそういうことを聞きたかった訳ではなかったのだが、この際どうでもよかった。
「おそらく、マユの能力が開花したのだろう。何かに呼ばれるかのように目を覚ましたに違いない。」
「何かってなんだよ!?」
「これも推測でしかないのだが、お前に反魂を与えたときのことを思い出してみろ。誰かが傷つき苦しんでいるのかもしれない。」
レンは妙に納得した。あのときは死んだと思っていたが、次に目を覚ましたときには目の前にマユの姿があった。誰かが傷つき苦しんでいる?一体誰が・・・
「トガ、それよりどうなんだ?今のマユは?」
「どうもこうも、あのときはオレもうろ覚えでしかなかったからな。これがいつ止まるのかもわからん。」
「そうか。」
そう言うとリツはマユに近づきその体を抱き寄せた。
「マユ、おはよう。ようやく起きたな。」
その声はとても穏やかだった。光が収束していくのがわかる。マユはとっさにリツ・・・とだけ言い膝から崩れ落ちたが、リツはしっかりマユを支えていた。マユはまた眠ってしまったようだったが、これまでとは違い少し安心したかのような表情をしていた。今度はきっとすぐに目を覚ますだろう。レンとしても内心ホッとしていた。
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「ククッこの力、マユのものだな。ようやくお目覚めか。」
「ロン、マユのもとに3体の能力反応あり。1人はトガ、もう1人はリツ、あと1人はデータベースに存在しません。」
「おそらく風使いのレンだろうな。風の能力はこれまで顕現したことがなかったからな。」
ロンはもう一度自身の頬を触る。傷痕こそ残ってはいるが、血は完全に止まっている。ロンは笑いながらカイとの距離をとった。
「残念ながら時間のようだ。もう少し貴様と遊んでいたかったのだがな。」
「何を考えている。」
「マユが目覚めたとなれば次はサラだ。となるとシンはラグナロックを発動させざるを得ない。地上への報復と称してな。これで堂々と貴様らを地上へ仇なすテロリスト扱いできるという訳だ。」
「オレらの敵はお前だけじゃなくて警察や一般人にもなるということか。さすが考えることは汚ねえな。」
「理にかなっていると言ってもらいたいね。まぁ貴様の場合、そこにいるスサノオにやられる訳だから、一般人を巻き込まなくても済む話だがな。」
スサノオはカイを握っている手にさらに力を入れる。骨の砕ける音がしカイは思わずうめき声をあげた。気付くとロンとミカサの姿はなかった。
「ねぇ、このまま握りつぶしてもいいんだけどさ、オレとしてはもう少し違うことして遊びたいんだよね。」
「いつまでこのオレに触れているつもりだ?」
カイを握りしめていたスサノオの両手が爆ぜる。あまりの一瞬の出来事にスサノオは固まっていたが、目を凝らしてカイのほうを見ると、カイの体を包み込むかのように空間が歪んでいた。
「なるほど、これが覚醒者ってやつね。まさか空間そのものを能力を無効化させる空間にするなんてね。ほんと君たちは規格外っていうか・・・」
スサノオが言い終わる前に、カイは大剣を振り下ろしていた。しかし、再度再生されたスサノオの、今度は恐竜の翼のような両腕に阻まれてしまう。しかし、カイが力を込めるとその腕はまたも切り落とされる。カイはそのまま腕を伸ばし、その一閃でスサノオの首をはねた。主導権を失ったスサノオの体はその場に倒れ込む。カイは剣をしまいその場をあとにしようとする。
「すごいね君。まさかここまでやられるとは思ってなかったよ。それにこんな体だけどさ、痛覚はあるんだよね、イテテテ。」
カイは驚き振り返ると、先ほど倒れたはずのスサノオの体は目を覚まし、その手で自身の頭を抱えている。その状態で話しているものだから、スサノオはいよいよ化物だとカイは感じた。
「ロンには悪いけどさ、でもまぁ今日は遊べたほうだし、そろそろ帰ろうかな?」
「貴様、このまま帰れるとでも思っているのか?」
カイは大剣を握りしめる。しかし次の瞬間、スサノオの体が棘のように伸縮し、その勢いでカイはビルの外へと投げ出されてしまった。
「生きていたらまた遊ぼうね。」
スサノオの笑い顔が遠ざかっていくように、カイはビルから落ちていった。
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