(短編小説)塾仲間と塾からの帰宅中に鬼に出会ってしまった。

やばい、もうこんな時間だ。塾が終わってから塾仲間と話し込んでしまった。もう、22時を回る頃か。僕は、帰宅方向が同じ方向の連中と、くだらない話の続きで盛り上がりながら歩いていた。連中とは、僕、鈴木、高橋、田中の四人だ。
突然、空気が湿ってきた。雨が降り始めたときのアスファルトの臭いが立ち込める。ふと気づくと鬼がいた。目の前にいる。見ればわかる、あれは鬼だ。あの桃太郎に退治されるタイプの鬼だ。典型的な金棒を持っているし。そして、鬼が言う。
「おい、お前たち。一人だけは見逃してやろう。残りは死ね」
は?あいつ何言ってんだ?どこの変態だ?ドッキリか?コンプラはどうなっているんだ?
鬼が続ける。
「聞こえたか?お前らのうち、最後に生き残ったやつだけ見逃してやろうと言っているのだ」
僕らは顔を見合わせてた。さらに、鬼は続ける。
「なに、殺し合えと言っているんじゃない。手を汚すのは俺様だ。お前たちは俺様を利用して生き残ればいいのだ。」
僕らは、まだ状況を飲み込めていない。
帰り道の先を見ると、道が途絶えている。どうやら崖となっているようだ。道の先だけじゃない。ここは孤立している。

「まだ状況がわかっていないようだな。おい、お前」
鬼はそう言うと、金棒を田中の頭に振り下ろした。
バコン。
あぁ、田中の脳が血で汚れてしまったじゃないか。残念だ。いや違う。
僕は、少し遅れて状況を理解し、叫んでしまった。
「うわぁぁぁ」
僕は逃げた。とりあえず逃げた。塾仲間のことは忘れていた。とりあえず走った。走って崖っぷちに来た。向こう側には帰り道が見えるが、分断されている。僕の跳躍力では落ちて死ぬだけだ。悔しい。
遠くで笑う鬼と、高橋の逃げる姿が見える。
ちょっとした風が頬を撫でる。道に短冊のような御札のような紙が落ちている。
紙には「鬼、攻撃」と書いてある。くだらない。僕は紙を破り捨てた。
「あい、わかった!おらぁぁ」
鬼の声が意外と近くで聞こえた。そして、バコン。
先の脳が飛び散ったときと同じ音が聞こえた。高橋が死んだ。

「あと2人だぞ。どうする?」
鈴木が言う。
「ごめん」
あ、何が、ゴメンなんだ?鈴木はその御札を破り捨てた。
「あい、わかった。おらぁ」
鬼は金棒を僕に振り下ろした。
「あ」
と声が漏れた。
僕は死んだ。

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