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女神たちよ -Iraivi

鑑賞日:202106 於:キネカ大森
製作 2016年 タミル
監督 カールティク・スッバラージ
出演 S・J・スーリヤー、ヴィジャイ・セードゥパティ、ボビー・シンハー、アンジャリ、カマリニ・ムカルジー、カルナーカラン、ラーダー・ラヴィ

 今回のIMW2021パート1のなかで最も賛否両論がある作品では、と思うのがこの「女神たちよ」。個人的にはこれが今期一押し、何度も見たい作品です。トリビアを熟読したほうがより楽しめます(^^)b

★前半あらすじネタバレあり

映画監督のアルルと幼なじみのマイケルは、内面に抱える問題のストレスを妻にぶつける日々。アルルの弟ジャガンが古寺の女神像の密売に手を出したことをきっかけに、彼らの運命は思わぬ方向に転がっていく。身勝手な男性に振り回され苦悩する女性たちが、古寺に留め置かれた女神像に重ねて描かれる。「雨」が重要なモチーフとして使われ、女性への敬意に満ちたラストが印象的。(IMWさんより抜粋)

 弟ジャガンは大学生、古寺にある女神像を研究テーマにしている。実はジャガンそして兄アルルの父はタミルで初めて賞をもらった高名な女神像の彫刻家だった。兄のアルルも芸術家の血を引き映画監督をしていたが作品が評価されず公開のめども立たない。プロデューサーとも揉め、最近はずっと酒に逃げる毎日だった。アルル、ジャガンと兄弟のように育ったマイケルは恋人との逢瀬にいそしんでいたがこの恋人はマイケルのプロポーズを頑として受けず、ままならない気分を抱えていた。

 酒をやめることができないアルルを心配した父と妻はプロデューサーへ直談判し、一旦は公開の約束を取り付けるが結局それは反故にされてしまう。再度直談判して映画の権利を自分たちで買い上げることに同意を得た。しかしそれには莫大な金額が必要となった。その金を用意するためにジャガンの提案で古寺から女神像を盗んで売りさばくことに。インドの女神像は海外では法外の値段で取引されていたのだ。女神像盗掘はジャガン、マイケル、友人たちで実行した。

 マイケルは恋人が結婚を承諾してくれないため結局は紹介されたポンニと結婚する。ポンニはマイケルを一目で気に入ったがマイケルは恋人が忘れられない。初日からそのことを本人に告げ、結婚した後も恋人のもとに通ってた。

 プロデューサーはじつは映画はただの金もうけの道具とみなしており芸術的指向や理解は全くない人物だった。そして撮影現場で自分の指示を聞かないアルルを憎んでおり、いくら金を積まれてもアルル達に権利を売るつもりはなかった。アルルは自分の映画が一切公開されずにお蔵入りになってしまうとを恐れ、ひとりでプロデューサーに会いに行く。姿の見えなくなったアルルを心配してジャガンとマイケルは彼を追った。

 アルルはプロデューサーの自宅にいた。酒に酔いながら、映画は自分の子供なんだ、頼むから公開だけはしてほしいと訴えるがプロデューサーは話を聞く気はなくアルルを椅子に座らせ一方的に殴りつけていた。それでも映画の公開を懇願し続けるアルル。ジャガンとマイケルはいったんはアルルを救い出す。しかし背後から投げつけられたプロデューサーの暴言にマイケルは理性を失いプロデューサーの頭を金づちで叩きのめして殺してしまう。ここに来る直前にマイケルはポンニから妊娠を告げられており、ようやくマイケルとポンニに安堵の日々が訪れるかと思われた矢先の出来事だった。

★ここから本気のネタバレand感想領域

 男が弱い。
 話は男中心で展開し女性は常にそれをサポートする形で描かれます。アルルの妻は酒に溺れる夫の心情に沿い、何度も酒を断つようにいさめ、励まし、それでも酒を断つことができない夫とは最終的には離れる決意をします。アルルは妻の気持ちが理解できない。断酒施設でなんとか断酒に成功し家に戻ってきた彼は妻の実家に乗り込んで行きます。また自分は映画監督だからと歌って踊って彼女の心を再度開こうとします(このシーンはこのまま本作のダンスシーンに移行して、映画としては楽しいシーンの一つでありながら妻には全く通じずむしろシラケてしまうという上手い演出でした)。
 アルルの家は裕福でお金に困ることはありません。お酒を買うのも困らない、いつまでも仕事を再開せずに自分の不遇に浸っていられる、妻も父も弟も幼馴染一家もみな自分の味方でやさしい世界。彼はずっと子供のままなのですね。結婚して自分に子供が出来ても。

 マイケルも基本は同じ。彼は殺人の罪に服して2年間ほど投獄されます。その間で大人になったかと思うのですが、やはりいままでの自分の世界から抜け出せない。せっかくポンニという伴侶を得て娘もできたのに…。その中でジャガンは少し違いますね、彼は末っ子で最も母親に近い立場にいたためか虐げられる女性達を身近に感じてきました。ジャガン・アルル兄弟の母はずっと意識のない寝たきりの姿で登場します。男たちはその母の枕もとに集まり、騒ぎ、泣き、女神像盗掘の計画を練ります。映画のクライマックス直前にジャガンは一人で母の枕もとに訪れ、母に語るように女性達の苦しめられてきた姿を見てきたことを口にします。母さんはずっと父さんを怖がっていた、アルルはあの通り、マイケルも他に女性がいながらポンニを妊娠させた、男は余りに身勝手だ、と。彼は兄もマイケルも父も祖父も、女性達を虐げている男性達全てを憎んでいました。そしてその結果サイコ野郎になり、もう一度大きな計画をたてそれがマイケルにばれて自滅していきます。

下記が鑑賞直後の私のメモ。

アルル
 がき
 わかったふうでわかってない

VSP(←マイケル)
 ちょっとわかったのにやっぱりもどる
 よわい

弟(←ジャガン)
 サイコ

ラーメシュ(←女神像を盗掘する友人の一人)
 ばか

オジ、じーちゃん
 金持ちのバカ

プロデューサーもバカ、みんなばか

 大人にならなくとも許されてしまう
 一人前扱いされる
 責任も取らないのにメンツは守られる
未成熟のままで許されるという男性側の社会の呪いも感じてしまいました。「では一人前って何なのだろう」とも考えてしましたが答えは出ず…。大人な人は子供のうちから大人、子供の人は一生子供なのかもしれません。女性は否が応にもどこかで大人になっていると思うのですが(もちろん個人差あり)。

 この映画、男性陣のすったもんだだけを取り出し、毒を抜いたらホントに楽しい冒険活劇になります。そういう話にしてもよかったぐらいにエピソードもたっぷり、ユーモアもたっぷりです。でもここに毒を一滴たらしてこの作品に仕上げたのがスッバラージ監督です。長い長い2時間半の前座があり最後の曲で女性への賛歌が歌い上げられます。

★役者陣の演技がホントに素晴らしい
 アルル役のS・J・スーリヤー、くそボンボンの映画監督、弱音、甘え、強気、言い訳ばかりを言って周りの人に助けてもらうのを待っている弱い人間、すこしばかりアル中を克服したからとすべてを分かったような顔を見せる(※実際のアルコール中毒は完治は難しく一生付き合う病気とか)。一方で裕福な家の育ちの良さならではの人の好さも感じられる、ほんとうにリアリティのある人物でした。他の役者もほんとにいいです。ジャガンのサイコじみたところ、1回目には気付かない前振りが2回目ではわかりました。マイケルことVSPはやはりよい。兄弟ではなく幼馴染、友情と信頼で繋がっているけれど、家族ごとお世話になってきた関係はやはり少しだけ立場が違う、そんな役。なにかと損な役回りを引き受けることになり兄弟二人とは違う葛藤が伝わりますね。女性陣にはあまり触れていないのは単純に出場シーンがすくないからですが素晴らしい女性たちがいて初めて成り立つ映画です。

★Songs

♪鑑賞2回目以降はオープニングの雨の中の女性たちのシーンが心にしみる


♪アホな男たちの象徴、絡んで酔って喧嘩する最初のダンスシーン。え?コメディ映画なの?って思っちゃう。大好き(^^)


♪マイケルとポンニ、なんだかんだでまだ事件が起こる前で平和。インドの結婚式の様子も垣間見れます。


♪妻はシラケちゃうけど、やっぱり楽しいよ。娘の入れ知恵でもあるしね。


♪マイケル、アルル試練の時。脱皮できそうだったのにね…


♪かなりヤバイ(実際ヤバイ状況でのマイケルの幻覚Song、アルルの立ち位置が象徴的)


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