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カダラムの征服者 -Kadaram Kondan

鑑賞日 20210421
於 アップリンク渋谷
主演 ヴィクラム


 タイトル、ポスター、IDEの紹介文からハードボイルド系もしくは筋肉マッスル系のガテン系インド映画かと思っていました。実際はノンストップクライムサスペンス映画、期待を500倍上回る見応えでした。

 主人公のヴァースはクアラルンプールへ赴任してきたばかりの医者。妻の出産予定日もあと10日ほど、彼女のケアをするために妻の睡眠時間である夜勤を申し出ていた。まだ配属もはっきりしておらず担当の患者もいないので夜勤中も入院患者の見回りをしているだけ。ある晩、意識不明の重体患者の人工呼吸器が外されているのを発見、彼のとっさの判断で一命はとりとめ、怪しい人影も見かけたので警察へ連絡した。夜勤が終わって帰宅、妻へ「自分はヒーローになったんだぞ」と自慢したその背後に怪しい人影が迫りヴァースは殴打されて昏倒、気絶。その間に妻は拉致されてしまった。
 ヴァースが目を覚ますと自分のものではない携帯が鳴っていた。コールに出ると電話口からは「昨日のお前が助けた入院患者を病院から連れ出せ」という指示。妻と子の身を案じたヴァースは迷うことなくその指示に従い、ガードマンをだまし彼を病院から外へ運ぶ。その入院患者は実はKKと呼ばれる裏社会では名を知られ、ときに警察も力を借りるようないわくつきの犯罪者だった。もちろんそんなことは知らないヴァース、そして外へと連れ出すように指示した人物は一体だれなのか、その目的は…。

 とだいたいここまでが前半、まだほとんど何もわかってない状態なのに出産直前でナーバスになっている妻、ヴァースのむかつく上司、警察内の権力争い、など背景が積み重ねられていく。そして(意外と手練れ??)と思わせるような必死の駆け引きでKKをなんとか操るヴァースの姿と余裕は見せながらも流れに任せるKKの対比。とてもいい。


★ここから本気のネタバレand感想領域★
 ヴァースのむかつく上司(ただの同僚かも)はホントに感じが悪いだけで実際には事件にはかかわってないです。前半の最後に警察の中に実は裏切者がいてそれが黒幕と分かるのですが、その黒幕は署内で実績をあげており文句はいえない存在として署内で権限を持っていました(その実績も汚い方法で上げたもの)。黒幕警察官たちは正しいほうの捜査チームのリーダーを殺すという手段に出てそちらのチームを解散させます。(うむ!悪さ徹底しててよい)。KKは追ってくる人間の素性が怪しいとにらみ、黒幕警察官の一人を捕まえて脅し、その捜査チームの裏側を白状させるのですが(そこで黒幕の計画がわかる)、まあその時のやり方がね。KKも犯罪者だから容赦ない。膝を打ち抜くんですよ。銃でね。分かってるね…って思う。派手に乱射して脅すのではなく、膝小僧に銃を突き立てるわけだ。そして打ち抜く。でも、殺さない。いやあ…酷いね。

 捜査チームは解散したけれど正しい警察官たちも彼らを追う、よってヴァースとKKは黒幕警察官の捜査チームメンバーと正しい警察官の両方に追われる身になります。しかし正しい警察官が捜査員に交じっているおかげで、ヴァースは時々命拾いをします。例えばヴァースが街中を逃走する時、やっと逃げおおせたと思ったらやはり捜査網にひっかかってしまい列車の車両の中でヴァースと警察官たちは相対することに。その時の追う警察官たちのメンバー構成は正しい警察官が二人、黒幕警察官が一人でした。正しい警察官が「一般人が乗っているんだぞ」と黒幕をたしなめるので列車の中で銃の発砲は抑えられ、ヴァースは乗客を盾にしてなんとか逃げおおせました。けどこれができたのは相手が正しい警察官たちだったから。黒幕警察官だったらおそらく盾にした乗客もろとも殺していたと思う。そういう細かいところも上手いです。

 KKは仲間が裏切って自分を黒幕警察官に売っていたことを知ります。そして彼の裏社会のつてを頼って裏切者=自分の雇い主の居場所を突き止めます。この時KKつよつよSongが流れます。これがインド映画のセンスですね。重厚で暗いこれからの血みどろの闘いを暗示するような音楽ではなく、ぐっとアップテンポで歌詞も(よく覚えてないけど)彼の強さを誇るような内容で。そしてまた、KKの情の厚い一面をちらりと見せたり。情の挿入はインド映画では音楽でより強調されるのですね。

 誘拐されたヴァースの妻は誘拐犯は黒幕警察官たちであり、よって彼女は警察署内に閉じ込められていました。黒幕たちは徹底して悪なのでKKとヴァースに自分たちの罪を着せて殺害、ついでに妻も自殺に見せかけて殺すという計画をたてていました。いろいろあって必ずしも計画通りではないけれど、もう妻を殺してしまおうと彼女をトイレに連れ出してその窓から突き落とそうとします。相手は角刈りの女性警察官なのだけど、性別は関係なく妻への殴る蹴るがマジ容赦ない。なんとか逃げおおせたと思った場面がありましたが、この女性警察官が確保しに来る。そして署内だから当然誰もそれを疑わない。体を鍛えたマッチョメンな女性警察官に臨月のお腹を抱えた妻がかなうはずもありません。この時の殴る蹴るの描写は凄まじく何度も顔をそむけてしまいました…。

 この事件の解決のカギは黒幕警察官達のボスが隠している犯罪を実行している時の監視カメラの映像でした。それを奪うためにKKとヴァースも警察所へ侵入します。といっても警察チョッキを拝借するだけ。警察官の格好をしてそれっぽい挙動をして正面玄関からすんなり入れてしまいました。このあたりもリアリティを感じます、すべての犯罪者の顔が知られているというわけでもなく、実際はそんなもんじゃないかなって。そしてこの侵入のおかげでヴァースは殺されかけている妻を助けることができました(かなり省略してすごい大変だったけど)。ほんとによかった。最後には監視カメラの映像が入ったUSBも確保、それを警察署内で公開して一連の犯行、そしてこれまで起きていた犯罪の本当の犯人がようやく明るみに出ます。そのときはKKは姿を消していました。数日後、ヴァースの妻は無事に女の子を生みました。[完]

 この映画、実は歌って踊るのシーンがない。そしてわたしがインド映画、特にテルグ・タミル映画で楽しみにしている、鉈を振り回し、血しぶきが飛び、人間を飛び散らかす、はたまた人間を地面にたたきつけるとバウンド!という映画歌舞伎がない。KK役のヴィクラムは体を鍛え上げていているけれど基本的に重力に従っているし、銃で戦う。その銃弾の数も少ない。上述の妻への暴力はむしろガチ。ハチャメチャ度は全く(全くは言い過ぎかな)ないのだが、そういう見せ方をしなくとも脚本でしっかりとインド映画を作り上げていてスキのないストーリー展開を楽しめる。

★ついでに
主演のヴィクラムといえば問題作「セードゥ」、今回はどれくらいセードゥみがあるのかなと思ったけど全然なかった。おなじくヴィクラム主演の『マッスル・踊る稲妻』は100セードゥぐらいはあるんだけどね。また、本作の最初の方にヴァースと妻のラブラブソングもあるのだけど(もしかしたらこれが歌って踊るの華やかパートを補完しているのかも)、わたし的にはこれはなくていい。全部ガチガチハード系で占めてくれていいです。最後の7年後のシーンもなくていい。充分に満足できるので。

息をつかせぬ展開度 ★★★★★★★★
リアル度 ★★★★★
セードゥ度 なし

これがKKのつよつよ応援ソング




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