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マルコのこと87

 今日の輸液100ccはいつもより効果的だったはず。マルコが馬尾症候群と診断されてからちょうど一週間たった。

馬尾症候群(ばびしょうこうぐん、英:Cauda equina syndrome、CES )は、馬尾と呼ばれる脊髄の下端にある神経の束が損傷したときに発生する状態である。徴候と症状は、腰痛、下肢に沿って下っていく痛み、肛門の周りの痺れ、腸または膀胱の制御喪失などである。発症は突発的な場合と段階的な場合がある。(wikipediaより)

 マルコの症状は主に下半身の腰から下が立たなくなり座ることもできない、そして尿の制御が効かなくなる、の2点。移動の時は主に前脚だけで完全に開ききった股関節を引きずる。後ろ足は魚のヒレのような感じに横に広がったままバタバタと動かす。力が入らずコントロールもできない。ただし後ろ脚に痛みはあまり感じてない様子とのことだった。

 実は診断されたその日のうちに(泣きながら)馬尾症候群と猫と治るのキーワード検索をして鍼灸で改善した事例を見つけた。そしてその日のうちに電話して予約した。一番早くても一週間先しか取れないということで気が遠くなりそうだったけど10時から通常の診察、10時半から鍼灸の治療の予約を入れた。今日がその診察の日。

 10時、院長先生による西洋医学的診断をしてもらう。いわゆるセカンドオピニオンといういちづけでこれまでの検査履歴などを見せつつ状況を話す。ひと通り話したあとは腰や歩き方などを観察した。診断結果は馬尾症候群が原因かはわからないけど筋肉がほぼなく、腰の様子からも歩くのは難しい。これまでの腎臓病や歯肉炎の経緯から言ってもこれ以上出来ることはあまりない。やるべきことはこれまでの治療で全部やっている。猫さんも飼い主さんも相当頑張っている、とのことだった。この3ヶ月で800gも体重が減っているということは、現実的な意味であと3ヶ月ぐらいの寿命でしょうと言われた。ショックでもなく、ああ誰かがこれを自分に言わなきゃいけなかったんだ、それがこの人だったんだと思った。

 美容院でのカラーリングの相談でずっと担当だった人が移動で新しい担当に変わったことがあった。その人は「この色なら白髪が目立ちませんよ」とあっさり言い、カット担当や仲良い他のスタッフの空気が一瞬強張った。その時は(ああ、これ自分で言わなきゃいけなかったんだ、ごめん)と思った。

 あれと同じ。かかりつけ医の先生の見立てもきっと同じで、だから無理な治療は提案してこない。暗黙の了解でこちらも無理はお願いしない。恐らく今回のこの先生はこの後の東洋医学的見解とは違うということを示すためにもはっきり言ったんだと思う。でもわたしには神のお告げに聞こえた。もちろん寿命があと3ヶ月というのがどういうことかまださっぱり分からない。反発するでもなくただうんうんと話を聞いていた。その間はずっと滝のような涙を流していたけど。


 10時半からは副院長先生による鍼灸の処置、10時の診断結果が申し送りされているので余計な説明はしない。鍼の効果ややり方の説明を聞いて早速施術をしてもらう。細い鍼なので刺さっているのかどうか分かるのかな?と思ったけど、マルコは何やら感じたらしく怪訝な顔をしていた。電気を流して少し刺激も与える。最初は顔をキョロキョロさせて先生の顔を覗き込んだりしていた。先生には「目力しっかりしてるね〜」と褒められた。そうでしょう?何本か鍼を打つうちに筋肉が弛緩してきて楽になったのか、だんだんウトウト顔になっていった。最初から鍼を受け入れるかどうかはそれぞれとのことだったが、マルコには合っていたようだ。だんだんそのままで寝始めたマルコの顔を見て今度はじわっと嬉しくてまた泣いてしまった。マルコが気持ち良いことが、いま生きていることが純粋に嬉しかった。

 施術が終わって歩けるか試してみた。もちろん元には戻らないけど、少し腰を浮かして歩けた。きちんと座れた。今までにないスピードでこっちに向かって走ってきた。抱き上げるともともとすっかり小さい身体だったけどさらに柔らかくなっていた。針をすると身体が緩んで柔らかくなるらしい。

 鍼の効果として、血液の巡りを良くするというのがあり腸には血管がたくさんあつまっているから便秘も良くなると言われた(実際、さっき残りの硬いウンチが出た)。

 家に帰ってきて、ちょっと歩けると気がついた途端に窓辺で日向ぼっこをしているモッチを押し退けてベランダへ突進していった。もともと日向ぼっこが大好きで、かつ身体が楽になったとはいえ初めて場所で緊張しただろうし、初めて鍼で疲れもあったはず。ベランダでゆっくり寛いでもらった。鍼は期待以上の効果が得られそうなのでしばらく集中的に通うことした。ちゃんと最後までマルコが気持ちよくあるために。ずっといい天気だといいな。毎日ひなたぼっこしようね。

 そうそう、脚を包帯で固定するのは一時的にはいいけどずっとしてるのは血行が悪くなるかもしれないので良くないと言われたので包帯は捨てた。

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