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お気楽探偵アトレヤ ーAgent Sai Srinivasa Athreya (IMW)

鑑賞日 202012XX
於 キネカ大森他
主演 ナビーン・ポリシェッティ、シュルティ・シャルマー

 とにかく面白い、話のテンポも展開も、そして主役のナビーン君の笑顔が最高キュート!IMW2020で一等気に入った作品でした。あまや座での山田桂子先生、山田タポシさんの解説も後半にまとめます。

★謎が謎を呼ぶ映画前半、わりと内容を書いちゃってます、要注意★

 シャーロックホームズ大好きアトレヤは自身も地元ネッルールで探偵事務所を構えて日々難事件を解決…というわけではなく地元警察からのおこぼれの相談事項を受けながら大事件を待っている暇を持て余した若き探偵。助手のスネーハを雇ったけれどもやることもないので研修と称して様々な映画を見て探偵修行をさせている(本人は本気の探偵修行のつもり)。

 ある日、友人で記者のシリーシュから最近になって彼の地元のタダで身元不明遺体が大量に発見されているので調べてほしいという知らせを受ける。事件に飢えていたアトレヤは二つ返事で承諾。早速、線路わきに身元不明の死体がみつかったとの連絡があり見に行くとそこで鉢合わせた警察官に「死体のそばにいるのは犯人」と逮捕されてしまう。留置場で過ごすことになり、そこで娘をレイプされて殺されたと嘆く老人ラオと出会った。一晩かけてラオ老人から娘の事件の話を聞き、その老人の哀しみのためにアトレヤはレイプ事件を解決すると決心。釈放されたアトレヤはラオ老人から聞いていた犯人3人の身元を洗うために早速調査を開始した。うち二人の男はすぐにみつかり、アトレヤとスネーハがそれぞれ後をつけて彼らの動きを探った。その動きを探っている最中にまさかの人物をアトレヤは出会う。それは死んだと聞かされていたラオ老人の娘だった。娘と直接話をすると本当の父親は別におりラオ老人とは全く縁もゆかりもなかった。

 アトレヤは警察へ行きラオ老人のことを尋ねるがそんな名前の人物は収監していないという。また、ずっと犯人だと思って尾行していた男二人が殺され、アトレヤは再び留置場へ。尾行していたことが仇になり、二人の殺害現場跡にアトレヤが犯人であるかのような証拠をたくさん残してしまっていたからだ。嵌められたことを知ったアトレヤ、いったい誰が、なぜ…。

★ここから本気のネタバレand感想領域、これからみるつもりの人は読まないほうがよいかも?★

 自分で前半のあらすじ書いただけで面白すぎて興奮してきたwww。前半のミスリード、後半もなんどもあちらこちらにミスリードがあり、事件解決には右往左往するのだけど、事件の真相が見えたとたんに一番最初の映画の導入部分の学生時代の母の話にズドンと直結する。ちょっとあり得ないくらいの衝撃だった。インド映画では家族の話や過去のエピソードが映画の一幕を使うぐらいに語るというフォーマットが多いけれど、この作品でアトレヤの過去の話をするのは導入の母の話、そしてその時の父との会話のみ。その記憶がアトレヤにとって自分ごとの事件になる鍵でした。

 うまいな、とおもったところはいくつかあるけれど(上述の母と父のエピソードの入れ方もそう)、そのひとつが今回の事件(詳細後述)では遺体不法処理に伴う犯罪が臓器を盗るという大掛かりなものではなく指紋のデータ採取だったところ。まず1)盗んでいるのは指紋データでありそれを犯罪者に売りつけていた、というのでテロ事件やIT犯罪などこれから起こり得る犯罪につなげている。次に2)遺体損壊されていないので残虐性に引きずられることなく話に集中できる、その引き際やバランスがよいな、と。一方でアトレヤ2号みたいなこってりしたボビーという探偵が場を賑わせたりと濃いキャラが登場する。

 ちなみに犯行内容は信仰心につけ込んだ宗教(葬式?)詐欺、犯人は最初にラオ老人から告げられた3人のうちの残りの一人なのだけれどもその経緯や関係を改めてここに記載するのはあまりにも複雑なので割愛。

 事件自体は全然お気楽でなくて、様々な要素がつまったものだけれども、ときどき挟まれるコメディが緩衝材になって全体をよい感じに仕上げているかと。病院での看護師とのやりとりはちょうどIMWで『伝説の女優サーヴィトリ』もやっていたのでこちらも爆笑できて(素晴らしいプログラムだなIMW!!)と感謝。アトレヤは映画マニアという設定でもあって、いろんな映画が初っ端から登場するし(後述)、最後はテルグ映画らしく『バーフバリ』と『マッキー』で締めてくれた。カーラケーヤが使うキリキ語がうますぎる!挿入歌Song「Shelock Holmes」では「本物の探偵とは違って背も低いし足も短い、スーツが余る」なんていう意味の歌詞が流れるのだけどナヴィーン君は背も高いし足も長いしスタイルいいんだよね♡

「シャーロック・ホームズは小説だけどアトレヤは実在する!」とかいうセリフが好き♡他も全部好き♡

★山田桂子先生、山田タポシさんの解説メモ★

■まず冒頭で出てくる映画(メモに残っている分だけ)
-ユージュアル・サスペクツ
-シャーロック・ホームズの冒険
-シャーロック(ベネディクト・カンバーバッチ版)
-シャッター・アイランド
-ゴッドファーザー
-ショーシャンクの空に
-羊たちの沈黙
-キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン
-ランボー
-サルカール(これチェンナイ以南のシーンでポスターで登場)
かなり王道の映画がリストされており、映画好きなら楽しめるようになっている。面白いのは実は監督は別に探偵ものが好きというわけでもなくこういった作品をほとんど見てなかったとのこと(これを機会にシャーロックホームズは見たのだったかな)。

 一方で意識したという映画は『Chantabaai』(1986年チランジーヴィ主演、主人公がジェームズボンドにあこがれるコメディ映画、テルグ映画における探偵ものの古典)、またS・S・ラージャマウリ作品(バーフバリ、マッキーなど)は迷信や盲信への批判という観点で大いに参考にされていそうとのこと。
 コメディ満載や迷信や盲信への批判というこの映画、実はバリバリのテルグ映画だったんですね~。さらに『Drishyam』(Netflixでヒンディー版Drishyam邦題「ビジョン」が視聴可)の主人公もかなりの映画好きで、好きが高じて自身に被った事件を映画をヒントに隠蔽するのだけれども、留置場でアトレヤが一席ぶつシーンではこの映画が元ネタと思われるとのこと(というかまんまそうだった)。

■映画に実際にでてくる新聞記事やいろんな盲信・迷信がこの映画の元ネタです。(メモに残っている分だけ)
-ネズミ祭り
-ココナッツを頭で割る奇祭
-赤ちゃんを高所から投げる奇祭
-慈善事業を語った宗教詐欺
-2015年 A Bloody Scam that shook Tamil Nadu 工事のために人身御供をしていた、殺す人間を近所の精神病院などから集めていた
-2011年 例年は3~40,000体程度だがなぜかこの年は222,446体の身元不明遺体が線路脇で見つかった、詳細は不明。
-遺体から不法に採取された指紋をデータとして犯罪者に売る(これはアメリカの事件)

 映画のキモとなる遺体の焼きを業者に委託する、というのはインド人の風習から考えてなさそうとのこと、そこはフィクションでした。なおインドではあまりに迷信につけこんだ犯罪が多かったため2013年に反迷信法というのが施行されたそうですが、草(創)案者は暗殺されたとのこと。

■事件が起きた場所の距離感のお話は聞かないと分からなかった(地名は手書きのメモの字が汚すぎて読み取れなかったのでだいたいの位置です)
アトレヤの本拠地はネッルール、犯罪の舞台にされてしまった鉄道はオンゴール~チェンナイ近くまで海岸沿いを約700km、犯人を逮捕したビーカネールはニューデリーの近くなのでチェンナイからだと約2000Kmと大移動をしていた。地図でみるとその距離に驚く。インドデカイ。

というわけで日本語円盤化>>切望です<<!!!たのんます!

テンポ良くて楽しい度 ★★★★★
事件の真相にのまれる度 ★★★★★
テルグ度 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

♪Sherlock Holmes


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