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とにかく明るい“わからない”「あ、共感とかじゃなくて。」展

とにかく明るい安村がイギリスのオーディション番組に出た時の動画で、永遠に笑っている今日この頃。

「安心してください、履いてますよ!」のネタは元々大好きだったけど、異国の地でオーディション番組に参加する勇気を想像しただけで感服だ。ウケるかどうか未知数の異文化圏で、パンツ一丁で良くやったよ…最高!


言葉がわからない、ざっくりでしか伝える事ができないという状態の中で、彼の芸は面白みを増した。

“とにかく明るい安村”という長い芸名を捨て去り、「アイム、トニカク!」と言ってしまう潔さ。これにより、審査員から「トニー!」と呼ばれる事になり、親しみがうまれた。


パンツ一丁で芸を披露した後の決めゼリフ、「安心して下さい、履いてますよ!」を、目的語の“パンツ”を語尾につける事なく「ドントウォーリー、アイムウェアリング!」と英訳したため、「安心して下さい。私が履いているのは?」というニュアンスになってしまった。そこに、審査員からの「パーンツ!!」というレスポンスが加わり、会場に一体感が生まれた。


全てを正しく伝えようとしていたら、果たしてここまでウケただろうか。ざっくり、まあこんな感じでオッケー◎くらいのスタンスで、ノリとテンポと勢いで笑わせにかかる。芸人さんってすごい。審査員が何言ってるかわからない時は、「アイ・ライク・ティー!」で通し、“わからない”余白が思わぬ偶然性を生み出し、爆笑へと繋がっていた。奇跡だ。



離婚にまつわる様々な行政手続きの際に、離婚理由を明記する欄があった。

金銭トラブル、不貞行為など、それっぽい理由の所にマルをつけるタイプの理由の述べさせ方だったのだが、数ある選択肢の中に“性格の不一致”というものがあった。


性格がぴたりと一致する相手などおらんでしょうに……とゾッとしつつ、性格が一致している事や、わかりあえる事を理想とする謎概念って、確かにあるよなあ…と思った。いや、これは、ただ単に「嫌いになった」というシンプルな理由をオブラートに包みまくった結果、こんな表現になっただけかもしれない。

とにかく、性格が一致していないという事はよくない!!夫婦って1番わかりあえないといけないんだからさ!!という価値観の裏返しなのだろう。うるさいよ、安村を見習えよ。


前置きが超長くなったけど、ずっと見に行きたかった「あ、共感とかじゃなくて。」というイケてるタイトルの展示を見に行った。東京都現代美術館で、デイビッド・ホックニー展と同時期に開催されていた。2つの展示を見る事ができるチケットには、スペースの都合上「ホックニー展」「共感展」と表示されていた。共感とかではない展示が“共感展”と略されちゃってるところも、なんだか良かった。


現代アートには、いや、アートには鑑賞者の数だけの答えがある。

作品を見て、“わからない”部分のほうが多いのだけど、その“わからない”の中にこそ無限の可能性がある。

わからないけど美しい、わからないし不気味だ、わからないのが面白い、わからないのになんだか楽しい。これほど、“わからない”の中で心を遊ばせる事のできる物事を、私はアート以外に知らない。


美術史上での解釈や、専門用語を用いての解説など、できるっちゃできるけれど、そういう事はきっと作品の本質ではないのだ。

ただあるがままに、感じたいように感じれば良い。だから、あーよくわからんかったわーで、何も間違ってはいない。


わからないことは痛くもかゆくも辛くもない。わからないことは何も間違った事ではない。わからないから歩み寄れるし、わからないから想像できる。

その想像上の物が事実とは異なっていたとして、それは事実よりも劣っていたり、ハズレだったりするのだろうか。違うでしょ。

安村があれだけウケたのは、自分を正しく理解してもらうよりも、目の前のお客さんと真摯に向き合ったからだ。審査員と安村は、お互いに理解していない部分のほうが多かった。その結果トニーと呼ばれようが、「パーンツ!」が返ってこようが、それは元ネタ以上にハッピーな事なのだから。


100%の共感も、理解も、わからない中向き合い歩み寄ろうとする尊さには勝てない。地球上の誰の性格とも一致せず、唯一無二の孤独を味わい尽くすことが人生だ。それでも、誰かと一緒にいたくて、同じ月を見たり、ドンブラコと川を下る巨人の歯のような訳わからんモノに出会い続ける。作品を前にして、「これはナニ?」から始まる会話には、無限の可能性が秘められている。


この展示に出展した、5人のアーティストを尊敬します。なんも具体的な事を書けていなくてごめんなさい。でも、会期はまだあるから、行ける人は行っておいでよ!とオススメします。できるだけ予備知識なく、“わからない”を味わい尽くしてみてはどうだろうか。


ユーチューブで安村を見る気軽さで、是非みてほしい展示でした。






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