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腹部膨満・ガス貯留にどう対応するか? - ガス貯留の背景にある病態

こんにちは。やまとドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分で終わる医師カンファ」では、現場での気づきや悩みをテーマに、やまとの全診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。今回は排ガスコントロールに難渋する2症例について話し合いました。

Take Home Message

  • ガス貯留の背景にある病態(腸内細菌叢の乱れ、炎症など)への対応

  • 薬物療法・非薬物療法を組み合わせた包括的アプローチが必要

  • 患者の心理面と家族の負担にも配慮した支援を心がける

カンファでの意見交換

A医師:「2名の患者さんについて相談させてください。1人目は卵巣がんと腹膜炎の既往がある女性です。下剤は使用していて毎日便通はあるのですが、お腹がガスでパンパンに張って苦しいと訴えられています」

「2人目は脊髄損傷で寝たきりの方です。便の量自体は多くないのですが『ガスが溜まってお腹がパンパンになり苦しい』と。毎日浣腸していて、直後は楽になるものの1日でまた溜まってしまいます。デイサービスでも毎日浣腸していただいているのですが、『毎日する必要がありますか』と言われて家族も心苦しく思っているようです」

B医師:「1人目の方について、腸管運動の低下と、腹膜結節による狭窄の可能性がありますね。通過障害による排便困難の訴えはありますか?」

A医師:「排便自体は困っていないんです。ガスの貯留量が多いことが問題で。もしかして空気を飲み込む癖があるのかもしれません」

C医師:「プロバイオティクスは使用されていますか?」

A医師:「一般的なビオフェルミンやミヤBMは使っていますが、量はそれほど多くないですね」

D医師:「まず、ガスコンについて一つ申し上げたいのですが、これはほとんど効果がありません。基本的に胃の中の泡を空気の泡にする薬なので、ゲップには有効かもしれませんが、大腸のガスには効果が期待できません」

「腹膜炎の既往がある方は、腸内細菌叢がかなり乱れていると思われます。炎症を抑えてあげて、腸管運動を改善させる必要があります。BMやミヤBMを使いながら、ステロイドで腸管周囲の炎症をとってあげると、腸管運動が改善する可能性があります」

「また、卵巣がんの症例では、サンドスタチンの使用も選択肢の一つかもしれません。消化管閉塞による症状緩和に効果が期待できます」

E医師:「ただし、サンドスタチンは皮下注射なので、在宅での使用には家族の理解と協力が必要ですね。コストの面でも考慮が必要です」

F医師:「私の経験では、サンドスタチンは300μg持続皮下から開始して、症状に応じて調整していくことが多いです。効果が得られれば、QOL改善に大きく貢献できます。ただ、現実には狭窄部位が特定できないことも多いので、私の場合は整腸剤に加えて、大建中湯を試したり、モサプリドやプリンペランを使用してみたりもしています」

O医師:「2人目の脊髄損傷の患者さんについて質問させていただきたいのですが、現在の浣腸の方法と、1回あたりの使用量はどのくらいでしょうか?」

A医師:「グリセリン浣腸を使用していて、60mlを1回使用しています。朝にデイサービスで1回、夜に自宅で1回という形です。あまり効果は見られていないようです」

P医師:「そうですね、私も経肛門的洗腸療法を検討する前に、浣腸の量や時間帯の調整から始めるのが良いと思います。例えば、朝1回に減らして量を120mlにするなど。また、腹部マッサージと組み合わせることで、より効果的になるかもしれません」

G医師:「2人目の脊髄損傷の患者さんのケースでは非薬物療法としては、ガス抜きの手技も重要です。経験のある看護師さんの中には指で上手にできる方もいますし、昔ながらのゴム管、チャンネルの大きめの柔らかいものを使用する方法もあります。粘膜がデリケートなので硬い管は避けた方がよいですね」

H医師:「私の経験では、同様の患者さんが2名ほどいました。ゴム製チューブでガス抜きを始めて、最初は頻繁に行いましたが、徐々に回数を減らすことができました。1人は完全に不要になり、もう1人も2週間に1回程度で済むようになりました」

A医師:「なるほど。現在の治療を少し調整してみて必要であれば次のステップとして考えてみたいとこと思います」

S医師:「その通りです。特に脊髄損傷の患者さんの場合、急激な変更は不安を招く可能性があります。まずは現在の方法を最適化し、その上で新しい治療法を提案していくのがよいでしょう」

I医師:「寝返りのできる方であれば、できるだけ体を動かしていただいたり、うつ伏せに近い姿勢を取っていただいたりすると、ガスが流れやすくなることもあります。また、温めたりマッサージをしたりという直接的なケアも効果的です」

J医師:「私は少し違う視点からお話させていただきますが、毎日浣腸する必要があるのかという点で、排便にこだわる患者さんという捉え方もできるかもしれません。身体表現性障害の可能性も考慮して、心理的なケアやカウンセリング、あるいは話し相手が必要なのかもしれません」

A医師:「ありがとうございます。これまでガス抜きのイメージがあまりつかめていなかったのですが、具体的な方法が見えてきました。薬物療法としてはステロイドやサンドスタチンの検討、そして非薬物療法としてのケアの工夫、さらに心理面へのアプローチまで、幅広い視点でトライしてみようと思います」

がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン(2017年版)より

  1. 経鼻胃管(NGT)について:

  • 適応:難治性の悪心・嘔吐があり、胃の拡張がある症例

  • 目的:薬物療法、外科治療、内視鏡治療の評価時間確保のための緊急避難的処置

  • 留置期間:3〜7日以上の長期留置は避けるべき

  • 合併症:鼻薬潰瘍、食道びらん、咽頭炎、副鼻腔炎、誤嚥性肺炎

  • 効果:研究では89%で症状の改善が報告されている

  1. 経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)/経皮経食道胃挿入術(PTEG):

  • 成功率:約90%(複数の研究で89.8%〜93.4%)

  • 効果:

    • 悪心・嘔吐の完全寛解率:77.4%〜97.5%

    • QOL改善率:64%

  • 合併症(頻度):

    • 創部感染(8〜14.1%)

    • カテーテル閉塞(8.4%)

    • 位置異常(2.1%)

    • 胃出血(2.1%)

  • 適応条件:生命予後が2ヶ月以上見込める場合

  • 特記事項:腹水合併例では感染リスクが高く、事前のドレナージが推奨

  1. コルチコステロイド治療:

  • 投与方法:

    • デキサメタゾン4mg(6時間毎、1日4回)または

    • メチルプレドニゾロン(40mg〜240mg)

  • 効果判定:投与開始後3〜10日以内

  • 有効性:

    • 症状消失率:コルチコステロイド群59.5%、プラセボ群33.3%

    • 経鼻胃管非挿入患者では更に効果が高い(67.9% vs 33.5%)

  • 注意点:

    • 生命予後1ヶ月未満の場合の有効性は不明

    • 高血糖、消化性潰瘍、せん妄などの副作用に注意

  1. ブチルスコポラミン:

  • 投与量:60〜80mg/日

  • 効果:

    • 単独でも症状改善効果あり

    • オクトレオチドと比較すると効果発現が遅い

    • 特に投与初期(1-3日目)はオクトレオチドより効果が劣る

  • 適応:特に疝痛(colic pain)合併例

  • 禁忌:麻痺性イレウス

  1. 制吐薬による治療:

  • グラニセトロン+デキサメタゾン併用:

    • 有効率87%

    • 悪心NRSを6.9から0.8に改善

    • 嘔吐回数を5.3回/日から1.0回/日に減少

  • ハロペリドール:

    • 2日後に53%で嘔吐消失

    • 27%で嘔吐回数減少

  • オランザピン:

    • 90%で悪心改善

    • 嘔吐のある患者の40%で嘔吐消失

  1. 治療選択時の考慮点:

  • 患者の予後予測と全身状態

  • 患者の希望(治療に伴う苦痛と症状緩和効果のバランス)

  • QOLへの影響

  • 施設の経験と技術レベル

  • 合併症のリスク

おわりに

今回の議論を通じて、腹部膨満・ガス貯留への対応には、病態の理解に基づく包括的なアプローチが重要であることが確認できました。特に、薬物療法と非薬物療法を組み合わせること、そして患者さんの心理面にも配慮しながら、家族の負担感にも目を向けた支援を行うことの大切さが浮き彫りになりました。

症状の改善に時間がかかる場合でも、患者さんに寄り添いながら、様々な方法を試みていく過程で、QOLの向上につながる可能性があることも示唆されました。

本日の議論が、医療介護の現場での実践の一助となれば幸いです。

やまとドクターサポートの原田でした。