山下ゴム男が読んだ本 -南総里見八犬伝 三-


読了日: 20211211

浜路の最期を聞いた犬塚信乃が生涯正妻をもたないと言ったのがちょっとかっこよかった。子孫が必要となれば妾…と続けたけれどそこは時代。

浜路以上の萌えキャラだと思っていた旦開野(あさけの)が男だったことに驚いた。しかも八犬士の一人、犬坂毛野胤智(いぬさかけのたねとも)だった。脳髄にガツーンと衝撃をくらった。

犬村角太郎礼儀(いぬむらかくたろうまさのり)の妻、雛衣の哀切な訴え。馬琴は女性、というか萌えキャラを描くのがうまいと思った。良母や毒婦の描写も卓越しているが。

毒婦といえば八犬伝の毒婦はしぶといししつこい。害意尽きることなしみたいなのもいる。馬琴はこんな女性に悩まされたのではないかと想像して気の毒になる。

死ぬという雛衣をなぜ追わないのか、という問いに角太郎は笑って答える。妻の腹には霊玉がある、水に進んでも溺れることはないし火に入っても焼かれることはない。ああ、なるほどと思った。八犬伝には謎解きの楽しさもある。(なお追記。南総里見八犬伝 四 (第六十六回)の最後近くに、吁瑞玉の霊たるや、犬士にあらざれば奇特なし。 とあり、雛衣は溺れることも焼かれることもあるとわかる…。)

第五十一回 
兵燹山を焼て五彦を走らす
鬼燐馬を助て両孀を導く
の後の物語は時間の流れがそれまでとは全然違う。

犬士たちの生きざまに心を打たれる。こんなふうに強く美しく生きてみたいと思わせる見事な文学。

漫画の面白さに似て、漫画より面白い。文章の力と可能性と一未来図を示すような作品。

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