STORY 16

かーくんと同じような ピンクのクルマで訪れた彼女は まず
「はじめまして」 と 深々と挨拶をした

もちろん 実際にお逢いするのは 初めてかも知れないが
わたしにとっては
いつもお名前を拝見していて 商品を発送したことも
お手紙も送ったこともある

「はじめまして」という感覚とは かけ離れていた

いつも応援してくださって ありがとう
いつもメールを読んでくださって ありがとう
逢いに来ました! と お伝えしても

まだ少し笑顔がこわばっていた

すごく緊張されていた

「ほんとうに来てくださるなんて…」

"そんなに緊張しないで"と言われればさらに緊張するだろう と
持ってきた秘密兵器を使うことにした(笑)
(まぁ 一種のカブリモノなのだが)
それを装着してファミレスに入ると 彼女は急にゆるんだようで
さっきまでのこわばりがなくなっていた

ゆるんだ笑顔は とっても可愛かった❤

カブリモノを装着したまま で
   「店員さん これ直視出来たらスゴいっすよね」
と 言うと
  「…そうですね(笑)」
と 言いながら楽しそうに笑った

注文を取りに来たウエイトレスさんが
明らかにわたしを視野に入れないようにしているのが わかる

(ヤバいやつ来ちゃったな) といったところだろう


好きなように思ってくれ!


わたしは今
あなたの好気の目を気にすることより

目の前のひとがゆるんでくれることのほうが

大事なんだ!٩(๑`^´๑)۶

とかいうと カッコいいけど
やってる本人 実は結構楽しかったりするw
(イメージとしては さかなクンって感じ)

彼女は 自分のことを少しずつ話し出した

去年から仕事をしていないこと
なので お金がないこと
実家に世話になっていること
常に小言を言われていること
やりたいことがないこと
片付けが下手で家に呼べなかったこと

数年前のわたしなら それらを解決するための話をしただろう
こうすればうまくいくよ
ああすればラクになるよ と
でも

今 目の前にいるひとは 既に すべてがうまくいっている
充分幸せであって
何も足りないものはない

彼女に限らず それが腑に落ちてしまってからは
その類の話はしなくなった というか
出来なくなった
実に 不毛だと感じるから

彼女が話すことを ただ聴いて
彼女の中で エネルギーが高まってくる話だけに注意した

わたしが来るまでに間に合わせようと思って作ってくれた
手編みのバッグを頂いた
好みの配色で編まれたバッグ 一瞬で気に入った

そのバッグを手にしたら
彼女が わたしを思いながら費やしてくれた時間と気持ちが
ぶわぁぁぁぁぁーーーーっと 押し寄せて来た
手作りって これだからヤバいよね

そして もうひとつ
彼女は すごく大事にしているものを
持参して来ていた

クリスタルボウル である

何度か演奏を聴いたこともあった
あの 倍音を出す楽器(くらいの知識しかない)

クリスタルボウルを そのものを わたしに見せたいわけではなかろう
きっと
その音色を 聞かせてくれようとしたのだろう と思い

「クリスタルボウルは どこで聴かせてもらえますか?」と訊くと

「駐車場で 大丈夫だと思うんですけど」 と言う

ファミレスの駐車場で クリスタルボウルの演奏…
カブリモノをつけた初老の女性もさることながら
これもまた前代未聞であろう
しかし

いいではないか!!!


「わかりました!んじゃ!移動しましょう!」

お店を出て 彼女はクルマに置いてあるクリスタルボウルが
演奏出来る状態に準備が整った

演奏が始まった

美しい音色が 響き始める

少しして
なんだか じわじわと胸が苦しくなり(更年期の症状ではない)

一気に 涙があふれてこぼれた

なぜだかわからないけど
何かが押し寄せてきた
きっと
きっと 彼女は何らかの思いを込めて演奏してくれているのだろう
そうに違いない
でなければ この琴線に触れたような感覚にはなるまい

演奏が終わりに近づいている気がしたので
目を開けて
彼女に訊いてみた

「なんか…… 思いを こめて演奏してくださってた?」

ツアーの無事を祈ってくれてたり
とか
そういうやつ  的な と心の中で説明した


「いえ 特には…」


ないんかーーーーーい‼
自分のオメデタさにズッコケながらも
感動で涙したことには変わりない!と 気持ちを切り替えた

調子を合わせて嘘を言わない彼女は
とても素敵だった


STORY 16
T.麻貴さん



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