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地方自治小景18

2024/07/24, 7/25に開催されたFunding the Commons TOKYOに参加してきた。その中で取り上げられたQuadratic Funding(以下QF)を社会実装するにあたって必要な事項を整理してみたい。


適応対象について

  • 対象プロジェクト:地区活動

  • 対象貢献者:地区住民

  • プールの原資:公金(徴税)からの支出(従来の補助・交付金の文脈からの予算確保)

ここで言う地区は概ね小学校区を指す(条例規定を参照)。本市ではR3年度より「まちづくりチャレンジ応援補助金」制度を実施している。この制度は地区単位の地域地縁組織がプロポーザル方式で補助金を獲得するものである。他の公共調達の手法と同様に補助金の可否についての判断基準は行政側にあり、提案において住民意見や意向の反映余地はあるものの資金分配において住民参加の余地がない制度となっている。

企画立案と実施において住民意見や意向が反映しうる自主事業の支援の枠組みを残しつつ、資金分配の意思決定においても住民意見や意向が反映可能な新たな枠組みを実施するにあたりQFの仕組みを活用したい。

QFに対して懸念される要素とその対応策(地方行政官、地方議会議員より想定される)

QFの特性上、貢献(寄付)する人の数が増えるほど資金分配が多くなる点について、本市の特性の一つである住民の集中地区と過疎地区との間の不均衡を助長するとの懸念が想定される。これに対しては、不利地に対してプール予算以外の交付を実施する(過疎地域向けの財源が法定で別途存在する故)。

QFの割り振りを市全体と地区に分け2階層で行うことも検討しうる。市域全体に波及する、ないしはしうるプロジェクトに対しては市全体の資金プールからの予算投下を実施する。その際には、廿日市市住民全体の寄付行為を算定パラメータとして入力する。それに対して各地区毎の資金プールからは各地区のみを対象としたプロジェクトに対してのみを対象とした予算投下を実施する。その際には、その地区の住民の寄付行為のみを算定パラメータとして入力する。寄付者に対して市全体のプロジェクトと自地区のみのプロジェクトの双方に対する選択肢を用意することは地域自治、住民自治の観点からも不可欠の実装要素と考える。

また、公金を重点的に投下する個別カテゴリー(男女共同参画、ゼロカーボンなど政策課題)については別途の資金プールを設けそれを該当するプロジェクト・地区に対して割り振るなどの制度調整で対応が可能と考える。

QFに対しての制度拡張案

QFで分配するリソースは現金(日本円)や仮想通貨が想定されているが貢献者(寄付者)の幅と寄付の選択肢を広げるために、労務や現物を含める制度拡張を実施したい。具体的にどのようにこれらのアナログのトークンを流通可能な形式に変換して制度に取り込むかは難しい問題である(正直まだいい具体実装、アナログからデジタルへの変換方法を思いつかない)。当座は既存のボランティアポイント制度によるポイントをトークンとみなして1P=N円とみなしてQFの寄付に含めることができるようにすることでスタートしたい。
この現物によるQFの参加回路を実装する狙いは、現金を獲得できる主体しかQFに参加できない状況を避けるためである。具体的には現金収入が相対的に乏しくなる高齢者や労働市場への参加が禁じられた子どもなどの多世代に対して参加権を付与することが想定される。換金可能な資本を持たず、かつ、なんらかの理由で労働市場へ参加して市場から現金を獲得することが困難な主体に対しても社会参加に対してポイントを付与し、それに基づいて予算分配の意思決定に参加しうるようにすることが必要不可欠だと考える。

具体実装に向けてのマイルストーン

QF制度自体について

上記であげた複数の資金プールを用いての実装や寄付方法の拡張がそもそも論で可能なのか、またQFの特性や利点を減殺するような実装でないのかの確認が必要になる。この点については大元の論文やQFの実装事例の調査がまず必要なのと有識者・経験者のフィードバックを貰いにいくなどのアクションが必要になる。

政策提案について(地方政府)

上記であげた地域活動に対しての補助金制度や官民連携の方式について見直しを行っている最中であり各担当課に対してヒアリングと意見交換などはすでに始めている(経営企画課、地域振興課等)。継続して現場レベルの行政官とのコミュニケーションを実施するとともに議会の議員に対しての政策提案を本格化させる必要性がある(対議会も前年度から実施しているがあまりリソースを割いていなかった)。
政策提案においてはQFそれ自体の理解を求めるのは酷であると考えるので実装方式は隠ぺいして、QFにより得れる効果(財政民主主義、財政に対しての住民参画)を訴求しつつ、地方政府側のペイン(課題)とすり合わせをし合意を形成する。政策パッケージとしては「住民参加型予算」という名目で実施を進める。

ユーザーヒアリング(プロジェクト実施者)

下記のターゲットに対しての定性の調査をまずは実施する。確認すべき点は、QFによるリソースの分配方式について納得感があるか(と同時に忌避するとすればどのような点においてか)についてになる。

  • チャレンジ応援補助金制度に参加した(不採択含む)地域自治組織の起案担当者

  • 不利地(山間地、中山間地、島嶼部)向けの補助、助成を用いて事業実施をしている・したことのある団体の担当者

  • 商工会主催のビジネスコンテストに参加した主体(ビジネスコンテストと言っているがローカルビジネス、社会起業要素が例年強いため)

  • 市域内で活動する財団法人、一般社団法人、NPO等の各種公益団体

  • 子ども議会参加者

  • 地域学習において地域事業の提案を実施した小学生グループ

  • あと個人的に思い当たる人

ユーザーヒアリング(住民)

毎年度実施されている市民アンケートによると「自分の住む地域の将来を考えたり、地域の課題を解決したりするための取組に参加したいと思うか」との問いに対して約6割が「参加は難しいが協力したい気持ちはある」と回答している。

令和5年度まちづくり市民アンケート 33頁より
https://www.city.hatsukaichi.hiroshima.jp/uploaded/attachment/73441.pdf

QFがどの程度の割合で上記の6割にあたる気持ちはあるが参加が難しい層に対して価値訴求できるのか。地域課題解決のプロジェクト・プロダクトへの寄付という行動変容を生み出すかはやってみないとわからないが、事前に定性・定量でヒアリング調査等の実施をしておきたい。

PoC実装

下記を切り口に小規模な実験実装を実施し、効果検証を実施する。

  • 市域全体を対象としたこども・子育て関連施策への資金分配と寄付の実施

    • これは本市が主要政策課題とあげた関係で予算確保の合意形成が容易

    • 計画段階から住民意見の反映に取り組んでいることから予算執行にあたっても住民意見の反映に取り組むことの正当性を確保が容易

  • 市域全体を対象とした若者参画の施策への資金分配と寄付の実施

    • 年明けに市議会の選挙(全定数)が実施される点を加味して政治的な同意と支持を得ることが容易(ポピュリズムと言われてもこの際構わない)

    • 市長の合意調達も容易(2期目の支持基盤が揺らいでおり兎も角として人気取りが必要な状態にある)

    • 住民側の支持も得やすい(これは肌感にすぎないが高齢層も若年層への予算充当に比較的同意しやすい風土がある)

  • 地区プロジェクトへの資金分配と寄付の実施

    • 地区でプロジェクトを複数立ち上げることのできる程度の自治力のある地域が限られているためプロジェクト募集は市域全体とする

    • デジタル社会実装予算が今年度分未執行が確定しているので繰越予算としてうえで次年度以降にデジタル実装名目で充当する(この際はTechを前面に出して訴求する)

    • 可能であれば寄付者の属性を匿名性を確保しながら効果検証の指標とするために取得する

    • 市域内の小中学生に寄付リソースを付与して参加してもらう(プールの一部を減らしてもPoCであれば構わない判断)

具体でやらないといけないこと

ここは随時更新ではあるのですが、今年度は市の基本構想、総合計画や個別計画各種の見直し年度であるので住民参加予算の方向性について具体で政策提案をしながら各種の方針案に文言をねじ込んで既成事実を積み上げていくというのがまずもってやらなければならないことになる。
並行して、QF自体の理解度がまだまだ甘いので仕組み自体の理解度をあげること、既存実装を参考にしながら実際に実装して稼働するための技術要素個別についてもキャッチアップを進めいつでも動かせるようにしておく必要もある。
あとヒアリング調査と仮説の確度をあげていくのももちろん必要になるがこれは最悪、わたしがやりたい、私が必要だと思うからやるでよいと思っているので調査が完全に終わらないとやれないです、やりませんとはしないけど。

というわけでやっていきます。「住民参加型予算」についてすでに実現に向けて動き始めていた。今回のFtC TOKYOで具体的な手法について強力な道具が手に入ったのでデジタル側からもどんどん前に押せそうな感じがしておりすごくワクワクしている。

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