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地方自治小景 10

今年最初の市の広報紙に市長の年頭あいさつが掲載されているのでそれを昨年のものと読み比べながら今年一年の廿日市市政がどうなるか占っておく。昨年と今年の年頭あいさつを読み比べそれぞれから主要な事業を拾い出すと下記の通りである。

継続事業

  • 宮島地区の持続可能な観光地域づくり

  • 新機能都市開発事業

  • ゼロカーボンシティ

新規事業

  • 市役所周辺の都市再開発

  • 新都市プロモーション

  • こども施策

昨年は松本市政1期目最後の年であった。1期目の在任中はほぼコロナ禍の対応と、前市長の引継ぎ施策の推進に主要な政策リソースをあてていた。松本市政1期目での独自施策は「スポーツ振興」「カーボンニュートラル」「DX推進」の3点に限られる。1期目の独自施策はどれも軌道修正を迫られており執行部の目算通りに進んだ施策は1つもない(cf. 阿品公園の施策頓挫、包ヶ浦自然公園の施策の遅滞、スマートシティ施策の遅滞)。2期目の市長選出馬時にコロナ禍への対応しか1期目の実績としてアピールする点がなかったことからも明白である。

松本市政1期目は厳しい選挙戦を経てのスタートであった。1期目の執政の大課題は「コンパクトシティ化」「公共施設再編」「都市活性化」の3点に集約されるだろう。シビックコア地区と市執行部が規定する中心市街地域に都市機能を集約するとともに行政効率の向上と新都市機能開発を中心とした投資によってより稼げる都市を目指し市長のトップダウンにより施策を推進する方針であった。合併を経た行政区の周辺部(過疎地域)へはトリクルダウン説よろしく集中投資をした都市中心部からの波及効果を分配するというのが執行部側の主張であった。

先ほど挙げた1期目の3つの主要施策も3つの大課題に向けてのものであった。スポーツ振興は悪夢に終わった東京五輪2020にあわせての施策であったが主要な目標はスポーツ振興にともなう住民の福利厚生にあるわけもなくスポーツ興業による都市の賑わいの創出にあった。つまり、地方創生策。カーボンニュートラルも施策の主要な課題はエコツーリズム推進にあった。これも地方創生策。結果として自治体DXが主要な施策とはなったがDX施策も当初はスーパーシティ/スマートシティを主軸にした地方創生施策がメインであった。これらの施策方針は安倍政権下(続く菅政権を含む)の国の施策に沿った施策でありどこの市町でも大なり小なり同様の施策方針がみられるものである。皮肉交じりに一言で表現するなら、SDGsウォッシュな行政施策である。女子スポーツを応援することで男女共同参画推進施策を実施していると言い訳し、その実、先ほど述べたようにスポーツ興業による経済振興とスポーツに特有のシビックプライドの醸成が目標である。カーボンニュートラルと称しているが富裕層のインバウンドを狙う観光施策にすぎない。貧困の撲滅是正は目標に含まれないSDGsウオッシングの典型である。しかも自然公園を再開発するおまけつき。悪い冗談にもほどがある。スマートシティ構想も特定企業を中心とする住民不在の構想であった。

これら1期目の施策に共通の課題点を挙げるならば「官民連携における透明性の不足」「住民を起点とした合意形成の不足」「効果指標が不透明で曖昧なにぎわい・都市活力というワードによる政策根拠の説明不足」の3点がある。また施策実行の基軸として首長(市長・町長など)によるトップダウンの施策実行とそれに伴う議会の軽視、行政運営におけるガバナンス(法の統治)よりもマネジメント(行財政・都市経営)の優越、官民連携による公共領域の市場化がある。これらの要因が複合した結果が1期目の市政において住民の施策への反対と議会における討議の激化という形で見て取れた。

岸田政権の成立に伴い国の施策に軌道修正が若干加わっている。また地方自治法の改正に伴い地方議会の役割の重要性が再確認されたことから首長の専横に近いような行政運営を今後も続けることは恐らく困難になってくるだろう。これらの大きな流れの変化を踏まえて松本市政2期目がどのような方向性に落ち着くのか個人的な見解を述べたいと思う。

松本市政2期目の最大の課題は市長選挙を経ることなく無投票で2期目がスタートしたことにある。これは無投票の選挙に正当性がないという話ではない。無投票でも当選は当選であるのだが選挙により有権者から投票率が低くとも支持を受け当選したという政治リソースを使用することが2期目の松本政権にはできない点にある。これは議会対応の際に常に足かせとなる。選挙時にマニュフェストに掲げた施策を選挙の投票を経たのちであれば住民の支持があるのだからと押し切ることも一定可能ではあるが、今回はその手法を使用することができない。施策を実行しようとする場合には2期目は1期目以上に議会に説明責任を果たし合意を形成する必要性がある。
現状の市議会の構成は新人議員が直近の選挙で増えたとは言え各地域・地区選出の色合いが濃い議員の占める割合が多いことに加えて、合併前の市町村からのベテラン議員もまだ多数議席に残っている状態にある。そのため、過疎地域を中心とした各地域への政策リソースの充当を議会から強く求められる傾向がある。廿日市市はその沿岸部に人口の約9割が住んでいることから施策の力点を沿岸部に寄せるインセンティブが自然と働く構造にある。また、人口が子育て世代を中心として社会増を近年は続けておりこれらの流入層が居住するのも沿岸部を中心としている。

市長が2期目で重点施策の筆頭に掲げるこども施策は国の重点施策でもあるが、沿岸部の子育て世代への施策充実を図ることで無投票選挙で欠いている政治リソース(政権への支持基盤)の確保と相対的に議会で発言権の強い市周辺地域選出の議員への対抗を指向することが予想される。こども関連施策はこども家庭庁の成立に伴い国の近々の重点政策領域となっている。そのため国の交付金事業が数年間は確実に実施される。市が独自にこども向けの施策を一般財源で実施する場合はこどもが相対的に少ない過疎地域と限られた政策リソースの取り合いという課題を抱えることになる。ではあるが、一般財源からの持ち出しの少なくなる国の交付金施策で充当できるのであれば議会でそれほどの抵抗を受けずに実行が可能となる。また、既存議員の支持母体である地域地縁組織は子育て世代を中心とした現役世代の加入率が下がりつつある。これに対してこども施策を起点として地域における住民活動の組成と促進施策を実施することで既存の弱りつつある地域地縁組織に替わる新しい行政の補助・支持母体の形成を狙うのが2期目の主要な課題となると予想する。

結果として2期目に打ち出される子育て施策は大枠では下記のような方向性になるだろう。

  • 国の給付施策に対しての市の独自拡張の実施

  • 議会を経ない形での子育て世代や若年層を中心とした広聴チャンネルの組成

  • 地域の子育て拠点の整備支援と新しい形での住民自治組織の組成(NPOや企業の参画含む)

当座は1点目の給付施策を国の施策に連動させながらの実施がメインとなるだろうが、新機能都市開発に伴う市街地中心部の再編時には子育て世代や若年層(中高生等)を主眼においた公共施設の再編策を実施する公算が高い。対外的な都市プロモーション策が若干不透明ではあるが(海外向けの観光プロモーションに収斂するのだろう)、都市の外に向けたプロモーションがメインであったが都市内部のすでに居住している住民向けの関係性の構築としての広報・広聴施策になんらかの新しい施策が入るだろう(というよりもこれをやらずに施策を実行しようとするとたびたび2期目もスタックすることになる)。

📝この記事を書いたのは令和6年度の予算概要や施政方針の公表前なので大きく予想が外れている可能性もあるが市政を継続的にみたわたしの視点では現状こう廿日市市は見えているという旨で公表する。

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