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地方自治小景14

注記:広島県の人口流出が3年連続ワースト一位であることを受けて私の周辺で聞こえる諸々の意見に対しての論考になる(このコンテキストを共有していない読者には説明不足な点が存在する)。

おしい県のどこが"おしい”ままなのか

まず前提として広島県は行政区域としては存在しているが経済圏、生活圏としての広島県は存在しない。広島県民などという概念は幻想にすぎない。
広島県は政令市の広島市を中心とする広島都市圏の西部エリアと中核市の福山市を中心とする福山都市圏の東部エリアに大別される。これに加えて、沿岸部と中国山地側の中山間部の南北に地勢による分類も可能だろう。
今回の考察では広島都市圏を主な考察対象とする。(具体的には広島市、安芸郡の町、廿日市市、大竹市)

広島都市圏の人口移動(直近4年)

2023年
広島県:-11409
広島市:-3795
廿日市市:505
大竹市:-20
安芸郡:-7
府中町:-233
海田町:182
熊野町:223
坂町:-179
2022年
広島県:-9207
広島市:-2522
廿日市市:238
大竹市:-99
安芸郡:-35
府中町:-148
海田町:133
熊野町:105
坂町:-125
2021年
広島県:-7159
広島市:-2632
廿日市市:174
大竹市:-12
安芸郡:858
府中町:758
海田町:10
熊野町:67
坂町:23
2020年
広島県:8530
広島市:2666
廿日市市:180
大竹市:29
安芸郡:286
府中町:109
海田町:76
熊野町:28
坂町:73

総務省住民基本台帳人口移動報告より
広島県人口移動統計調査報告 令和4年より

今回話題となっているのは総務省統計の結果だが、広島県発表の人口調査の資料をみても2016年(H28)から日本人に関して広島県は社会減を続けている。転出先は東京都市圏、大阪都市圏、愛知、福岡への転出が多い。転出理由は、就職・転勤・転職など就業上の理由が大半を占める。転出理由で次に多いのが入学・転校となる。

統計の結果を素直に受け取るならば、広島都市圏(広島県)は働く人にとって他都市(都市圏)と比べ魅力に欠けるため人口流出をしていると言えるだろう。また、広島は東京都市圏のみならず大阪都市圏や福岡とも地理的に近接しているため転出先の候補都市が多く存在しているということもできる。

産業振興や都市開発が解として正しいのか?

上記を馬鹿正直に課題として受け取り解決策を単純に実行するなら、経済振興策各種を投下することになる。例えば、新規産業の創出、既存産業の競争力強化、雇用環境の改善各種となる。それに加えて転出先の諸都市と比べて貧弱な都市機能の強化が強く指向されるだろう。例えば、高次の都市機能開発の推進や都市交通網の整備となる。
広島都市圏に住んでいる・住んでいた人ならわかると思うが上記のような単細胞で考えの足らない施策はすでに実施済みである。すでに実施されている対策が質量ともに十分ではないという意見はあり得るだろう、またこれらの対策が効果発揮をするまでのタイムラグを指摘する人もいるだろう。
そもそも論として、新産業の創出や雇用環境の改善など諸々の施策は営利企業体が自身の目的に応じて自身の事業として実施すべきものである。この点に不足があり競争優位を失い顧客や労働者に選択されなくなるのであれば市場原理に従って市場から退出(要するに廃業)するのが正しい現象に私には思われる。人口減少への対策を目的として地元の既存産業への支援施策を実施することは結果として旧態依然とした企業を地域に温存することにつながる。彼らが保持する顧客や労働者が市場に開放されず結果として新産業や新企業の勃興を妨げる要因となっているのではないだろうか。地方であればあるほど、行政体が産業施策を実施することは手控えるべきである。
湯崎県政下では魅力的な新産業を各種の補助を大盤振る舞いして誘致する施策が行われている。既存産業を保護しつつ新産業を誘致するというのはいくら何でも脳みそが昭和すぎる。湯崎県政下でおこなわれる各種のイノベーション施策や既存産業のDX施策は端的に言って無駄であるどころか悪影響しかない。また広島市の中心市街地でおこなわれる各種の都市開発も主なディベロッパーは既存産業界のプレイヤーが中心であり、これらの都市開発も既存産業の温存にしか繋がらない施策である。
むしろ、行政が実施すべきなのは現役世代に対して社会保障を充実することで転職や起業へのハードルを下げる政策誘導を実施したり、労働者個別への技能向上や職種転換のためのリカレント教育を充実するべきである(ここで重要なのはリカレント教育を実施するように既存企業に補助をあてることではなく労働者個別への直接給付を実施する点にある)。
施策の方向性を示すならば、行政がとるべき施策は給料も低ければ雇用環境も旧態依然とした地元のイケてない企業から転職・転業してイケてる大都市圏や世界の企業で地元から働けるように住民がなるために必要な各種の施策を打つ必要がまずある。考えても見て欲しい、県外や市外へ転出しなくとも給料のよい企業で働く住民が増えれば増えるほど住民税の徴収額は増えるのである。既存の赤字企業がいくら潰れたところでその企業は赤字故に碌に税を納めていないのだから別に自分の行政域から消えてなくなったところで痛くもかゆくもない。赤字であるにもかかわらず一定の顧客を抱えるプレイヤーが市場から退出すればするほど、解放された顧客に向けて新しい企業が新しい財やサービスを提供しうるようになるのだから経済振興の上でも適切である。
行政官が不慣れな経済施策を練る必要性などない。住民の便益のために新たに学ぶ機会を提供する、仕事を辞めたとしても一定程度の生活を社会保障を中心とした施策で手厚く保証することで挑戦を促しさえすればよい。人的資本経営を義務づけられまた実施できる企業が地方に少ないのであれば社会制度としてそれを補完的に実施し、市場における外部不経済を除去することこそが行政が本来やるべき経済施策である。地方において経済振興策として唯一実施すべきが労働者に対する広範囲での保護施策である。女性活躍や男性育休を推奨しますというようなヌルイ施策ではなく社会保障制度の拡充により企業の過失の補完まで踏み込んで実施する必要性がある。地方創生施策でリモートワークを誘致するとんでもなく間抜けな施策があるがやるべきは逆である。住民がリモートワークでより好待遇な仕事を選択できるようにするのが地方の行政が地方創生でやるべき施策だ。
まとめると、都市圏から現役世代、特に若年層が流出するのは雇用の流動性、市場の流動性が低く市場における各種競争が促されず競争力のない既存企業体が温存されているためである。

文化・社会的視点からの指摘は妥当なのか?

次の記事では、文化・社会的な面から人口流出の原因になっている点がないのか考察する。





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