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実践の側から、企業のありかたを捉え返すということ。QUM conference 2018に参加して。

昨日は授業を休講にして(←天候による休講を除けば、何年ぶりやろかw)、フィラメントさん主催のQUMというイベントに行ってきました。

Quest(探求)、Unite(連携)、Move(行動)の頭文字をとっていますが、「くむ(組む)」という日本語とも重ねられた命名。詳細はリンク先をご覧いただきたいのですが、登壇者が錚々たるメンバー。そして、そのなかに2017年度にゼミの価値創造デザインプロジェクトでご一緒させてもらった平安伸銅工業の竹内香予子さん、そして2018年度に同じくプロジェクトでご一緒させてもらっている木村石鹸工業の木村祥一郎さんも。

✔︎オープニングセッション

オープニングセッションは、フィラメントCEOの角 勝さん。とっぱしから「企業とは」ていう、私にとっては“ど直球”な問いかけ。

東インド会社に遡りつつ、企業を“課題を解決するために編成されたプロジェクト”と捉えようという観点が、この日の4つのセッション全てに通底していました。

この点が、経営学(特に、私がメインに取り組んでいる経営学史や経営学原理といった領域)にとって核心的な問いであることは言うまでもありません。私自身も〈企業発展〉という概念を軸に置いていろいろと考えてきたのですが、最近はシュミット(Schmidt, R.-B.)の企業用具説にあらためて依拠するようになっています。シュミットの企業用具説の考え方を一言でいうなら、

企業はステイクホルダーの欲望や期待を充たすための用具(手段)である

という点です。これは株主だけに限られません。従業員にしても、顧客にしても、取引先にしても同じことです。

この点を踏まえたうえで初めて、「企業としての求心力をいかにして生み出すのか」が問われうると、私は考えています。その意味で、今回の議論を敷衍してみると、

企業とは、プロジェクトを遂行するための協働プラットフォームである

ということができるように思います。

さて、少し話が逸れましたが(逸れてはないw)、セッションごとに簡単に振り返っておこうと思います。

✔︎セッション1「人材発掘&着火」

ここで問われたのは、「アントレプレナーシップ(企業者的特性 / 能力)を持った人材とは?」「そういった人材を発見する方法は?」「資質からアウトプットにつなげていくためにすべきことは?また、すべきでないことは?」という3点。

そのなかで、以下のような点が示されました。若干、私の解釈が混じってしまっている可能性があるのは、ご容赦ください。

☆ 行動を起こしたあとの結果について、具体的なイメージを抱けている人(宇都宮綱紀さん)
☆ 純度の高い想いがある=課題への感情移入とこだわりの強さ(對馬哲平さん)
☆ 5S:特にStory Finder(田所雅之さん)
☆ ペインキラー:不快に感じる事柄を解決する視座・能力(村上 臣さん)

これらの点から、苦痛に対して敏感な人ほどアントレプレナーとして向いているのではないかといったアイデアや、アントレプレナーにはストーリーをカタチにするための技術への目利き能力が必要といった議論も出されて、初っ端から濃密さ全開です(笑)

それに続いて「発見方法」や「アウトプットにつなげていくために」という議論が、これらの線上で展開されました。結果的には、何よりも「まず動く」。これは、ほんとにそうだと思います。そして、失敗も経験して、そこで「なぜ」を問い続ける。

これって、大学での学びとまったく同じなんですよね。そのなかでこそ、理論も活きてくるので。

✔︎ネットワーキングタイムにファシリテーション

今回のイベントに関して、たまたまというかご縁というか、「ファシリテーションやってみたい人」っていうFacebookグループでの問いかけに「興味あり」って答えてしまいました。ノリがいいといやぁ聞えはいいですが、基本的に腰が軽いので(笑)

参加者のみなさんは休憩&登壇者のみなさんとのお話がメインになるので(←そりゃそうだw 私も行きたかったのは事実w)、大盛況とはなりませんでしたが、それでもけっこうな人数の方がワークショップスペースに足を運んでくださって、みなさんが抱いている問いやモヤモヤがいくらかは言語化できたかなと思います。

ちなみに、ネットワーキングタイムは3回あって、そのうちの2回にワークショップが開かれるという構成。私は、他のお2人と一緒にセッション2〈意思決定〉とセッション4〈権限委譲〉を担当しました。

今回は何か統一的な見解を導き出すというものではなかったので、言語化に比重を。

✔︎セッション2「意思決定&アジャイル」

このセッションでは「意思決定&アジャイル」というテーマで議論が展開されました。特にタイトルにもある意思決定の迅速さの問題。

その際、先ほども書いた〈プロジェクトとしての企業〉という視座を一つの手がかりにしつつ、話が進みました。

ある意味で、セッション1とも繋がる内容。時間をちゃんと差配すること(村上さん)、意思決定の対象たる課題への思い入れや切迫性(山田裕一朗さん)、意思決定「できる」ための力を獲得すること(山口豪志さん)、場合によっては「やってしまう」(=実績をつくってしまう;勝瀬博則さん)といった点とともに、言語化することの重要性や、問題への接近度(どこまで、とことんまでリサーチや実験を重ねたのか=本気度)、「ベストを求めてもそんなものは存在しないのだから、ベターを追求する」といった議論が出て、至極そのとおりやなと感じ入りながら聴いてました。

✔︎セッション3「事業評価&報酬」

企業がしくみとしての安定性を求めざるを得なくなるなかで、新規事業の評価は可能か?という問題設定。もちろん、これに関する理論(ファイナンスなどでの)があるのは念頭に置いたうえでの議論だと、私は理解してます。

そのうえで、印象的だったのは数値目標を先立てるのではなく、「あるべき / ありたい状態を明瞭に定義してから、定量的・定性的な目標を設定すべき」という点。これも、当に然るべき話で、深く納得しました。

そのうえで、新規事業と既存事業を分けることがほんとに必要なのか、そもそも事業や、それぞれの局面によって評価基準は変わるので公平性に囚われすぎるのはマイナスなど、かなり突っ込んだ考えが示されて、めちゃくちゃスリリング(笑)

議論のなかで、光村圭一郎さんの「社員が会社を選ぶ時代になりつつある」や、北島 昇さんの「人事制度における流動性の確保と“そこにいたい”文化の両立」(←表現は若干異なっていたかもです)、徳谷智史さんの「貢献と報酬の関係性」、さらに留目真伸さんの「価値創造と価値交換の新しいパラダイム」(←これも表現に若干の相違があるかもです。ただ、価値創造と価値交換という表現は用いておられました)など、考える手がかり満載でした。

✔︎セッション4「権限委譲&自律」

最後のセッション。もともとQUMに参加しようと決めたのは、先にも書いたように平安伸銅の竹内さんと木村石鹸の木村さんが登壇されるからでした。

私は当事者じゃないっちゃないんですが、かといってプロジェクトでお世話になってて、しかもどちらかといえば中小企業、しかも東京からすれば大阪は“地方”。当事者的感覚で、ドキドキしてたのは確かです。

権限委譲という言葉を手がかりにしつつ、議論は「メンバー一人ひとりの能力やポテンシャルを最大限に発揮してもらうには(=才能爆発 by 竹内さん)」という点が軸に。加えて、働く人の“しあわせ”を同時的に実現するにはどうすべきかという点も、あわせて話が進みました。

そのなかで、日本ユニリーバの島田由香さんが「心配ではなく、信頼」(←ぱらダイム・シフトというらしいです。しん“ぱ”いから、しん“ら”いへの移行なので)、さらに「何のためにそのルールはあるのか」「むしろ、何を大事にするのか=principlesこそが重要」とおっしゃっておられたのは、興味深いものがありました。この“ルール”をどう捉えるかについては、木村さんが以前からおっしゃっておられた点で、個人的には「人の行為を監視する」という側面がゼロになることはないものの、一方でルールのデザインによって「人の自律性や可能性を発揮できるようにする」という側面も考えてもいいのではないかと思っています。このあたり、ゼミのプロジェクトを通じて考えてみたいところです。

そういった点を踏まえて、伊藤羊一さんが“働き方”というより“生き方”の改革であること、ここでの議論はある意味で〈規範〉であるけれども、そこにどう近づいていくのかといった趣旨の話をされたいたのは、ことさら印象的でした。

また、企業(あるいはプロジェクト)の局面ごとで、リーダーシップのありようは変化して当然であるという議論も、腑に落ちるところでありました。さらに、「会社の意思」ではなく、「会社を構成する一人ひとりの意思」(伊藤さん)という点も、深く考えさせられる提唱でした。

✔︎クロージングセッション。そこからの個人的まとめ、そして次へ。

最後に、角さん、伊藤さん、留目さん、光村さんが登壇して、まとめのセッション。

ここまで、ほとんどぶっ通しで聴き、また同時に考え、さらにワークショップでいくばくの議論もしたので、学会よりも(?)疲れました(笑)

よくよく思い返せば、前任の大学で「プロジェクト演習」という授業を立ち上げ(2006年ごろから議論してた気がする。その後まもなく現任の大学に移ってしまったけど)、現任の大学でも一昨年度(2016年度)くらいからようやく“プロジェクト”というかたちをゼミに本格導入するようになるところまできました。ここまでの教員生活のなかで、ずっと考えてきたのは「この学生たちが、一生しっかりと、そして楽しく稼いで生活していけるようにするためには、どうBildung(形成とか陶冶と訳される。cultivation に近いかな)を促していくのかという軸。案外、ここはブレてないなとあらためて思います。そして、今回のイベントに参加して、この軸は間違ってなかったようにも感じました。もちろん、それがうまいことできてるかと言われると、正味「しゅん」ってなります。

けれども、「他者の欲望や期待を充たし、それによって自らも成果を獲得する」という意味での価値創造をやり続けることができるかどうか、これが大事やでっていう点はこれからもゼミなどを通じて伝えていきます。

ほんとに充実した催しでした!
ありがとうございます!!

#QUM



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