店長と私 #04 クールマイルド8ミリ
前回の記事で察していただけたかと思うが、この店舗、新人に優しくない。
「レジ袋、有料。25までは3円だけど、この一番大きいやつは5円。」
あーさんの指導のもと、なんとなく形にはなってきた。宅配便とかはすっかりやり方も忘れていて、しかも大忙しなこの店舗ではゆっくり説明してもらう機会にもなかなか恵まれない。つまり私は全ての業務を見様見真似で覚えなければならない。あーさんの後ろをヒヨコのようについて歩き、仕事を真似する。
以前のコンビニでの業務経験もだんだん活かされ始め、昔のようにコロッケや春巻きを落としまくるなんてことは全くなかった。
無我夢中で、あーさんに迷惑をかけまくり、接客もだいぶ板についてきた頃
そいつはやってきた。
「クールマイルド。」
私はまたしても固まった。
なんだそれ?
タバコのことだということをギリギリ察した。そしてギリギリの精神状態で「クール」のタバコが集まっている場所を探し当てた。クール、、マイルド、、、
緑色の箱に、5とか8とか書いてある。今でこそそれがタールの含有量だということがわかるのだが、当時の私には違いがわからない。ダメ元でクールマイルド8ミリを手に取ってお客様の元へ向かい、こちらでよろしいですか?と聞いた。
「袋。大きいやつ。」
と言われた。会話が成立しない。が、奇跡的に正解だったのだと信じて袋を用意した。馬鹿な私の脳裏にはある疑問が浮かんでしまった。たった一つのタバコを袋に入れて持ち帰る人はあまりいない。だとすれば、別の用途でこの袋を使うのかもしれない。「大きい袋」を要求しているのだ、タバコだったらポケットに入れればいい話じゃないか。そこで私は「袋にお入れしてもよろしいですか?」
と聞いた。ほとんどヤケクソだ。
途端
「早く入れてよ!!!!!!!」
店内が静まり返るほどの怒鳴り声だ。私は一瞬固まったが慌てて大きな袋にたった一つのクールマイルドを放り込んだ。
そいつは私から袋をありったけの力でひったくると、足早に店を出て行った。
こんな理不尽があっていいのか?
これは対人のコミュニケーションではない。
新人だから?私の察する能力が低すぎる?仕事ができなすぎる?
周りから向けられる視線。私は「使えない新人店員」から、「怒鳴られた使えない新人店員」へと肩書きが変わってしまった。
私はウィダーインゼリーを並べながら泣いた。
(続く)
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