店長と私 #03 勤務開始

その日私は、無心で品物を並べていた。ドラッグストアで養った知識、以前働いていたコンビニで養った知識、総動員して入荷した品物を並べ、フェイスアップ(品物を陳列棚の手前に引き出し、お客様が取り出しやすく、見やすくするようにする業務)に勤めていた。
本当はレジを打っているあーさんの横に立って作業を眺めたい。10分でいい。そしたら全部思い出す。しかしこの混み合った店内で、1人がぼさっとレジの横に立っていたら、「神様」に怒鳴られるに違いない。私は知っている。コンビニに訪れる神様はとても気が短い。

私はレジにできた列を一瞥し、またフェイスアップに戻った。その時、頭上からオーナーの爺さんの声が降ってきた。

「ちょっと、レジ行ってくれる?列できてるじゃないか」

私は一瞬固まった。
しかし考えるより先に体はレジの方向へ動く。昔からそうだ。
「言い訳するな」と怒られたあの日から。
言い訳じゃない、正当な「理由」だろうが。
そう言えなかったあの日から。
私は「できない」「やらない」「無理」「私のせいじゃない」「でも」「だって」この言葉を言わなければならない状況に直面した時、思考が停止する。
説明することをしばしば放棄し、結局失敗する。

私はレジに立つと頭が真っ白になった。客が持っているのはたった一本のジュース。
バーコードをスキャンする。ここまではわかる。さて、どうすればレジスターの金庫は開くのだろう。このボタンはなんだろう?とりあえず難しい操作じゃないはずだ、落ち着いて。

適当にそれっぽいボタンを押すと、耳障りな「ピー」という警告音とともに、画面に自分の操作が誤っているという旨の文言が表示された。

私は焦り、全身から汗が吹き出すのを感じた。客は「ああ、新人なんだな」という顔でこちらをみている。顔が赤くなる。こんなに目の前が真っ暗になったのはポケモンで四天王と戦った時以来だ。

私はもう一つのレジで対応をしているあーさんの元へ走った。

「あーさん、すみません、これ、品物売った後どれ押せばいいんですか?」

「客層押して」

あーさんの顔が、「経験あるって言ってたのは嘘?」って言っているような気がした。
私は「客層」という言葉で全てを思い出し、そこからは比較的スムーズにレジを打っていった。

そう、レジ袋が有料ということを知るまでは。

(続く)

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