見出し画像

初オフ 戦神白虎


前日。知らない世界へと足を踏み入れることを決めてから幾許かの月日が経ち、ついに眼前に迫っていた。時刻はまだ日付を超えない頃。いつもならあり得ない時間にも関わらず自らの城は暗く佇んでいた。なかなか沈まぬ眼に焦りを覚えつつ、待ち望んでいたはずの明日という日に希望を抱きながらこの文章を書き留めておく。

当日。学校に行っていた時と同時刻に起床し、今日の段取りを確認する。本日の目的地は大阪は難波。『戦神白虎』というスマブラのオフライン対戦会へ向かう。県外に遊びに行くという試みは、和歌山在住の田舎者からすればあまりにもハードルが高い。せいぜい泉南のイオンに家族と車で来るぐらいだ。
とはいえ、別に一人で行くというわけでもない。一年と少し前から繋がりのあるオフ慣れした二人の男と同じ境遇の男一人とだ。もっとも、顔も知らないネットでの関わりだけの人たちである。「ネットで知り合った人と会ってはいけません」という守られることが少ない教訓はあるが、当方ムサくて金もそこまでない陰キャのため、身の危険は少ないだろう。まあ親には「学校の友達と遊びに行く」と嘘をついてはいるんだが。朝早くから起きて晩飯まで向こうで食べてくるってちょっと無理があるんじゃないか。多分何かしら嘘ついてるのはバレてる。計画性に定評のある(ない)自分にしては雑過ぎる。

難波駅へは最寄りから県内での乗り換え後、一本で着く。足元の悪い空模様だったため、親が乗り換えるはずの駅まで送ってくれることになった。感謝。県境を超えるのはこんなにも容易いのかと田舎者丸出しの感想しか出ないことに恥じらいを感じつつ、予定の電車に間に合わない時刻に家を出た。…は?

まずいまずいまずいまずい。雨が降っているせいか、交通量がいつもより多く道路は車でごった返している。絶対間に合わない。交通費を浮かしたかったが仕方ない。最寄りの駅で車を降りることにした。
間に合った。間に合いはしたが、通勤通学ラッシュに巻き込まれてしまった。加齢臭と香水の混ざった最悪な匂いを醸し出すおばさんや見たことのない制服の女子高生たちの間に体をねじ込ませ、たった二両編成の息苦しい電車は難波駅に続いている和歌山市駅へと舵を取った。そして僅か五分ほどの乗車時間のうちに電車酔いをした。

耐えた。電車から降りて新鮮な空気を吸いながら、乗り換えが必要で本当に良かった、あと三十分早く起きておけば満員電車に乗らずに済んだかもしれない、集合は昼なんだから行く時間を遅らせるべきだったかもしれない、などと色々考えたものの気分が優れることはなかった。千鳥足一歩手前の足は自然とトイレに向かい、便座に腰を下ろす。とりあえず排便。腸が動けば胃も動く。逆流の兆候が見え、便器に向ける穴を変更し、その時を待つ。…出ん。何度か来たものの、出てこなかった。もう電車を二本も逃している。次の電車を逃すと三十分の待ち時間をこの体調と過ごす羽目になると考え、乗客を待ち受けている難波行きと思われる電車に飛び乗った。一応駅員さんに聞いてみる。指定席と一般車は繋がっていないから一旦降りて一個前の車両に乗ってくださいとのこと。言う通りに一個前の車両に乗った。座席はほぼ空いておらず、間隔を取った女の人の間に座るしかなさそうだ…女の人?俺を凝視している?これ女性専用車両じゃないのか?

指定席の駅員に心のなかで罵詈雑言を浴びせつつ、普通車の座席に座ることができた。また酔って途中下車しないように気分転換が必要だ。ノイズキャンセリングのよく効いたイヤホンから、唯一聴覚を刺激するのはSuperflyの『Beautiful』。素晴らしく自己肯定感を高めてくれる、最近プレイリストに追加したマイブームの曲だ。次第に元気になっていくと気づいたことがある。今座っているのは優先座席じゃないのかと。優先席は何かと議論されがちだが、空いているなら座ればいい、そもそも体調が悪いからという言い訳をして座り続けることにした。傍から見ればイヤホンつけて何食わぬ顔で座ってる迷惑な若者だが、致し方ないということにしてほしい。そんなことを思っていたら大阪に入ったらしく、徐々に人が乗ってきた。苛まれる。

次第に多くなる人にまたもや酔いを感じつつ、ついに難波に到着した。時刻は10時を超えた頃、集合まで時間があったのでなんば駅周辺を散策してみることにした。地図も見ずになんばCITY、なんばパークス、外に出て質の悪い油の匂いがする通りを歩いていると同じ初オフで同学年、受験を終えて一年間封印したスマブラを味わいに来たサムス使いの男と合流をすることとなった。残りの二人の内の一方、レート1700超え青色マリオ使いの男は目の前で電車に置いていかれるバカをかましたらしく、もう片方のスティ…ロイ使いの男はあえて遅らせてくるとのこと。どういうこと?

なにかとトラブルはあったものの、昼食を予定していた油そば専門店、きりん寺にサムス使いの男と合流することができた。受験のせいであまり絡みがなかったが、彼がコミュ強だったおかげで話はそれなりに弾み、夏休みに一度スイッチの封印を解き、レート1800に到達したという話も聞けた。強すぎだろ。しばらくするとロイ使いの男も合流。近くでタバコを吸っていたらしい(?????)。直にもう一人の問題児もちゃんと走ってきた。申し訳ねぇ〜! 無事全員集合し、そのままきりん寺の開店を待つ。先客と思わしき人がおり、きりん寺の列ですか?と尋ねていたのだが後に聞けば今日の戦神白虎の担当、つばすわさんだったらしい。世間は狭い。

人生初の油そばに前々からビビっていたが、なんとロイ使いの男が全員分奢ってくれることとなった。正直後半のほうは油が回ってきつかったが、奢ってもらった手前残すわけにもいかず根性で食い切った。不思議なもので、ラスト一口はそれまでの苦しさを忘れて、むしろ名残惜しささえ感じていた。このあたりはエナジードリンクを一気飲みしたときと似ている。どうか腹を壊さないでくれと神様に一生に一度のお願いをしながら、ついに本日のメインイベント、戦神白虎へと足を進めた。

戦神白虎は雑居ビルの四階のNamba Gardenというレンタルゲーミングスペースで行われている平日大会で、休日にはビギナー向けの灰神楽(はいかぐら)、さらに初心者に向けた雛囃子(ひなばやし)、実力制限なしの鬼灯火(ほおづき)なども開催している大阪を代表するオフスマブラ会場だ。室内には何枚ものモニターにスイッチが既に接続されており、人さえいればいつでも対戦ができるように環境が整っていた。参加費の700円を払い、名札を書く。自分の字があまりにも下手すぎて引いてしまった。ひらがな練習ドリル買おうかな。

会場内には既に何人かプレイヤーがおり、フリーをしていたりソファで仮眠を取っている人もいた。おそらく常連の人なんだろう。自分たち四人がやってきたからかは定かではないが、本格的にフリー対戦が開始した。初戦はまさかの指紋。身内でありながら対戦はほぼしたことがなく、記憶の中では一、二回だったはず。レート1800という圧もかけてき(やがっ)たので是非初見殺しでメンタルを壊したいと思ってはいたが、数戦で完全に対応されてしまった。南無。

その次はインクリング使い。Twitterを見ると大阪旅行中で初オフだったらしい。惜しいところまではいけるが最後まで取り切れないことが多く、拒否能力の高さと決め切りがうまい、同時に決定打に欠けるキャラだと感じた。俺だったら辞めてる。すごい。

その後、のびた、かってぃーとも当たり、ちゃんとパキられた。のびたには一回プリン出されて発狂しそうになったけど。かってぃーはパックンを多めに出され、テクニックを盗めと言わんばかりにamiibo育成のごとく棘球をぶつけられたが、なんの成果も得られませんでした。もう本格的にサブキャラにしたらどうですか。シュルク、シーク、ベヨ、マックにいけるし。ゲッチ、ホムヒカ、クラウドにもいけるらしいし。どう?

何人かのプレイヤーと戦って二つ気づいたことがある。交代までの時間が想像以上に短いこと。普段は身内のウルフ使いと数時間単位でやっているせいか感覚がバグっていた。もう一つはセフィロスが強いということだ。バンカズ使いの方(ボコボコにされた)とルキナ使いの方(ボコボコにされた)にはほぼ全ての試合でセフィロスを出し、一度挫折してろくに空後も出ないほど落ちぶれたはずの片翼は間違いなくパックンよりも活躍をしてくれた。
…というよりも、崖狩りをまともにできない俺のパックンが悪い説は大いにある。まともに活躍したのは最後に対戦したカズヤ使い?の人が出してきたクッパに二タテしたくらいだった。パックンクッパはクッパ側がパックンを知らないと対戦にならないから相性差。ちなみにカズヤにはちゃんとボコられたしセフィロスならそこそこに勝てた。このキャラ最強じゃん(標準語)。色んな人とスマブラをしているとあっという間に終了の時間となった。ごめん嘘。最後は疲れて「あ、やっと終わりか」状態。ここ一ヶ月実質ニートだった人にはかなり堪えた。


オフ終わりはみんなお待ちかね晩飯の時間。予約していた焼肉店で受験お疲れ様会が開かれた。俺推薦だからそんなに苦労してないけど。ありがたく頂いた。のびたとかってぃーはイケメンで優しい。ってつぶやいとけって言われたからここに残しておこう。ごちそうさまでした。
それはそうと男子高校生と一般男性の食欲舐めてた。少食なのは自覚してたけど二倍近く食うほどとは思わなかった。普通にエグい。

時刻は八時。帰宅までの時間的にもう開きということになった。乗る電車が違う者、タバコを吸ってから帰る者、うんこしてから帰る者…ここでオフは終了となった。今日は疲れた。帰って寝よう。おやすみなさい。

この文章は翌日、翌々日にかけて書いているが股関節と腕の付け根が筋肉痛で日頃の運動不足のツケがきて堪えている。交通量往復2000円、白虎代700円、本来であれば飯代とそれなりに出費がかさむためしょっちゅう行くことはできないが、今後もオフに行きたいと思えるほどに充実した一日を過ごせた。今度は大型大会などのアツい競技としてのスマブラを体感してみたい。そんな前向きな心情を残しつつこの文章を締めくくりたいと思う。同行してくれた三人に感謝。戦神白虎で関わってくれた全ての人に感謝。ここまで読んでくれた人に感謝。ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?