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第3戦のクラッシュによる定年制とマシンカテゴリー変更の検討


初めに

先週開催されたSUPERGT第3戦鈴鹿450kmにて痛ましいクラッシュが発生した。

59周目、23号車をドライブする松田次生選手と87号車をドライブする松浦孝亮選手が130Rの立ち上がりから日立アステモシケインにかけての位置で交錯。
両車は激しいクラッシュによってモノコックがむき出しになりコース周辺に砕けたパーツが散乱するほどであった。

今回、Facebookを閲覧していた際に発見したとある投稿に気になるものがあった。

それが「定年制とマシンカテゴリー変更」についてだ。

本記事は23号車の87号車によるクラッシュから「定年制とマシンカテゴリー変更」について考える。

クラッシュの詳細

6月4日、SUPERGT第3戦の決勝は58周目まで特にこれといった事象はなく、順調に進んでいった。
59周目、5位走行中だった23号車は背後に100号車、前方に1号車と共に周回を重ねており、各車4位を争う形であった。
既にGT300クラス車両と混走しており、各車は本大会規定である2回の給油義務を果たしつつであった。

スプーンコーナーにおいて、1号車の前方を走っていた300クラスの87号車と30号車が現れる。

87号車と30号車は130R立ち上がりでサイドバイサイドで並ぶ。
23号車はこの争いの最中に抜きにかかる。
この際、30号車は87号車と23号車の間に挟まれる形になっており、クラッシュの直前、23号車が加速し2台の前に出ようとしたところ、23号車の右後ろと30号車の左前が接触。
23号車が接触の衝撃によって車体が横向きになり87号車と接触。
両車は日立アステモシケイン手前のエスケープエンドの壁に激突し、23号車はモノコックが完全にむき出しになりエンジンが脱落、87号車はタイヤが脱落しマシンの形をかろうじて残した。

そして、それぞれと接触した際、23号車はマシンが背中を向け、ダウンフォースが完全に抜けた状態となりディフューザーから空気が入り込んでしまい、マシンが浮き上がって激しいクラッシュとなった。

このクラッシュにより本大会は59周目で赤旗終了。現在300クラスの正式結果が出ているものの500クラスに至ってはいまだに暫定結果のみが発表されている段階である。

また、23号車をドライブしていた松田選手は搬送時意識がある状態で、一時ICUに入院するほどであったが、クラッシュの2日後SNSを更新。
特にこれといった外傷はなく、現在一般病棟にて入院をしている。
87号車をドライブしていた松浦選手も同様に外傷はないとの報告がなされていている。

Facebookで見つけたとある投稿

「初めに」のところで触れたとある投稿について。

今回のクラッシュについて、過去にSUPERGTのドライバーを務めた竹内浩典氏の投稿が話題を呼んだ。

軽く要約すると、「ドライバー自身の加齢による事故である。加齢による判断ミスや自身の加齢を周りに認められたくないことから事故が発生する。GT500は40歳、GT300は50歳で定年を迎え卒業する定年制が必要になってくる。また、定年制の制定が無理ならばマシンを変更し、GT500はGT3、GT300はGT4を来年から採用すべき。」
とのことである。

竹内氏はこの投稿からも読み取れる様、SUPERGTを計15年戦ったベテランである。
セルモに長年所属しており、自身が代表を務めるシフトでもSUPERGT復帰をした過去をお持ちである。

竹内氏のFacebookの投稿①


竹内氏のFacebookの投稿②

定年制について

竹内氏の投稿にあった項目を一つずつ見ていく。

この投稿では「自身の加齢による焦りから来た事故である」
と触れていることから定年制の導入について語られている。

まず、松田選手の年齢に触れ、現在のGT500のスピードについていくのが精一杯で、自分が若かった時と同じように走ることが難しい。
竹内氏は、「自分が現役の頃はコクピット内は高温で相当な体力を必要としていた。若い時のように早く走ることが難しくなり、GT300のバトルを若い時は一度待ってから抜くことができたが、老いた今では早く走れないから焦って待つことが出来なくなった。」
と振り返っている。

そして、加齢の恐ろしさについても語っており、
「ステアリングを切るタイミングやスライドした時の反応の遅れ、カウンターを当てる量の増加など。若いときは燃料が多くてもタイヤのグリップを使わなくても早く走れたものの、老いた今はグリップを使ってでもタイムを維持することが困難なため中盤以降グリップが低下し苦しくなる」
「短い周回数なら気合と経験値で何とかできるが、周回数が増えるにつれ体力が減り集中力が保てなくなることで細かいミスが増え、タイムが後退していく。後退していくと段々焦り始め、無理を強いることになる。無理をすることで他車との接触したり事故を起こしたりしてしまう。」
と記している。

確かにモータースポーツに限らず、どのようなスポーツにおいても加齢というのはつきものである。
体力は無限ではないし、身体もボロが出始める。
モータースポーツは高速域を抜きつ抜かれつを繰り返すスポーツである。
SUPERGTではそこに別クラスが同居して走る。
そこには高い集中力と体力、判断力が必要である。
また、視力も十分になければならない。
40歳を過ぎてから、体力と視力は一気に減少するというのをよく聞くと思うが、維持することは難しいと思われる。

昨シーズン、松田選手は「GTAドライビング ・ モラルハザード防止制度」による累積ポイントを多く貯めてしまい、第6戦時点で累積6点となってしまい第7戦における公式練習の1時間の参加禁止と4グリッド降格という痛い経験がある。

また、危険な走行をしてしまうことも多々あり、竹内氏が触れた事象が松田選手自身に起き始めているのではないかと。

実際、松田選手を含めGT500で40歳を超えているドライバーは4名。
30代が主戦場となっている。
GT300では25名と一番多い。

定年制はある意味、賛成ではある。
しかし、SUPERGTを離れていった高齢ドライバーはどうなっていくだろうか。
日本ではスーパー耐久への移行がメインとなっている。
スーパー耐久の規定では「満35歳以上のドライバーはジェントルマンドライバーと定義する」とされており、「チームに1人以上のジェントルマンドライバーの採用を義務付ける」といったルールとなっている。

また、ドライバー自身のモチベーション低下を招く可能性があるのではないだろうか。
定年が近づくにつれ、チームからお払い箱扱いを受けてしまったり、「自分はもうそろそろ定年だし・・・。」と戦意喪失してしまうことがあるかもしれない。
チームがサポートをすれば解決するだろうが、SUPERGTを去った後のドライバー人生に大きな影響を与えかねない。
定年まで戦意を維持できる工夫も同時に検討しなければならない問題である。

定年後の道を整備するのもそうだが、後輩の育成も問題になる。

トヨタやホンダは若いドライバーや勢いのあるドライバーを多く抱えてるし、海外進出も後押ししている。
しかし、日産の場合どうか。
NDDPというシステムはあるが、海外進出を後押しできるほどの海外のカテゴリーに参戦しているわけでもないし、若いドライバーや勢いのあるドライバーはそこまで誰がいいよとかは聞かない。

これらのことから、年齢による引退、定年制は難しいと考える。

マシンカテゴリーの変更

次にマシンカテゴリーの変更である。

竹内氏は「定年制を設けられないのならマシンスピードを落とすしかない」と記している。
その中で「GT500はFIA GT3、GT300はGT4」と明記されている。

私は反対だ。

ドライバーの延命処置そして挙げられているのだが、これはSUPERGT存続の危機に直面してしまうのではなかろうか。

「GTワールドチャレンジ・アジア」と呼ばれるGTワールドチャレンジシリーズの中にあるアジアラウンドを束ねるカテゴリーが存在する。

もし、GT3とGT4に変更してしまったら、GTワールドチャレンジ・アジアと扱うマシンが全く同じになってしまう。

そうなった場合、ドライバーの流出は避けられない。

マシンが同じなら、同じカテゴリーは2つもいらないとなってしまえば、海外ラウンドも戦えるGTワールドチャレンジに軍配が上がり、SUPERGTは消滅してしまうだろう。

また、GT500は3メーカーによる熾烈な開発競争、GT300はFIA GT3・JAF GT・マザーシャシーの3規程マシンのレースが魅力的である。
この戦いを楽しみにしているファンも多い。
現在では開催していないが、海外ラウンドの復活も協議中であり様々な試みがなされている。

GT500はJGTC時代より熾烈な開発競争を常に演じている。
RC FやSC430、スカイラインGT-RやZ33、NSXやHSVなど様々なマシンを投入しては勝利を獲得してきた。
来年にはNSX Type Sに変わりFL5型シビックが投入される予定だ。
SUPERGTにおける技術を市販車にフィードバックしたものもある。
R35 GT-Rのフロントタイヤ部分のエアーアウトレットが2020年モデルのNISMO仕様車に装着されることとなった経歴がある。

ただ、実際に日本のGT4マシンは潤沢に揃っているものの、GT3に至っては十数年間も同じシャシーを使っているため新規のマシンは登場していない。
そのため、新たなGT3マシンの開発という面ではGT3規程をGT500に採用するというのは合点が行く。
(現在はトヨタが新たなGT3マシンの開発を行っている。)

しかし、日本独自の開発競争というのは、海外のカテゴリーから見れば珍しいことだ。
海外の場合はメーカーからGT3マシンを供給されるも、メーカーからマシンの改造はしてはいけないと締め付けがある。(日本もしかり)
そうなると、開発競争が激しい方へと目線は向く。

また、タイヤの開発競争も激しい。
SUPERGTではミシュラン(今シーズンでGT500から撤退予定)、ダンロップ、ブリヂストン、ヨコハマ/アドバンの4メーカーが在居する。
海外の場合、1メーカーによる独占状態は大体だ。(F1のピレリやフォーミュラEのハンコックなど)
各タイヤメーカーの開発競争はマシンの開発競争以上だ。
SUPERGT専用のタイヤを持ち込むこともある。

つまり、マシンのカテゴリー変更はマシンメーカー、タイヤメーカーの開発競争が減速してしまう要因になりかねない。

開発競争が減速してしまうとカテゴリーの衰退を招きかねない。

まとめ

今回の竹内氏の投稿は賛否両論を巻き込んでいる。
年齢で決めるのは反対だとかマシンカテゴリーを変えるのは賛成だとか。

私の場合、ドライバー問題は若手育成が十二分に整備されているのなら問題ないがメーカーによってバラバラ。
また、GT引退後の道の整備もそこまで整備はされていない。
マシンカテゴリーの変更問題はマシン・タイヤの開発という面で、停滞を招きかねない。

つまり、レギュレーションの改定が重要になってきているということだ。

昨年の3号車のクラッシュから赤旗後の規定が変更になったが、今回の23号車のクラッシュでも規定変更がありえそうだ。

全体的なレギュレーションの見直しによって、どのような年齢であろうが自身の身体が許す限り走り続けることは可能である。

第3戦の正式結果は今だ発表されてはいないが、今は松田選手が無事であったことに注目しよう。

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