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山奥ニート日記04/09~10 名古屋へ

04/09
みんなで『かぐや姫の物語』を見た。
僕の妻が珍しく涙を流していた映画だ。
活発だった主人公が、社会のルールに縛られて笑顔を失っていくのに、思うところあるんだろう。
一緒に見たももこさんは「私は女だけど、あんなにちやほやされたことない…」という感想を話していた。
間違いなくジェンダー問題を扱った作品なんだけど、かぐや姫自身は最後「私今まで何してたんだろう」と反省するように、男にも女にも厳しい話だよね。
僕は、この作品を見ると怖くなる。
生命力に溢れているから。
子供が縁側から落ちそうになったときの、おばあさんの鬼気迫るダッシュ。
怖い。
生きてるって気持ち悪いよね。
瓶詰めの脳にしてくれ、と僕はいつも言っている。

04/10
僕の妻は名古屋で会社員をしている。
このコロナ禍の中、一人暮らしは心細いだろうと思い、山を降りて助けに行くことにした。
生活リズムが狂っているので、1時間ほど仮眠しただけで、朝6時の住民バスに乗る。このバスは予約制で、電話したときだけ運行する。お客はいつも僕一人。いつもは地元の人との少ない交流の機会だと思って、道中に運転手さんと話をするんだけど「こんな時期に大変ですね」と言われてから、話す気がなくなってそれ以降は返事だけする。単純に、寝不足と車酔いで吐きそうになっていたのもある。

朝7時、鮎川に到着。ここは僕らが住む場所における、一番近い町だ。
時刻表を見ると、乗り継ぎの路線バスは1時間待たなくてはいけないとわかった。コートを着てくるんだった。天気はよかったが、川のそばなので風が強い。4月なのに凍える思いをするとは。

山奥とは違う、開けた川を眺めながら、本当にこのタイミングで名古屋に行くことは正しいのだろうかと自問自答する。
途中、大阪を通ることになる。そこでウイルスを拾って妻に移してしまうんじゃないか。
それに、一旦名古屋に行ったら、山奥に戻るときにまたリスクがある。
共生舎では、短期滞在者の受け入れをしばらく中止することにした。
なのに僕が都会と往復していては意味がない。
心配しすぎなんだろうか。それとも、もっと心配するべきなのか。
わからないまま、路線バスが到着した。
「バスが来ましたよ」と途中から一緒に待っていたおばさんに声をかけられた。その一言で、とりあえず紀伊田辺駅までは行ってみることにする。

路線バスに乗って驚いた。
この時間はいつも、座ることなんかできないのに。
客は僕をのぞいて3~4人しかいなかった。
通学の高校生と、外国人観光客がいないからだ。
このバスは、世界遺産である熊野古道に繋がっている。
紀伊田辺駅に到着した後、いつものように大阪までの高速バスのチケットを買おうとする。しかし、買えなかった。
高速バスは全面休止していた。窓口には真っ赤な紙で、運休と書いてあった。
僕が思っているより、日本は大変なことになってるのかもしれない。
駅に行くと、あと3分で電車が出るところだった。
迷っている時間はない。
後ろ髪を引かれる思いで、乗り込んだ。

大阪駅は、人がいつもの半分ほどだった。
人の接触を8割減らしてください、と安倍総理は言ったけど、その「お願い」を律儀に聞く日本人は凄い。
と、感心しかけた瞬間、駅員の足元にわざとつばを吐く中年男性がいた。
さすが大阪。

まったく寄り道せずに、妻の待つ名古屋に着いた。
妻はテレビを持っておらず、ニュースも見ていないため、新型コロナの話もピンときていないようだった。
まぁでもとにかく、僕が来たことは喜んでくれた。
5月までは、名古屋で過ごすと思う。

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