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和菓子屋のショウウィンドウの話。


みなさんこんにちは!山野靖博です!


神保町さゝまさんのショウウィンドウ

大学入学に合わせて東京に出てきてから、つまり実家の外に出てからどれくらい経ったろうと計算してみるとじつに17年という時間が流れたことに気づく。18で山梨から上京してきたのだから、もうすぐ人生の半分を東京で暮らしたことになる。

そこから先は当然、このまま東京に居続ければ東京での時間が実家で家族と過ごした時間を上回るのだからそう考えると少し感傷的な、なんとも言えない気持ちになる。

東京での賃貸暮らしだから、当然のように僕の住む部屋には床の間もなければ仏壇もないし神棚もない。いや、そういった事柄を大事になさる習慣がある方なら当然そんなことはないのだろうが、僕はどうにも信心や先祖のことには無頓着でここまできてしまったのでそんな有様だ。


実家で暮らした時期を考えてみると、我が家も別段細やかに床の間を飾るようなことはない家だったが、それでも仏壇には花があって、季節の果物なんかが折々供えられていた。

この、季節の花や果物が家の中にあるという状態を維持するというのは、じつは意外と難しい。特に、現代的な都会の暮らしになると尚更だ。果物も季節の野菜もだんだんと値段が上がっているから簡単な気持ちでは買えない。花にしても飾る場所を維持するのも大変で、忙しい日々のなかいつのまにか雑多な空間に成り果てている。

そんなあくせくと余裕のない生活の中でもありがたいのは、菓子屋の店先だ。上の写真は神保町駅から歩いてすぐ、駿河台にあるさゝまという店のショウウィンドウだが、いつも季節を感じさせる花とお菓子が飾られている。

赤坂にある塩野のショウウィンドウも好きだ。時期や行事にあわせた香合、皿などの取り合わせで、シンプルにその時分を寿ぐような飾り付けをしてくれている。

菓子屋に通うのは僕の日課のようなものなので自分で苦労をすることもなく季節を感じられる。和菓子は値段も手頃で、たとえばさゝまなんかだと手の込んだ上生菓子がひとつ300円台で買える。場合によっては、菓子を買わずとも店の前を通るだけでもいいのだ。ショウウィンドウを眺めるのに代金はいらない。


人によって、なにを大切にして日々を過ごすかは違う。そこに優劣もないし、それぞれを比較する必要もない。

僕は山梨という田舎の土地に育ったせいか、あるいは花や草木を見るのが好きな母の手で育てられたせいか、季節の移ろいにアンテナを張って生活するようなやり方が好きだ。花鳥風月というと上品すぎるけれど、田んぼに囲まれた平屋に暮らす夏の夜のカエルの合唱がうるさくて眠れなかった記憶とか、甲府盆地をぐるりと囲む山々の冬の晴れた日の深い深い蒼のグラデーションの景色とか、そういったものが成長の節目節目の傍らに自然とあった。

都会には田舎ほど微妙なグラデーションのある季節は存在しないかもしれないが、でもビルの谷間にもコンクリートの隙間にも春になればたんぽぽが咲き、秋になれば秋風は吹く。こちらが新しい季節の到来を待ち侘びて目を凝らしていれば、そこかしこに季節の訪れを感じることはできる。

菓子屋のショウウィンドウというのは、そういうタイプの人間にとっての頼り甲斐のある案内役みたいなものだ。



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