「DEVIL」終演のご報告。
昨日、Musical「DEVIL」Japanプレビューコンサートが無事に終演いたしました。
ご来場いただきました皆様、応援くださいました皆様、そして3回の配信をご視聴くださいました皆様、本当にありがとうございました。
韓国で2014年に初演されその後も高い人気を誇るこの作品ですが、韓国発のミュージカルの知識に暗い僕はお話をいただいたときに初めてその存在を知りました。
「ゲーテの書いたファウストを原作とし、音楽面で高い評価を得ている」という触れ込みに非常に興味を掻き立てられたことを覚えています。
「ファウスト博士伝説」はゲーテがその物語を書いた以前から類似の物語がヨーロッパで語られ、16世紀末に活字化されています。そしてゲーテのファウストが出版されたのが19世紀の前半。
当然、これらの「ファウスト」はその舞台を当時の社会や価値観に依存しているわけですが、今回僕が携わった「DEVIL」では20世紀のニューヨークに時と場所を移しました。
物語の冒頭は1987年のウォール街。金融と証券の世界で仕事をするジョン・ファウスト(ファウスト博士伝説のモデルとなったヨハン・ファウストの英語読み。ヨハンは錬金術師でもあった)が、ブラックマンデーに遭遇することで彼の人生は急展開を迎えます。
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古典的な題材を現代を舞台に翻案し、人間の持つ欲について、善と悪について、信仰について、愛についてという普遍的なテーマを炙り出していく作品だと思いました。
それを、単なる小難しい教訓譚にしてしまうのではなく、ハードでゴージャスなロックチューンと、美しい和音進行とメロディを持ったクラシカルナンバーという2種の音楽でエンタメとして昇華させているところがこの作品の魅力だと感じています。
作品の中で扱われているモチーフが「キリスト教」と「株取引」という、理解のためにはそれぞれに膨大な知識と経験が必要なものだったため、稽古場での作品の読み解きと掘り下げにはかなり時間がかかりましたが(笑)、その「難しさ」を飛び越えてしまえるほどに力強い音楽のエネルギーがあります。
今回の日本バージョンの出演者はわずか9人。
4人が主要な役を演じ(ジョン、グレッチェン、X-BLACK、X-WHITE)、1人はダンサー、そして4人がコーラスを担当しました。僕は、コーラスとして参加しました。
それよりなにより、韓国版の本編ではフルバンドと弦楽器の編成で演奏される「DEVIL」の楽曲ですが今回はなんと「ピアノとドラム」という2名の編成での演奏でした。わお。シンプルでありながら、かなり攻めた編成です。
エレキギターやエレキベースやシンセサイザーといった音色を操作できる楽器を用いずに、アコースティックなグランドピアノとドラムという音の構成のみでロックナンバーをやってみようというのは、非常に高い技術と集中力を要するチャレンジでした。
コーラスにしても、韓国版だと6人(ぐらいいたと思う)で歌っているものを4人、つまりソプラノ・アルト・テノール・バスの1人1パート編成で歌唱しましたので、ここもなかなかにハードルの高いチャレンジだったと思います。
今回僕はコーラスでの参加と並行して、歌唱指導としても参加しておりました。
錚々たる顔ぶれの出演者に僕がなにをお伝えできるのかと不安もありましたが、みなさん快く僕の意見に耳を傾けてくださって本当にありがたかったです。
台本と楽譜を照らし合わせてその場面の音楽が何を語りたがっているのかを僕なりの経験と視点で読み解き、その上でじっさいに役を演じられる俳優さんがそのシーンをどのように表現したいのかを探り、よりより着地点をすり合わせていく仕事はとてもエキサイティングで面白かったです。
演出の広崎うらんさんともたくさんのことを相談し、どうやったら演出が目指している風景を音楽の面で出現させられるのかを追い求める日々でした。
歌唱指導といってもその仕事の範囲は多岐にわたっていて、いち出演者としてミュージカルに携わっていたこれまでの僕には見えていなかった事柄もたくさん知ることができました。
新しいチャレンジをしてみた結果、自分にできること・得意なことを客観的に認識することができましたし、もちろん同時にできないこと・苦手なこと・学ぶべきことも山のように見つかりました。
この機会を与えてくださったプロデューサーさん、製作の方々はじめ、すべての方に感謝いたします。
また特に、共にコーラスを担当してくれた3人にはこの場を借りて感謝を伝えたいです。
元々のコーラス人数よりも少ないメンバーで歌うということは、元々想定されていたハーモニーの積みを今回バージョンに合わせて最適化させなければいけないということです。
また、それぞれ異なるバックボーンを持っているため発声のアプローチも違いますし、そもそもそれぞれの身体の特性が違うため持っている声のキャラクターも違います。
コーラスとして大人数、たとえば各パート3人の計12人とかそれ以上を確保できれば、声の特性をブレンドさせた上で目指せる表現も多岐に渡りますが、今回はまずそれぞれに個性の立った4人の声をどう合わせていくかに試行錯誤が必要でした。
舞台稽古になっても、ゲネプロのギリギリになっても、「こう歌ってみよう」「ここのパートを入れ替えてみよう」「発声をこう変えてみよう」という僕の提案に対してポジティブにチャレンジをしてくれたこのメンバーには頭が上がりません。
僕の経験が豊かで、一発で最適解が見抜ければいいんだけどどうにもそこには届かず、彼らの前向きさに救われました。本当にありがとう!
右から、馬場亮成さん、木村つかささん、町屋美咲さん、そして山野。
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僕個人としても、これまでの作品ではコーラスを担当するメンバーが多かったため、低音に特化したアプローチでの歌唱で役割を果たすことができていました。
けれど今回の1人1パートでは、今まで通り低音の輪郭をしっかり立てる歌唱法ではコーラスとしてのブレンドが成立しない場面もたくさんあり、「低音でありながらもブレンドする声」というのを模索する時間が長かったです。
同時に、いままでだったら高い音が得意な方に任せてしまえたような場面でも、僕が自分の得意な音域よりも2〜3度高い音まで歌う必要があったりと、そんな個人的挑戦もたくさんありました。
正直言って、これまで高い音の品質をあげることからちょっと逃げていた部分もあるので、これを機会に高音のアプローチをより進化させていこうと考えています。その糸口も見えた気がするし。ぜひ期待していてください。
出演者としてもスタッフワークとしても大きな学びが満載だった「DEVIL」の現場でした。
あっきーさんと遼生さんと再び共演することができたのも非常に嬉しかったですし、コンパクトなカンパニーだったからこそはじめましての村井さんと雅原さんとも綿密にコミュニケーションが取れたことも嬉しかったです。
生きていくとは何なのか。
人類の、文化芸術にとっての永遠のテーマだと思います。あるいは、政治でも、医学でも、教育でも、飲食業でも、どんな職業や生き方をしていても「我々はどのように生きていくべきなのか」という問いはどこか本質のところで共通していくはずです。
僕自身は「楽しく、軽やかに」生きていきたいと思っておりますが、ジョンの人生、グレッチェンの人生、そしてご覧くださった皆様の人生それぞれに、美しい瞬間がいくつもいくつも積み重なっていけばいいなと願います。
またお会いできる日まで、精進してまいります。
引き続き応援のほど、よろしくお願いいたします。
山野靖博
読んでくださってありがとうございました!サポートいただいたお金は、表現者として僕がパワーアップするためのいろいろに使わせていただきます。パフォーマンスで恩返しができますように。