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JB日記06 「美しき周縁の人たち」


ミュージカル「ジャージーボーイズ」は先日10月29日に無事、東京千穐楽の公演を終えることができました。応援やご来場、本当にありがとうございました。

このあとは大阪、博多、名古屋、秋田、そして横須賀と全国ツアーがスタートします。こちらも非常に楽しみです!


さて今日は、物語に登場する「女性」のことを考えてみたいと思います。


ジャージーボーイズという作品は実在するザ・フォーシーズンズというグループのことを扱っているからか、あるいはその物語の舞台が1960年ごろだからなのか、作品全体を通して「男っぽい」というか、「男性的」な視点が強い印象があります。

キャスティングを見ても、20人いる出演者のうち女性キャストは4人です。


物語の中には、何人もの女性キャラクターが登場します。

ニュージャージーの酒場でトミーたちの演奏を聴いているお客たち。フランキーのママ。フランキーがデートに誘おうとしたアンジェラ。ニックのガールフレンド。
フランキーの妻メアリー・デルガード。「Short Shorts」を歌ったボーカル。トミーたちとボブ・ゴーディオが出会った瞬間を目撃したウェイトレスたち。「December, 1963」のシーンのパーティーガールたち。フランキーたちとツアーをするジ・エンジェルズ。フランキーと恋に落ちるロレイン。フランキーとメアリーの娘フランシーヌ。そして、撮影現場に登場する助監督や衣装さん、タイムキーパーなど……。

特に、物語の展開上重要なのは

・フランキーの妻メアリー
・フランキーの恋人ロレイン
・フランキーの娘フランシーヌ

の3人でしょうか。

そして同時に「ジ・エンジェルズ」と「パーティーガールたち」はそれぞれに似たような性質を付与されて物語に登場します。



まずメアリーとロレインを対比してみましょう。

メアリーはフランキーたちと同じニュージャージー出身のイタリア系アメリカ人。ひとつステレオタイプ的な描写ですが物語のなかでもフランキーたちは「ファミリーを大事にする」という価値観を与えられて描かれています。

ゴッドファーザーをはじめとする、イタリア系マフィアを題材とした映画なんかでも「ファミリー」の重要性は強調されますし、じっさいのイタリアの文化も家族を大切にする印象があります。

特に、家族の中でも「マンマ(=母親)」はとても重要な人物とされます。劇中でもこんな台詞がありますよね。「俺たちの周りでは大切なことが3つある。母親に嘘はつかない、妻に本当のことは言わない、3つ目は……」

メアリーも、仕事で家を空けがちなフランキーとの関係に悩みながらもフランシーヌを含めた家族としてのつながりをなんとか維持しようとし続ける姿が印象的です。


対するロレインは、どちらかというと「自立した女性」のイメージ。

歴史に照らし合わせて考えれば、「ウーマン・リブ」と呼ばれる女性解放運動の影響を感じるような、仕事をする女性像です。メアリーは家庭を守る姿が強調されて、働いている様子は描かれませんね。

フランキーたちが大切にするファミリーとしての「鉄の絆」を、「昔なじみのしがらみ」と表現するような価値観を持っています。

洗練されたジョークを解し、強引に関係を迫ってくる男性もあしらう術も知っている。長く付き合ったフランキーと別れる時も、「今夜は泊まってってもいいから」という大人なセリフを口にできる。

強引な対比構造を作れば、メアリー=保守的女性像、ロレイン=リベラル的女性像、と言えるかもしれません。


ジ・エンジェルズやパーティーガールたちは60年代後半にアメリカに登場した、ヒッピー的なフリーセックスの影響を感じるキャラクターです。大麻やLSDなどの覚醒剤のイメージもなんとなく重なります。

といいつつも、女性として主体を取り戻しているというよりは、フォーシーズンズたちのための添え物の華のような扱いをされています。


それに対してあえて対抗軸においておいてみるとしたら、注射器での薬物過剰摂取によって死んだと暗示されるフランシーヌは、60年代的享楽の影に殺された未来と形容できるかもしれません。

60年代に若者時代をすごした人たちが自己解放のために用いた薬物を外側から体内に入れられることによって、4オクターブの歌声によって活躍できたかもしれない70年代の青春を奪われたわけですから。

ある種、文学的な言い方をすれば「60年代という親世代(フランキーたち)の犠牲者」とも言えるかもしれません。



この4種類の女性像のどれもが、物語の主役にはならず、フランキーの人生から順番に退場していき、ドラマにとっての大切な要素ではありつつ、一種のサイドストーリー的な扱いをされています。

いわば、男の物語によって周縁化とも取れるような描かれ方です。


それぞれの女性たちの人生も、きちっと深掘りしていってスポットライトを当ててみたのなら、1960年代の激動のアメリカを生き抜いた人の物語として、かなり見応えのあるものになる気がします。



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