雪に、焦がれている。
音を吸い込み、世界を静寂に包む。
空気から気温と埃を吸い取って消えていく。
雪が降る世界は静寂と美しさを作り出す。
そこは私にとって、世界で唯一の居場所のように思った。

世界が停止する、そんな世界でのみ、私の存在は許される気がする。
それはただ一つ、呼吸がしやすいというそれだけでしかないが、たったそれだけが世界という巨大なものにこのちっぽけな存在を許されたかのように錯覚する。
私は神なんぞ信じていないが世界の営みは信じていた。

冬の間だけは、生きられる。
その他は知らない。

冷たい空気は肺から呼吸をよく感じることが出来る。
冷えた空気は私の輪郭をハッキリさせつつ世界との境界と馴染ませていく。
暖炉の火が私を現世に繋ぎ止める
世界は静寂で、綺麗だ。
自らの意思で世界の、そして命の境目に立つ。
世界に許された錯覚の中で自らの命と営みを許す。
そんな冬が好きだ。

冬は不思議と、元気になる。
これも世界に許されたと錯覚する理由の一つである。
引きこもり動くことを避け続ける生活から変わって、冬だけは他の季節よりも沢山動く。
スキーに旅行に雪遊び、とにかく移動と運動が多くなる。
冬だけは、不思議と体力と気力が湧いてきて、それらが出来るようになる。
まるでじぶんが普通の人間になったかのように錯覚できる。
そうすると精神を病むことも少なくなり、そうすると冬は過ごしやすいと感じる。

世界が冷える冬が好きだ。
人の外出が減る冬が好きだ。
雪が降る冬が好きだ。
うるさくない冬が好きだ
世界を覆う雪が降る冬が好きだ。
雪が好きだ、冬が好きだ。

私は冬から出たくないのに、冬は春へと移りゆく。
冬の中へ置いていって欲しいのに、世界は私を春へ運ぶ。
容赦なく四季は回り巡る。

あぁ次々と桜の花が開いていく。
今年もまた、春が来てしまったと知る。

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