私の好きな短歌、その38

胡桃くるみの葉枝はなれ落つる音きこゆ母病みきし室にすわれば

五味保義、『一つ石』より。(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p247)

 母が亡くなったときの歌。作者はこの一首までに、老いた母との切ない介護の場面を多く詠ってきた。母が生きていた部屋にひとり座している作者。秋であり、葉が落ちる。その音に気づき一首となった。葉が枝から落ちることを生命の象徴と捉えると月並になりそうだが、それを月並みと言わせないほどの現実の力がある。落葉は象徴などではなく、葉も人も同じように生命なのだという現実である。時間が止まった部屋の外で落葉という時間が流れている。

 『一つ石』は1960年(昭和35年)刊行。刊行時作者60歳。作者生没年は1901年(明治34)ー1982年(昭和57)、享年82歳。

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