私の好きな短歌、その9

あからひく光は満てりわたつみの海をくぼめてわが船とほる

 島木赤彦、歌集『太虚集』より(『日本の詩歌 第6巻』中央公論社 p65)。

 「満州」中「二十九日大連出帆」の一首。赤彦はこの年、南満州鉄道株式会社に招かれて満州へ行った。初句と三句の枕詞が一首を古風にし、重厚なリズムを生んでいる。古代から変わらない壮大な風景があり、そのただ中を作者の乗った船が静かに進んでいく。「くぼめて」が見事。これを感受する詩心、表現する技術に脱帽。

 1923年(大正12年、48歳)作。作者生没年は1876(明治9)ー1926(大15=昭元)享年51歳。

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