私の好きな短歌、その32

かなしもよともに死なめと言ひてよるいもにかそかに白粉おしろいにほふ

 松倉米吉、『松倉米吉歌集』より。(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p193)

 作者は結核であった。一首の「妹」は恋人。共に暮らしていたわけではないが、ときおり訪ねて来ていたようだ。病気をうつしたくはないが会いたい、会えて嬉しいがうつしたくはない、という作者の揺れる気持ちが初句切れの「かなしもよ」に込められている。目の前に、ともに死のうというほどの思いを持つ女性がいても、その恋が成就することはなかった。
 全体に散らばっているi音のためだろうか、歌は悲しくとも、詠むと心地いいリズムを感じる。

 歌集は死後の1923年、大正12年に、仲間たちによって刊行された。作者生没年は1895年(明治28)ー1919年(大正8)、享年25歳。

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